いちごミルクの味を知らない
「多分、誰か一人でも世界が終わる日のことを考えていたら、この世界は終わらないようにできてる」
また始まった、多々良の口癖。
「それ、毎日言ってんね」
「毎日思ってんの。そんで、毎日一緒にいるのがあんただから、あたしは自然と毎日あんたにこれを言うことになってる」
多々良はいつも同じものを飲んでいる。紙パックのいちごミルク、今日も三分で飲みきった。
「ふうん」
いつもと同じような相槌を返しながら、彼女の右手に握られた、空のいちごミルクに目をやる。へこんだパックはもうきっと、空気を吹き込んだところで元には戻らない。
だから、多々良はそうしないの? 本当のところ、私はそういうことを聞きたい。
「だってさ、佐藤。そういう前提を持ってみるだけで、簡単に、世界の全部があたしのおかげになるでしょ。あたしは生きてるだけで、佐藤のことも、通行人AからZのことも救ってやってんの。気持ちいいよ」
サンドイッチで詰まった喉に、レモンティーがさらさらと流れていく。昨日はミルクティーだったけれど、サンドイッチと一緒に食べるなら断然レモンティーだな。
毎日同じものを体に受けいれてしまうのが怖い。日々がサイクルになっちゃうことが、死んじゃうこととすごく密接な気がして、変化を求めてるっていうより、退屈から逃げてるって感じで、毎日どっか苦しい。
だったらさ、多々良。聞きたいよ。
もしさ、私がその想像の中で、仮にだよ? 仮に多々良よりもっとこの世界が終わってくれたらなって思ってたとして、じゃあ多々良がやってることって、救済なのかな。
こんなの揚げ足取りだし、言いたくない。でも、そういうことを考えずに人を救う多々良は、きっと誰よりも優しくて残酷なんだよ。
「だから、佐藤はあたしに生かされて。毎日同じ話聞いてよ、でも飽きたら言って、そんときはまた考える」
「いいよ」
「何が」
「毎日、同じ話でいいよ」
私をすくって。
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