第3話―研究テーマはモブの告白2―

一年一組の教室に美男美女カップルが入ると黄色い声は無かった。気づいていないわけではなく、確かに一瞥いちべつされている。


「やっぱり恋人と認識されていたら大きな反応はないか。

これが当然の扱いなんたがなぁ」


「そ、そうねぇ・・・恋人らしいんだよ。きっと、えっへへ」


乙女が照れると一部の女子等が鋭い眼光を乙女に向けられたり黄色い声もいくらか起きる。

どうして学園一、二位を争う乙女がそんな目を向けられるかは僕にも原因がある。なるべく客観的な自分の容姿を述べるとすれば僕は眉目秀麗イケメンだった。

中性的な顔立ち、爽やかなミディアムヘアと理知的で穏やかな目。

それと僕が単に超インドアとあって肌が真っ白。女の子とよく

乙女にからかわれた。


「おいおい、早速イチャつくのかよ。彼女がいない俺に宣戦布告なのかこれは?」


注目度が増した僕達にスクールカースト高い人達も近寄らない空気で、そんな空気なんて読めるかよなんて言わんばかりにするのは

島崎春樹しまざきはるきだ。

インドア派の僕とは対となる位置にあるアウトドア。彼は理想的すぎるスポーツ美少年。屈託のない笑顔を向けられた女子をいとも簡単に射抜く破壊力。僕には無い天然さと諧謔かいぎゃくも優れている。もしアメリカでなら

彼の個性と話術を最大限に発揮してくれると見ている。


「はは、そんな訳がなかろう。

おはようだ島崎」


「イ、イチャついていないわよ!それより何か用なの島崎。あと、おはよう」


いつもの挨拶なのに乙女は激しく狼狽している。そこを僕と島崎は触れない。慣れているので。


「挨拶がついでかよ。それで今日はどんな研究テーマなんだ?」


彼は伝えている。僕が小説のために研究をしていることを。

すべては萌えるラブコメを。

当初での研究に教室がざわついたからお互いカップルにしていた方が都合がいいと合致。

白い歯を見せて尋ねられ僕は白い歯を見せる事なく応える。


「ああ、雨が降っていたから相合い傘だ。雨が濡れたら負けという設定の込みで」


「え、ええ。有意義な時間でめちゃ楽しかったよ。やってみて、恥ずかしいかったけど距離が縮めた事に嬉しくて!」


隣からにいる仮初の彼女は目を輝かせて楽しそうに説明なのか語っているのか判断しにくいマシンガンのように喋る。


「ヴァージニアそれは後で恥ずかしくなるやつだぞ。

まぁ、楽しそうでなりよりだよ。

それで相談なんだが」


「島崎よ。ノートを見せてやるが、たまには自力で努力するのを大切だと思うぞ」


「あっ、いや。俺が頼んでいるのはヴァージニアさんで別に津島には頼んでねぇから」


頼むのは俺だった気がしたが、まぁいいか。ヴァージニアには理系の分野では勝ってるが、それ以外はボロ負け。はっきり言えば

ヴァージニアは全科目(体育と美術、音がも含めて)が著しく優れているのだ。

だからこそラノベのヒロインに打ってつけなのだ。


「はい、はい。貸してあげるよ」


「それでこそヴィージニア様だ!」


調子のいいセリフだなと俺と同じ思っている乙女は同時に嘆息する。

休み時間ラノベを読んでいると、樋口の話題を耳に入る。なんでも女神の生まれ変わり、年下が好み、積極的な人が惚れやすい等

なんだそれはと思いたくなる話題が、ばかりで心で嘲笑をしたくなる。

読書に戻ろう。そこで僕はヒロインが名前のない端役はやくの告白するページを読む。


(フムフム。ヒロインの個性や真摯さを表している。定番の手法でありテンプレであるからこそ

伝わりやすいなぁ)


これは技術がいるではないか?

定番なシーンを上手く使えばいいが失敗すればテンプレ等と批評される。

雨天の教室はいつもより多い。名前の知らない男子生徒がテンション高めで会話が嫌でも耳に入る。


「なぁ、放課後に告白しようと思うけど。上手く行くと思うか?」


「ばか、やめておけよ。高嶺たかねの花すぎるだろ。それ」


「だよなぁ。やっぱ諦めるしかないか」


それだ!端役の告白シーンはヒロインの魅力を表す重要なシーンである。それを実践する機会はある。ここは学校で恋愛ものなら

学校こそが王道。それを研究しないわけにはいかない。


(決めた。次の研究テーマはモブの告白だ!そうと決まれば告白のセリフを考えねば)


成否は、どちらでもいい。大事なのは知識を多く手に入れること。

正午になり廊下を徘徊すると目的の人物と遭遇する事に成功した。


「そこにいるは半井桃水なからいとうすいではないか?」


「はい?・・・ああ!津島くん僕に何か用なのかい」


振り返り明るく対応してくれた。樋口に告白して振られた僕の友人かもしれない人。


「ああ、少し頼みがあるんだが」


「僕なんかの力になれるなら喜んで力になってあげるよ」


お言葉に甘えて、振られた詳細と

告白するには何が理想的なのかと

相談したら苦虫を潰したような顔をされてしまった。

ともかく準備はだいたいは整った。


「定番は下駄箱にラブレターだなぁ」


放課後になって僕は樋口の下駄箱にラブレターを入れて屋上に向かう。

ローファーはあったので少なくとも学校にはいる。帰りを誘ってきた乙女には用事があると言うと一緒に同行すると言って納得して

くれるまで長い攻防が続いた。

乙女が折れるまで時間がかかり不安だったが安堵した。

屋上のドアをくぐれば雨は止んでいるがベンチは濡れている。


(立ちながら電子書籍でも読むとしますか)


スマホを取り出して普段なら紙の書籍しょせきなのだが、いつ雨が降るか分からない天候で

濡らしたくない。防水スマホなら

雨でも使える至極単純な理由。

表紙が画面で感動はなく紙の匂いもなく読んでいるとドアの開口音。


「来たか」


樋口がどんよりと雰囲気で入ってきた。ラブレターを持っているなら中は読んだのだろう。

だとすれば振るために来たのだろう。

なるほど嬉々としたり恥ずかしがっていたら脈あり。

彼女は明るく手を振り近づいていく。

表情をよく見える距離になってから彼女が困っているのが発見。


「このラブレターは貴方が?」


緊張でこわばるように真っ直ぐな姿勢になる。


「は、はい!それは僕が書いたものです」


「そうなんだ。その話というのは?」


僕は顔を赤くなることは出来ない。それに演技部ではないので演技が得意ほうじゃない。

少ない力を全力投球。僕はオーバーな動作で頭を下げると手を前に伸ばす。


「僕と・・・付き合ってください」


「ごめんなさい。気持ちは嬉しいのだけど。本当にごめんなさい!!」


「そ、そうですか」


何度も謝れると罪悪感が。くっ、

僕は利用していて申し訳ありませんと少ない良心の呵責で呟いた。

樋口が屋上を後にして僕は

大きくため息をした。


「ハァー思ったよりも疲れた。

けど研究は成功したのは大きい。きっと今日の小説は上手くいく」


帰宅してすぐに行動に移る。小説投稿サイトで今日の話を執筆して

公開したが翌日の結果を見て

僕は悲しい落ち込んだ。


「PVが低すぎるんだけど」


見てくれる人の少なさに絶望的になり落ち込んだまま僕は登校する。

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