この寂しさは金になる


 『寂しさ買い取ります』。そんなうたい文句で始まったSNS、『無人駅にて』。日常の中で感じた理不尽や不満、生きづらさをショートメッセージとして投稿し、同情の『ハグボタン』を全く貰えなかった人には十円、一つから九つまでは一円、それ以上は換金不可となる完全匿名性のアプリである。

 当初、こんなアプリに固定ユーザーなんてつくわけがないと世間では散々に叩かれていた。そして事実、サービス開始からしばらくは何のランキングにも引っかからないほど『無人駅にて』は不人気であった。

 しかし、実装から半年が経った現在の『無人駅にて』のユーザー数は、全SNSの中でもトップクラスの規模まで膨れ上がっていた。

 その理由は実にシンプルだった。

 孤独を救おうという名目で始まった『無人駅にて』だったが、その内情は悲惨であった。ユーザーの殆どは書き込みをろくに見てもいないのにハグボタンを押す。リストラ、パワハラ、DV、不倫、暴行、自殺願望、全ての叫びはスクロールされ、熱のない抱擁だけが増えていく。平均ハグ数は千を優に超え、次第に投稿だけをするユーザーは減少の一途を辿った。

 全てのハグは、他人に利益を与えないためのものでしかない。

「弱音を吐くだけで金を稼ごうだなんて甘えるな」

 誰かが投稿して、ハグされる。

「こんなところで言える時点で、はなから大した問題じゃないんでしょ?」

 そう投稿して、ハグされる。

「この世界に逃げ場なんてない」

「まだ、生きづらい人はいますか?」

「死にたい。何でこんなに救われないの」

 ハグされる。ハグされる。ハグされる。

 そんな中、あるユーザーが投稿したメッセージだけが、異常なほど少ないハグ数を記録する。

 その投稿は、約三ヶ月ぶりに一円の利益を獲得した。


「今から死にます。ハグをください」

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