短冊とサインペン
「おっ、来たね」
商店会の会長さんが、しわだらけの顔をくしゃっとさせながら、短冊を手渡してくれる。
「ありがとうございます!」
わたしは短冊を受け取り、半分ほどあーちゃんに渡す。
会長のおじいちゃんは、いつも短冊を十枚くらいまとめて渡してくれる。
おじいちゃんから見たら、あーちゃんとわたしが小さい頃の、二人して何枚も書き損じていた印象が抜けないのだと思う。
「今年はね、和菓子の蔵田さん張り切って新しいお菓子作ってたよ」
「わあ、すごい! あーちゃんと一緒に行きます! 楽しみだね、あーちゃん!」
「うん」
あ、ほんの少し声のトーンが高い。あーちゃん甘いの好きだもんね。
それから、おじいちゃんと二言三言交わして、サインペンを二つ借りた。
短冊に視線を落とす。
「あー、今年は何を書こうかな。あーちゃんは決めてた?」
「今考えてる」
あーちゃんも、短冊を見つめながら、真剣な表情をしていた。
保育園か幼稚園かの頃に絵本で見たような気がするけれど、七夕のお願い事は、本当は上達したいことを書くものらしい。
でも、既に結わえられている短冊を見ると、家内安全、商売繁盛、縁結び等、まるで神社のようだった。
お願い事。なんだろうな。いまは勉強や部活をがんばろうって感じだし、やっぱり将来のことかな。
将来かあ。小さい頃から高校に通うまで、ずっとあーちゃんと一緒だったけれど、この先はどうなのかな。
もう一年もしたら、進学か就職か、進路のことを考えなきゃだよね。
あーちゃんは前に商学部に行きたいと言っていたけれど、今はどうかな。わたしも、どうだろう。
あーちゃんと違う進路になることもありそうだけど、それでも、できれば一緒にいたいな。
――あーちゃんと、ずっと一緒に――
ぼんやりと考え事をしていたら、短冊にそのまま、今の気持ちを書いてしまっていた。
この短冊をあーちゃんに見せるのは、さすがに少し恥ずかしい。
書き間違えたことにして巾着袋にしまい、新しい短冊を手に取る。
「うーん、悩むなあ。もう一回見てくるね」
少し考えても他に書くことが思い浮かばなかったので、あーちゃんに言い置いて、もう一度他の人の短冊を見ることにした。
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