第17話 あえて高校を「降りる」という選択肢

 高校を自らの意思で「降りた」若者たちの姿には、現代社会における様々な問題が見え隠れしているが、そこには、私たち一人一人がどう生きていくべきかを考えるきっかけとしうる要素も多々含まれている。

 高校進学率が限りなく100%となり、義務教育的な位置づけになってもう半世紀以上。その間、高校という名の「義務教育」を拒み、新たな道を開いてきた若者たちは一定数いたし、今もいる。その姿の変遷を追ってみよう。

 なお、ここでいう「高校」とは、全日制高校(単位制かどうかは問わない)と定時制高校でも単位制を採用していない高等学校を一般に指すものとする。


 この半世紀間、「高校」を舞台とした青春ドラマはいくつも描かれ、時に小説、時にテレビドラマとして社会の注目を集め、ある時は主人公たちと同世代の若者たちを虜にし、ある時は大人たちに青春を回顧するきっかけを、ある時は子どもたちに未来への夢を紡いできた。

 そこは確かに、国鉄時代の特急列車の車掌をしていた人物を描いた漫画「カレチ(乗客専務車掌の意味の国鉄内部の略称。池田邦彦作)」の主人公である荻野が述べているように、「先輩後輩の(あるいは同僚の)公私にわたるつながりと、そこで誰もが成長していける環境」であり、先述の内山元高校教諭の言う「全人教育の場」でもあった。それは、私も否定しない。

 一方、そんな「高校」に行くことを拒否し、あるいは、諸般の事情のため、不本意にも別ルートで大学や専門学校に進学した者も、少なからずいる。

 かつて「中卒東大一直線」というドラマがあった。1984年だから、ちょうど私が中学生の頃。管理教育で悪名高かった愛知県のある学習塾経営者の一家が、子息をすべて高校に通わせず、大検という制度を活用して東大や京大に行かせたという話。

 このドラマには、「もう高校はいらない」という言葉が副題としてつけられた。

 当時はまだ、大検という存在自体が世間に広く知られておらず、高校進学率こそ9割を超えてはいたが、大学進学率はまだ3割台を前後。出身高校の話題がいつまでも続くような地方に住んでいる人たちにとって、大学はともかく、大検という制度があり、それがどのようなものかを知っている人さえもほとんどいなかった。そんな時代に、高校など無視して大学に進学するということは、奇想天外なものでしかなかった。

 まして、「不登校」に至っては、「登校拒否」などと呼ばれ、単なる「甘え」「ズル」の類でしか見られていなかったが、文部省が「不登校は誰にでも起こり得る」といい始めるが早いか、今や、普通に起こっていることの一つと受け止められ、様々な場所で、対策も行われている。

 そのようなルートが本格的に世間の知るところとなったのが、「大検」こと大学入学資格検定、現在の高等学校卒業程度認定試験(高認)の前身である。

 「大検」にはじまり、定時制・通信制高校の修業年限の短縮化、さらには大検と通信制高校の併用、そして、広域型の通信制高校(中には「大検予備校」として歴史のあるものもある。ここでは、学校の本部とは別に、各地に拠点校と称する「校舎」をテナントの一角に構えて広域に展開している学校等を指す)の普及。

 その背景にあるのは、「高校中退」の問題。

 彼らの受け皿をどこで作っていくかが、常に大きなテーマの一つとして、今もって存在し続けている。

 高校進学率がそれほど高くなかった頃なら、経済的な理由や健康上の理由ということで、かわいそうだけど、まあ、仕方ないな、というほどの見立てで、さほど問題にならなかった。

 だが、中退者のあまりの増加は、そんな牧歌的な見立てなど許さなくした。

 そればかりか、広域型の通信制高校に、中学卒業後直ちに「進学」する生徒も増えている。

 

 若干極端な例かもしれないが、「孤児院」的な要素がまだ残っていた半世紀前の養護施設なら、「施設の子どもたちに高校進学を」という言葉が意味を持ちえた。

 確かにこの頃はまだ、高校進学を経済的な理由で断念する層が少なからずあった。 だが今時、養護施設の子どもたちの高校進学でさえも、普通になっている。

 ここには中退率が高い等の問題がないではない(私もそのような事例は多く目にした)が、今回はあえて触れない。

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