僕は何も聞こえなかった
「プリンとかっ、アイスとかのさ、最後の一口をあげられる人とっ、結婚、した方がいいんだって」
午前零時を回った夏の公園で、ブランコの立ち漕ぎをしながら彼女は言った。勢いよくなびくスカートは、風を受けてバタバタと鳥が羽ばたくような音を立てている。
「え、なんて?」
本当は全部聞こえていたのだけれど、僕はそう返す。
実際、スマホで小説を読んでいるやつにいきなり話題を振るなんて、半分潤滑なコミュニケーションを投げ出しているようなものだし、こういう返し方をされても仕方がないと思う。
彼女はよほどその話題に触れたいらしく、今度は聞き漏らされないようにと、さっきまで必死になっていた立ち漕ぎをやめた。
ゆっくりと勢いの死んでいくブランコの上で、彼女は後ろにのけぞって夜空を眺める。黒い長髪が地面スレスレのところまで下りていて、何も知らない人間が見たらホラー映画のワンシーンと間違えそうだ。
「だから、」
「だから?」
「あんたにさ、プリンとか、アイスとか、最後の一口あげたくなるのって、なんなんだろうって話」
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