第9話 定時制高校の改革

 私が在籍した当時の烏城高校だけでなく、この頃の定時制高校は、かつてのような「勤労学生のための学校」とは、すでに異質なものとなっていた。

 全日制高校に合格できなかった生徒や、中退した生徒の受け皿としての要素を強く持ち始め、それに伴う様々な問題が噴出していた。風紀面の乱れもそうだ。あまりにひどい生徒は、やがて自ら学校を去っていった。

 烏城高校だけではなかったようだが、学校側は、廊下のバケツが置かれている場所限定で、喫煙も許可していた。当時のことだから、特に未成年だからといって取り締まるようなこともしていなかった。なぜこんなことをしていたかというと、全面禁煙としたところで、他の場所で吸って吸い殻が散らかるだけでも問題だし(特に岡山朝日高校の設備も使っていたから、なおのことだ)、下手して火事を起こされてはもっと困るわけで、それならば、指定場所で吸い、喫煙者の間の「自主管理・自主運営」を求める(バケツの水は自分たちできちんと交換して清潔を保ち、火の元には十分気を付ける)ことで、学校は対応していたわけだ。

 ただ、指定場所以外の喫煙がまったくなかったわけではない。ベテランの香山先生が、そのことをよく生徒の前で注意していた。


 もし火事でも起こせば、これ幸いと鉄筋建ての校舎にでもしてくれるとでも思っているかもしれないが、今の行政改革の流れで、定時制高校など不要ということで廃校や統廃合されても仕方ないからね。

 吸う以上は、最低限のルールとマナーは守ってください。

 もし守れないなら、学校側としては全面禁煙もやむを得ないものと考えています。

 こちらとしても、ここまで譲歩しているのですから、どうか生徒諸君も、そこは理解してもらって、・・・。


 「鉄筋校舎に建替え~」のくだりにちなんで、当時の状況説明をしたい。

 私が大学に進んで少し後、1990年代には、来たる少子化にむけて、定時制高校の役割やあり方だけでなく、それに伴う統廃合も含めた施策が検討されていた。この時期より、通信制高校は、雨後の筍も顔負けの増加がみられた。定時制及び通信制高校の卒業要件の緩和が、その動きを後押しした。

 低学力層や不登校生の受け皿としての役割を得始めたことによる文教政策の変化は、それまでの定時制と通信制の棲み分けを大きく変え始めた。

 通信制高校の急速な増加に反して、定時制高校はというと、やはり「通学」の硬直化がネックとなってか、生徒数だけでなく、学校数についてもまた、一貫して減少傾向になり、統廃合も目立つようになった。

 ただし、最低修業年限を3年としたのは、英断である。実際それまでも、本来の4年間を途中の休学も含め5年や6年かけて卒業していく人も少なからずいた。烏城高校にも、そういう少し年上の生徒さんが多くいた。これが全日制高校ならいささか問題ともなろうが、定時制高校や通信制高校の場合は、もともと勤労学生のための場所であり、そもそも仕事など他の事情もあってのことだから、一概に責められる性質のものではない。そういう高校の利用法も、もちろん、あっていい。


 香山先生は、他にも、こんなことを言っていた。

 「本校の生徒の中で、「行き過ぎた男女交際」をしている例がいくつかあるが、止めてもらいたい。もしそれでも止めないというなら、退学を勧告する場合もあります」

 実際、私より少し上の期になる女子生徒で、明らかに妊娠しているなという人を見かけた。いつの間にか、彼女を烏城高校で見かけなくなった。私より少し年上になるが、かわいらしさのある女性だった。


 風紀面も含め、いろいろ問題があったのは確かだが、それでも、烏城高校は習熟度別の授業を導入したり、大検受験を生徒に勧めたりするなど、学校自体を改革していく姿勢を鮮明にし始めたのも、ちょうどその頃。

 私は冷めた目でその改革を見ていただけだが、社会全体が、そのなかの何かが、大きく変わっていくような予感がしていた。

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