君が石になってから久しい

 前来たときからどれくらい経つんだっけ。

 まだ学生証が生きてた頃だから、少なく見積っても三年くらい?

 なんだろ、君もそうだと思うんだけど、時間の流れが早いことに憂うような、テンプレートな人間になりたくなかったな。なってしまったものは仕方ないんだけど、時々むなしくなるよ。

 変だな。こんなこと話すつもりじゃなかったんだけどな。

 君はどう? 今年は簡単に人が死ぬくらい暑いらしいけど、こんなところで毎日立ったままって、もし君が温度を感じられるなら気がおかしくなりそうだなって、うん、そう思ったから来たんだ。

 改めて、なんだけど、やっぱり笑顔で正解だった思うよ。君、笑うときだけは素直だったから。そう、君のつくり笑いなんて、字面だけでおかしい。

 君がそうなったあのとき、僕が君になんて言ったか覚えてる? 思い出されるのも複雑な気持ちなんだけどさ。

 大体、「なんか面白いこと言って」って、直前にさ、本当にどうかしてるよ。急に言われたから、いつもの嘘がうまく出てこなかった。

 「へえ、知らなかったなあ」って君はそのまま動かなくなって、そりゃあ、元々答えなんて期待してたわけじゃないけどさ。ずるいなって、思い続けてるよ。

 それで、訊きたいんだけど。あれ、嘘だよね? 君はずるいから、僕が君をどう思ってたかくらい知ってたはずだよ。知ってて、君はとぼけたんだ。なんでか、とかは考えてない。いや、考えないようにしてきた。

 結局、全部君の思い通りなんだろうね。

 おかしいんだ。

 君はもう止まってるのに、今も時々、君から電話がかかってきたんじゃないかと飛び起きるんだ。

 全部、僕の妄想でしかないんだ。君がこういうときなんて言うんだろうとか、つまらない映画を観たときに限って無性に君に会いたくなったりとか、全部押しつけなんだよ。君が動けないのをいいことに、僕は君がここで笑い続けてるって事実を、自分の拠りどころにしているんだ。

 不思議だよ。頻発にここに来なくなってから、余計にそんなことを思うんだ。

 今日は、君にお別れを言いに来たんだ。さっきの暑さがどうとか、あれは嘘だよ。君に会うのはこれが最後って決めて、家を出た。

 明日からは、もう、目の前のこれを君とは呼ばないよ。

 僕がそうしたいんだ。やっと、そう思えるようになったんだ。

 君が好きだった。好きだったよ。

 だから、さよなら。

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