第2話―研究テーマはモブの告白―

翌日は大雨。通学路で僕は乙女に濡れないよう相合い傘を歩いていた。


「フム。ドキドキをするか乙女?」


「は、はぁ!?するわけないじゃない。研究だとしてもデリカシーないんじゃないの」


「そこまで言わなくても・・・」


ただ訊いただけなのに、ともかく幼馴染に詳細な説明もせず研究テーマ付き合いたての恋人の相合い傘という頭のネジが2つ以上が

吹っ飛んだ話をした。

中学では疎遠で会うことも減って挨拶だけはして、環境とか友人がいて自然消滅のような事があった。

まぁ僕は友人という尊い存在はいないんだけどね。協力的な後輩はいたが。


「あっ、ごめん言い過ぎたよね。

ドキドキは演技で意味よね」


「ああ、もう少し望めば感じた思ったこと感じたことを言ってくれたら小説家志望としては、ありがたい」


恋愛感情を知らず、ときめく事を感じない僕には協力者がどうしても必要だ。それが今は同じ学校に向かう幼馴染の乙女。


「・・・嬉しいのよ」


「嬉しい?」


僕は熟考した。心境や言葉の裏を汲み取る文系タイプではない、

物理や現象を得意な理系タイプの僕には苦手だ。しかし諦めたら進む事なく停滞だけが結果になる。

なので[嬉しい]の今の定義を真剣に考えた。


「僕の考えでは、その意味は久方ぶりに遊べて楽しい事ではないか?」


「んー?」


首を傾げてきた。案の定とはいえ間違えてしまうと恥ずかしいものだ。誤魔化す意味で咳払いでもしよう。


「コホン。まぁ、聞け。乙女が嬉しいというのは小学生あの頃に戻れて年甲斐もなくテンションが高くなっているではないか。

ヤバい、マジ卍とか言って」


「そマ!?それってエモエモのエモなんだけど!」


乙女は呪文に等しい言葉をしたと思ったら満面な笑みを浮かべた。


「そマ?エモエモのエモってナニ?」


カタカナが多い!エモいはエモーショナル略というのは知っているが、改めて最近の若い女子高校生の言葉に僕は戸惑いを覚えた。

という同い年なんだけどね。


「そマはそれマジ!エモエモのエモは・・・・・すこぶる感動って意味?」


「その疑問系は何なのか問いたいが、その前にテンション高くないか?」


「いや、だってー、修治がそう思ってくれているんだぁー思うと

嬉しくって。えへへ」


「むぅ!?違うわい」


忸怩じくじたる思いを駆られ僕は少し早歩きになる。


「ちょっ!?濡れてしまうからスピードを上げないでよ」


「す、すまぬ」


相合い傘は、距離感が大事のようだ。油断すると片方が濡れてしまう。なんだろう?このデスゲーム感は。

会話は弾んでいく。雨が落ちていく通学路は晴れた日よりも暗く感じる。空もそうだが通学と通勤する路傍ろぼうの人は黙々と歩いているのが多数。

いつもなら喧騒なのが言葉が少ないのは不思議だ。


(これも感受性が高いからなのか?)


その問いには答えがないだろう。仰ぎ見れば学校が視界に入る。

指定された制服をわずかに濡れ向かっていく名前の知らない者達。

学生だから増えていくと会話も耳に入る。

上履きに変えて歩くと人垣を目にした。昇降口しょうこうぐちなんかで人垣があると目立ち

好奇心を刺激されてしまう。


「気になる。僕はちょっと見に行くよ」


「修治ならそうよね。ハァー」


後ろから飽きられ嘆息する幼馴染に手刀と念仏を唱えるようなポーズで軽く謝り人垣の隙間すきまを縫うように進むと。

円のように空いた場所には見覚えがある美少女。あー、確か階段の踊り場で告白を振ったアレだ!

その彼女の前には男が3人。

ちょっと挙動不審で落ち着きがない。


樋口ひぐちさん!いきなりで申し訳ないですが僕と

付き合ってください!」


「一目惚れでした。迷惑じゃなければ俺と付き合いくれませんか!」


「・・・つ、付き合ってほしいです」


「ごめんなさい。気持ちは嬉しいのだけど今は誰もつき会えないって決めているの」


おぉー、3人同時告白か。スゴイことになっているなぁ。現実は小説よりも奇なりと言うがリアルとは思えない光景だ。

振られてしまった3人は気丈きじょうに振る舞おうが涙を堪えているのが見てすぐ分かる。


「なるほど」


僕は呟いたセリフが早いかメモとペンを取り感じたものを走らせる。

告白は3人同時もある。思った事はマジか。

ふむ、経緯を知りたいが話を振るのが得意じゃない。


「あれ?もしかして津島つしまくん」


「んっ?ああ・・・すまないがどこかでお会いしたか」


マッシュショート髪をしたさちが薄そうな美青年に声を親しげに声を掛けられた。

僕は友達が少ないどころかいないのに彼は誰だろう本当に。

もしや友達詐欺ではないだろうか。


「ほら僕だよ。僕」


「すまないか僕には僕という友達はいない。いやいたことがない」


「・・・え、えーと。ほら踊り場で振られた・・・」


かなり小さい声でボソッと呟いたが耳にした僕は過去にあった場面を思い出す。


「あぁー、きみか」


樋口という美少女が、申し訳なさそうに振られた3人に無駄な励ましと優しい笑みと手を振って去る。去れば人垣も動き始めていく。

乙女は僕の隣まで明るい笑みを浮かべたまま早く寄ってくると

樋口という女性に振られたイケメンに気づき首を傾げる。


「ねぇ、修治。あの人は?」


「ああ、彼か・・・・・人垣の一時的アイドルに振られた残念なイケメンだ」


「おーい聞こえているぞ。

って学園一の樋口と比肩ひけんできる唯一の美少女じゃないか!

ヴァージニア・ウルフさん」


「そ、そうですけど」


乙女は返事をするが僕の後ろに壁にして隠れる。

乙女は金髪碧眼の上に、美少女だから男性からすれば理想の女性なのだろう。それだけは理解するけど好きになるかは別の話と区別している僕だが少数だと反応からして思った。


「落ち着くたまえ・・・・・もやしくん。彼女が怯えているじゃないか」


「あっ、ごめん。まさか面と向かって話せるなんて思わなくて。

つい」


流麗に頭を下げて謝罪をした。

根はそんなに悪くはないだろう。それに乙女の容赦のない言動を知れば同じ口をすることはない。

僕は後ろに隠れる乙女を安心させようと振り返ると何があったのか。顔を弛緩させて幸せそうに

だらしない笑みを浮かべていた。


「か、彼女・・・えへへ。彼女か」


放心状態になっていて言葉は支離滅裂。わずかながら焦燥しょうそうに駆られた僕は乙女の絹糸のような頭をでる。


「おーい、目を覚ませ」


「なな、なに!?急にどうしたの。状況が追いつけないから

恥ずかしいのに・・」


目をつぶり始めた乙女を僕は落ち着いているなぁと思った。小さい頃に、こうすると落ち着いてくれるんだよなぁ。

やっていることはラブコメ主人公みたいだけど。雪を欺くほどの白い頬には赤く染まっているのは

エモエモのエモで赤くなっているのだろう。


「さて、落ち着いたか乙女」


手を離すと名残り惜しそうに両手ででた頭を触る。

涙目と何故か猫のように睨まれる。本気で睨まれていないのが伝わっている。気恥ずかしいのだろう。


「・・・お、落ち着いたから」


「そうか。それは、よかった。

むっ、どうしたのだ。ハトが豆鉄砲を食ったような顔をして?」


振り返るとイケメンはポカンと口を大きく空いたままで見つめていた。


「あ、いや。なんていうのかスゴイなぁ思って」


「スゴイ?確かに独特なコミュニケーションを取ったのはそうだが。

奇異な目を向けられると僕としても不快なのだが」


「いや、そういうのじゃなくてうらやましいと思っているんだよ。僕には美少女の幼馴染がいないから・・・本当に羨ましい」


「お、おう。そうであるか」


なんだか触れてはいけない触れてしまった気がする。乙女は隠れず横に立つがチラッと視線を向けられている気がする。

思ったことを吐いたおかげか彼は落ち着いたようでさわやかな笑みを浮かべる。


「遅くなったけど名乗っていなかったよね。僕の名前は半井桃水なからいとうすい

よろしく津島くん、ヴァージニアさん」


「ああ、よろしく」


彼は手を伸ばしたので僕はそれを答える。握手を交わし終えると

乙女はニヤニヤしていた。

言わなくて分かるぞ!ようやく男友達が出来たんだ。へぇー、よかったじゃん修治。ようやく念願の友達だね。ププッとそういう意味だ!


「僕は受験と科学が友達だ。後は数学も入れてたら。彼らは無形だが想いはある。友達としてカウントしていいはずだ」


「な、何を言っているの修治?

また被害妄想とか入っていない。ほら、せっかくの友達が引いているわよ」


ふむ。それはまずい、危うく一日にして友を失うところだった。

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