第6話―数学という完成した芸術があっても現実はバラバラな未完成―
それからの学校生活に微微たる変化はあった。体育の授業が終わり廊下を歩き曲がり角で樋口市踊にバッタリ合った。思春期が最も悩むニキビなどがよく見える至近距離。
「 うわぁ、あれ津島くん。ぶつかりそうで驚いたよね、ごめんね。
それで体育の授業どうだった?」
笑顔でパーソナルエリアほどの距離を取る樋口。嫌な顔をせず、非は自分にあるかのように真っ先に謝る事に好感を持ってる。しかし体育の授業をどうして分かったのか?視線を下げ手をあごに当てていると体操着を着ていたの目に入り悟るのだった。
「ふむ。力学系をちょっと学んだ」
「ご、ごめん何の話?体育のはずなんだけど」
「樋口市踊よ。参加者すべてが体育するとは限らない。いつもの体調が悪い口実を告げれば堂々と本を読むことができる」
「えっ?どこか悪いの?大丈夫」
「いや、話をよく聞きたまえ。
口実だよ。どこも悪くなければ頭は冴えていて絶好調だよ」
「それってサボっていることじゃん!ちゃんと運動をしたほうがいいよ津島くん」
腕をブンブンと振り非難する。
僕は下級生なのだがその対応でいいのか。前よりも親しげなのも。
「別にサボってなどいないよ。
その間に
体育の授業中では僕は本を読んだりして過ごしている。さすがにラノベは読むのも
「あ、あはは。なんだか想像が出来るかな。それで、どんな本を読んでいたの?」
「ふむ、この本だ」
持っていた大学レベルの力学の本を樋口の前に見せる。辞書並みの分厚さで片手で抱えていた本を両手で持っても重たい。
「ふーん?難しいそうだね。私には解らないかな。そんな本を読んでいるのって頭がいいよねぇ」
「いや、極めたほどじゃないから一般的になるけど。簡単に説明すれば力と運動を理解する物理の一分野になるわけだが法則を
「そうなんだ」
関心はしていたが力学ではなく僕の事に感心しているような気がした。
それから廊下を徘徊や帰り道などに偶然にも見えたので、すれば違うのも話をしないわけにはいかないかと挨拶と軽い話などしていた。
そして7月の中旬に担任の先生が、くだらない理由で書類を実験室に持っていてほしいと頼まれた。断ろうとしたら「お前なら詳しいだろう。それに、そろそろ頼み事を受けてもいいだろ」と
断りにくい圧力に逆らうのもバカバカしく思い廊下を歩いていると
踊り場から樋口の姿が見えた。
降りようとしていたのだろう。
僕はまたかと溜め息をこぼして、さぁ今日は話を振るかと検討していると。
「えぇ!?また。ねぇもしかして私を追ったりしていないかな津島くん」
「追うのでしたら眼下に僕の姿はないでしょうね」
お互い通学路から挨拶して休み時間にも2回とも会っている。
ここまで行くと辟易するのは僕だけじゃなく樋口もそうだった。
踊り場から降りて僕の真横に立ち話し相手になってくれることだろうか。
「どういうこと?」
「普通に考えてほしい。追うのは後ろからですよ。前から僕の姿からして追うという発想は愚問。
愚考の極みですよ」
「今日はなんか
「担任の教諭から持っていけと命令されてね」
「命令って。それじゃあ私、持ってあげようか」
絶妙な顔を傾いて笑顔を浮かべる樋口。2次元にも
「そうか、任せた」
僕は彼女の両手を差し出す手をすべての書類を渡した。
「へっ?」
目を点にして、ゆっくりと顔を上ける。これは、なに?と思考が回らないほど混濁して顔で問いかける。
「それが運ぶ書類だ。量は多くって助かったよ樋口先輩!僕は
それじゃあ」
僕は
「ええぇーーー!?せめて半分を持ってよ。どこに運べばいいのか知らないのだけどぉーー!」
叫びだして非難と常識を持ってと小言を食らう羽目となった。
まったく、まるで年上のような振る舞いを。いや樋口は年上出会ったか。
その次の日には日直という不運な僕は黒板消し(またはラーフルとも)の掃除を済ませてから学級日誌とカギを持って誰もいない夕焼けに照らされた教室を施錠して職員室に向かう。ちなみに日直が
僕の場合だけ、この仕事を頼まれてしまう。本を没頭しているから構わないので別に異議を唱えることでもない。乙女は不満そうだったが。
学術書を読み、週番の役目をこれで果たせば帰るだけ。こんな
時間帯だと人も少なく静謐に包まれている。職員室が見えて少し早歩きなると樋口が出て頭を下げて失礼しますと告げてからドアを閉め右に歩こうとして僕と目が合う。
「珍しいよね津島くん。こんな遅くまでいて」
「日直じゃなければ真っ先に帰っていたよ。そんなことよりも樋口市踊よ何か問題でも起こしたのかね?」
「いや起こしていないから。
頼まれ事や告白をお断りに行って質問攻めのいつもの散々な日々よ」
「やつれた発言だな」
疲れた彼女は苦笑をこぼして、それが疲れによるものだと理解した。ふむ、モテるとデメリットの発生もするわけか。なるほどメモに書かないと。
「参考になった?」
「まぁ、少しは。そんなに困っているなら恋人を作ればいいのではないか?」
少なくとも彼氏がいれば抑止力となるのは明白だ。逆に彼氏と時間で割かないといけなくなるが。
「好きな人がいればそうさせてもらうけど。いないし、
相談できる人がね」
「ふむ、そうか。手が苦しくなったので通らせてもらうよ」
「あっ、長い愚痴ってごめんねぇ」
素直に謝罪すると道を開ける樋口。僕は職員室に一言もなく勝手に入り教諭がパソコンで忙しくキーボードを叩く横に置いて職員室を後にする。もちろん「失礼します」など言わずに。
「これから彼女とおかえりですか?」
別に帰っていてもいいのだが、まだ用事があるのだろうか。
「まだ何かあるのか樋口よ」
「ねぇ、一緒に帰ってくれない?ほら、いつ声を掛けられるか分からないわけだし」
「そういうことなら構わぬ」
駅前までになるが樋口を送る流れとなった。僕はあくびをこぼして隣に同歩行で歩く上級生からの自慢話を頷いたりしている。
改札口に通る前に最後に手を小さくと振り、また明日と述べた彼女に
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