第5章 来たる大学入試改革と、草の根からの教育改革

第41話 2020年に躍起になる人たち

 来たる2020年、2度目の東京オリンピックが開催される予定のこの年、センター試験開始以来の抜本的な大学受験改革が行われるという。

 その年以降(特にその前後)に大学受験を迎える若者やその親たちだけでなく、学校関係者、とりわけ学力レベルでは中位層を中心としている高等学校関係者ほど、その動きには大きな注意を払っている。私は職業柄私立高校や中高一貫校の塾対象もしくは教員対象の説明会に参加する機会が多いが、私が参加しているどの学校も危機感をもっており、その対策に余念がない。

 学校によっては、自らテーマを設定してそれに関わる事象を研究し、発表していく「探求」を学校の売り物にしているところもあるほどである。説明会などでその成果を拝見することがままあるが、どれも甲乙つけがたいほどの出来栄えである。


 詳しい内容説明はここでは避けるが、要は、これまでの知識偏重型の試験を改め、思考力や問題解決力を問う問題の割合を増やし、とりわけ、記述問題、すなわち、文章表現力を問う問題を増やすということであり、これまでのように知識を得てそれを正確に選べばよしというわけにはいかなくなるから、読む力と書く力をしっかりと養わなければいけない。一般入試でそうなのだから、推薦入試に至っては、面接や口頭試問をさらに重視し、コミュニケーション力を問う出題内容を取り入れた大学・学部も増加しているが、この入試改革はそれにさらなる拍車がかかることは間違いない。

 すでに多くの大学では、2020年の入試改革の動向に関わらず、推薦入試枠を増やす方向に舵を切っている。


 もっともこのような動きは、突如降って湧いて出たわけではない。実は、そのような動きのもととなる兆候は、すでにあった。それは、公立の中高一貫校の入試における適性検査型入試の導入を見れば明らかである。

 2001年冬、当時私が岡山市内で経営していた学習塾で、私は初めて適性検査型入試の対策を行った。ある大先輩のお孫さん姉妹が、翌2002年に新設される岡山操山中学校の受験をするからというわけだ。

 正直、このテストには私も面食らった。過去問もないし、とにかく、自分で考えてその場で問題の意図を見抜き、文章で表現しないといけない。ただし、しっかりと対策すれば表現力と問題解決力を鍛える、いいきっかけにはなる。その子の入試自体は不合格に終わったが、基礎学力はこれで大いについたということで、それは喜んでいただけたから、まあ、よしとしなければいけまい。

 この頃は本当に、受験する側もそうだが、対応する側も手探り状態だった。その後もしばしば、自分の塾や先輩の塾などで対策授業の依頼を受け、岡山操山中学校だけでなく、津山市の県立津山中学校などの対策も受け持った。なかなか合格に至る生徒には恵まれなかったが、この数年来担当した生徒は、かなりの割合でこの手の学校に合格できている。

 この適性検査型入試を行っているのは、公立中高一貫校ばかりではない。生き残りをかけて受験者と入学者を増やさないといけない私立中高一貫校もまた、公立中学の「滑り止め」としての消極的な目的だけでなく、独自の校風に合った生徒の発掘という積極的な目的も含めて、適性検査型の入試問題を課す学校が増えてきた。それらの学校の「過去問」もまた、公立中高一貫校の入試対策に使える。

 確かに「受験対策」がしやすくなった分、「受験技術」が問われる状況へとなっていきつつあるのは、やむを得まい。

 そんなことは、中国では「科挙」の時代から、そういう傾向があったのだから。


 公立の中高一貫校の適性検査型入試の普及等によって、表現力・記述力の重視という方向性は、この度の大学入試改革への大きな流れとなっていたわけである。

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