19:姉妹達〔シスターズ〕<前編>
――――――― 7 ―――――――
――痛い、いたい、イタイ!
体中が、お腹の中から、骨の中から、細胞の中から、鈍痛が、激痛が、
耐え
気が、気が狂いそう――
「大丈夫だよ」
隣りで眠っていた
いつものように――
その小さい手。握った状態から
わたしが教えた、今は、わたしと彼女だけのサイン。二人の絆。その
「さぁ!」
痛みに震え
突き合わせる、拳と拳を、擘指と擘指を、季指と季指を。
凱旋弓を合わせたその
「大丈夫、――二人で、二人でなら、乗り越えられるから」
――ありがとう。
薄汚れた寝台。二人抱き合い寄り
必ず――
必ず、二人で。
そして――
せめて、笑い乍ら、
――さよなら。。。。
―――――
「それにしても驚いたぞ、マリア」
「――なんの話だ」
「
「不服か?」
「
「皮肉か?」
「いやいや、本心だよ。なにせ、次の仕事は優秀な戦士じゃないと
こいつ、今日は
こんなにも詰まらない男が垣間見せる気分の変調。
こいつの
いつもであれば無味乾燥で詰まらない会話を
「キツい、とは?」
「とある貴族領内での鬼衆退治だ」
「つまり、領主からの依頼、と云う訳か」
「いや、それが違うんだな」
「――なに?」
鬼衆狩りの依頼は大抵、集落の
ディナンダの
結社は報酬を受け取ったのか?
まぁ、そんな事はどうでもいい。
人間は
依頼主も疑わねば、わたし達と云えど、命が幾つあっても足らない。
「
「――
「……――
「いいや、至極
「――方、か……」
――敎會……
結社にとって数少ない明確な敵。鬼衆共以外でこれ程明らかな敵対者も他にない。
結社は方針転換したのか?
いや、オーダー666は生きてる。
全く、呆れる程、酔狂。
「鬼衆そのものより依頼主が気になると云うのは、あまり宜しくないな、マリア」
「どういう意味だ?」
「今回の相手は、
「! ――デスロード……確かなのか?」
「無論。私がそう云い切るのだから間違いない。そうだろ?」
――
鬼衆の中の上位種。
奴等は、鬼衆を生み出す正真正銘の化物。
「お前にとって、始めて
「――何故、わたしなのだ? 他に適任者がおろう」
「いや、まあ、そうなのだが、今となってはお前が“適任”なのさ」
「どういう事だ、ハキム? 内情が分からない
「そう云わんでくれよ、マリア。もう何人も断られ続け、
「――二人目? 仮にわたしが引き受けたとして、そいつと協力して
「いや、お前一人での退治になる、かな」
「……なに?」
何の
「わたし一人で斃すのはいいとして、一人目はどうした?
「いいや、生きている、元気さ。元気過ぎる、と云っても過言ではない」
「――……どういう事だ?」
「そら、コレを受け取れっ」
「!?」
指先で弾かれた小さなそれを、反射的に受け止める。
――こ、これは!!
なんで、こんなものが!
「ハキム!
「今のお前から見て、この私が巫山戯ている
「!? ――そんな筈は……」
「
「――……」
嘘だ――
有り得ない。
――約束したのだから。
「確かめないのか?」
「……――」
コインを指先で
違う……
刻印を
いや、違うんだ……
多分、感覚が、感触が、鈍くなっている。疲れているんだ、恐らく。
だから、これは間違い――きっと。
「――何処だ」
「ん? どこって、引き受ける気になったか? よし! 貴族領へは――」
「違う」
「なに?」
コインを胸元に摘まみ上げ、
「何処だ!」
「……いや、だから、貴族領だよ。その南西に位置するガンビアの山」
「――分かった」
「まあ、出来るだけ早く行ってやれ」
「……」
待っていろ――
わたしが、
――わたしが行く迄。
―――――
マリアは時折、姿を消す。
でも、それが仕事の話なんだと、検討はついた。
装束は綺麗になっているし、資金調達も済んでいるし、行く先も決まる。
ほんの少し、行方を
だから多分、今もきっと、仕事の話をしているんだろう。
当て
でも、目的は
――鬼衆退治。
だから、訊ねる必要はないんだ。
分かってるから。
それしか、分からないんだけども。
――!
帰ってきた。
何となく、なんとなくだけど、マリアの帰りが分かる気がする。
マリアの云う処の、臭いや
説明は出来ない。
けど、分かるんだ。
「お帰り、マリア!」
「……」
「!」
神妙な
何か、なにかが違う、いつもとは。
普段通りの無表情。
でも、どこかが違うんだ。表情が、いや、印象が暗い。冷えている。冷め切っている、そんな感じ。
――あっ!
目! 透き通るような
光が、瞳に光が見られない。まるで濁った
一体、なにが!
「どうかしたの、マリア?」
「――……明日」
「え?」
「――早く
「……うん、分かったよ」
閉ざしている――
分厚い氷の壁の様な、なにか見えない大きく冷たい障壁が、マリアの心を、いつも以上に。
不満はない。不安もない。
唯、ちょっとだけ、
――淋しい。
俺が、じゃない。
マリアが――
息が切れる。
いつものペースじゃない。
勿論、知ってる。いつも、俺の歩幅、体力に合わせてくれているのを。
恐らく、マリアにとってのこれは全然、ハイペースではないんだと思う。
マリアはいっそ
でも、速い。
着いて行くのが
何処へ、どこを目指しているのだろう。
何度目かの小休止。
無言の儘、旅路を進むのはいつもの事。
でも、休憩の時にさえ、言葉を一切
その態度や表情は、いつもと決して変わらない。
違いと云えば、その眼差しは遠くを見詰めている。
まるで、目的地を見据えているかの
自然だけど、不自然。
矢張り、いつものマリアとは違う。
「マリア……」
「……」
「ど、……どこに向かっているの?」
「……――ガンビアと呼ばれる山」
「! ザハシュツルカで地図を見たけど、ガンビアって山地だよね? かなり広い地域らしいけど……」
「――行けば……分かる」
「……見付かるの?」
「――……見付けるさ」
なんだろう、この自信。
確かに、マリアは鼻が利く。それに
――けど……
この違和感――
ちょっと違う気がする。信念のような、
なんか、変、だ。
そうだ!
ディナンダに行く前は、目的地とその予想を先んじて伝えてくれたんだ。
今回のこれには、それがない。
目的地がガンビアってのも、今訊ねて初めて知った。
それに、山地にある集落って。仮にあったとしても小さな山村くらいな
小さな村だから、その被害を最小限で食い止める為に急いでいる?
いや、これも違う。
ディーサイドは、マリア達はそんな事を気にしない。
何かが違うんだ、普段とは。
いつもの鬼衆狩りじゃないんだ、多分。
「ガンビアの鬼衆って、……どんな奴なの?」
「……」
「……ほら、
「――……ゃない」
「――?」
「――鬼衆じゃない……」
「えっ!?」
「……――」
聞き間違い?
鬼衆退治が目的じゃない?
どういう事?
他になんの目的が?
「鬼衆を狩りに行くんじゃないの、ガンビアには!」
「――違う」
「! い、一体、なにをしに??」
「
「だ、だれを!?」
「――仲間を」
「ええっ!?」
「お前達はディーサイドと呼び、わたし達は
「――……」
「――わたしが唯一“友”と呼ぶ者を」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます