第33話 学力はあるのだが・・・・・

 宮本哲三君は、私より1歳上。

 有名な左翼系の偉人の出身地でもあり、各種左派政党の力も強い町の出身だった。


 私が高校を受験する1年前に岡山県立津山高校を受験して不合格。岡山市内の私立高校に入学し、特待生だったものの、何かがきっかけで退学。今度は総合選抜の岡山市内の県立普通科高校を受験し、こちらも不合格。

 学力は申し分ないのだが、内申書が悪く、それで不合格になったというのが本人の弁。おそらく、そうだろうなと私も思った。

 彼は、私とともに烏城高校に入学した。確かに、彼は優秀だった。中間テストや期末テストでも、圧倒的に1番をとるほどの学力があり、実際、1番も取っていた。

 

 烏城高校は当時から、大学進学を目指す生徒には大検の受検を勧めていた。彼にも勧めてはいたようだが、どういうわけか彼は、「大検は難しい」などと、いつも言っていた。この年受検していればそれなりの科目数で合格できたであろうが、どんな問題が出されているかを調べようとしている様子もなかった。

 もっとも、烏城高校には大検の過去問があった記憶がないので、私は、自ら本屋に行き、後に詳しく紹介する「大学入学資格検定便覧」という冊子を見つけ、それで過去問を確認したわけだが。


 その宮本君、別にアルバイトを含めて何か仕事をしていたわけでもない。

 聞けば、今日はどこやらのバッティングセンターに行ってきたとか、そんな話ばかり。

 学校内でも、こんな程度の授業を受けていられるかという態度が見え見えだった。 彼は一体、勉強で身を立てていく気があるのだろうかと、私も不思議に思っていたほどだ。

 彼は言った。


 「大検は難しいで。おまえ程度の学力なんかで受かるわけない」


 知りもしないで「難しい」とか何とかいう大人を何人も見てきたから、いまさら彼が何を言おうが、いちいちそれで怒ってもしょうがないので何も言い返さなかったが、彼は間もなくして、烏城高校もまた退学していった。


 宮本君をその後、どこかの寿司屋で働いているのを見かけたという人がいた。

 その情報をくれたのは、烏城高校の同期だが少し年上の人だったと思う。ずいぶんもったいないことをしたものだ。

 もちろん寿司屋で働くことが悪いとは言わないが。

 

 この頃、まともな情報がないために、あるいは大検などの制度を知らない、知ろうともしないくせに物だけは一人前以上に言う大人たちを見てきた私としては、彼もまた、制度についての情報が知られていなかったことによる「犠牲者」であるということには、もちろん、異論はない。

 確かに彼は、情報レス時代の哀しい「犠牲者」であった。

 しかし、自らの人生を自ら切り開こうという姿勢がないようでは、どんなに能力があっても、いかにテストで高得点がとれても、それでは人生を切り開けようもない。

 まして他人に対して物事を知らず、知ろうともせずに勝手な憶測で物を言う人間に対して、にこにこ笑って友好的に接したり、懐かしさを込めて免罪したりするほど、私は寛容ではない。

 

 だからこそ、あえて言おう。

 この宮本哲三君のような人間は、いくら学力があったとしても、そもそも大学に行く資格などない、愚か者である。

 これ以上言うと罵倒にしかならないので、この話はここまでにする。


  結局、大検に合格して大学に「現役」合格したのは、私だ。

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