第2章 大検(高認)を飲み込み躍進する広域型の通信制高校

第16話 澱み(よどみ)は消えて、カジュアルに

 「居場所の確保」というのは、誰にとっても、思っている以上にに重要なファクターである。


 広域型の通信制高校は、それが株式会社立の高校が運営する、ビルの一角のテナントに入っている「校舎」であれ、ひょっと塾や家庭教師会社のような場所であれ、それを必要としている青年たちにとって、単に話し相手だけでなく、社会的存在をも担保してくれる「居場所」の要素を兼ね備えている。

 それは確かに、大検や高認のようなペーパーテストではできないことである。

 「大検予備校」というものもかつては大都市部にいくらか見受けられたが、それはしかし、大検「だけ」に絞った要素もあったためか、広域型の通信制高校の波に飲まれてしまったような感もある。

 これから1980~90年代の大検受験生や高校中退者の姿と、近年の広域型の通信制高校に通った生徒の姿を見ていくが、かつて見られた、高校中退などによる「日影者のエレジー」的な、人生の「澱み(よどみ)」のような要素は徐々に影を潜めていった。

 それこそ、高校を中退しようが、通信制高校に在籍して自宅で勉強していようが、淡々と明るく、「カジュアル」に、今ある状況を乗り越えていけるようになったわけである。

 この30年来の高校中退者の増大と、それにともなう大検の変貌と通信制高校の躍進は、高校を「降りた」若者たちに明るく楽しくとまではいわないものの、余計な罪悪感や悲壮感など持つ必要もなく、淡々と、今ある状況を乗り越えていけるだけの社会的な状況を整えてきたように思われる。

 この傾向は、決して止まることはないだろう。


 WIKIPEDIAの該当ページによれば、定時制高校の在籍者は1980年時点で149,351人に対し、2016年では92,965人。約4割弱の減である。これに対し通信制高校在籍者は、1980年時点で128,987人のところが、2016年時点で181,031人。約4割強の増加である。もっとも1980年当時の定時制及び通信制の高校の在籍者は278,338人に対し、2016年では273,996人。

 おおむね、同じパイの中の取り合いのような様相を呈しているが、2016年時点での通信制高校在籍者は、定時制高校在籍者の約2倍弱にまでなっている。こうした数字を分析してみると、実に興味深い事実が浮かび上がってこないだろうか。

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