頭が悪くなってもこのままで
「そんなに頭の悪いお酒を飲んだら、自慢のお馬鹿さんが加速しちゃうよ。もっとゆっくり歳とろうぜ、あたしたち」
二十三時のコンビニ前、友人は僕にそんな警告をする。でも、彼女の手にだってしっかり頭の悪いお酒(アルコール度数九パーセントのレモンチューハイ)が握られているのだから説得力がない。
「僕は普段そんなに飲んでない」
「は? 飲まないで生きていけるのすごすぎ。あんたの人間強度、鉄コン筋クリートかよ」
「そういうの、僕以外に言わないほうがいいよ。伝わんないし、伝わったところであんま笑えない」
「うるさい、黙れ!」
いつものように肩を組まれる。絶対に柔軟剤の量を間違えている彼女の服からは、今日も濃い花の匂いがした。
彼女は横顔が綺麗だ。大口を開けて笑うのさえ我慢できれば、すぐに恋人くらいできるだろう。あと、吐くまで飲むのをやめれば。
「見てよ、星綺麗」
缶チューハイを持ったまま、彼女が夜空を指さす。銀色の缶に見え隠れする夜空は、皮肉にも確かに綺麗だった。
「本当だね」
「こういうの見てると、自分がちっぽけ過ぎて嫌になるの、わかる?」
「わかるよ」
「わかってくれて、嬉しい。あんたもあたしも、ちっちゃくて良かった」
意味のわからないことを言いながら、彼女は両手を広げてコンビニの駐車場を泳ぐ。これは完全にできあがってしまった合図だ。
「ほら、行こう」
「新しい映画、あるんだろうなあ」
「あるよ、とびっきり面白くなさそうなやつ」
「サメ?」
「違う、ジェイソンと貞子が戦うやつ」
「最高」
クシャッ、頭の悪いお酒の亡骸が潰れる音がする。
「ちゃんと歩いてよ」
今度は僕から肩を貸す。彼女のふらふらとした足取りは、たまに絡まりそうになりながらも、ちゃんと僕のアパートに向かって進んでいる。
吐く息が酒臭い。正直、最近酒が美味く感じなくなった。
それでも僕は、このままずっと、君とゆっくり頭が悪くなれたらいいのにと、そう思っている。
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