18:腐乱屍臭7
――ヨータ!
ざんばら髪に無精髭、
そうか――
あんな
もう少し、考慮すべきだった。
わたしの、
「
「察しがいいな、ディーサイド。察し
「――少年を放せ」
「勿論、構わんさ。だが、
「
「有り
「妙な真似はすんなよ、ディーサイド。離れた場所からあんたを矢が狙ってる」
「――
「
「――なら、そいつに伝えるべきだ。狙う相手が違う、と」
「は、早ぐ離れろ、お゛んなァ! ガキをブヂごろされでェーがッ!」
「こいつもこう云っている。さっさと離れるんだな」
「――……」
後ろを、
「もっとだ。後、10ヤードは離れな。あの二人は上手く出し抜いたんだろうが、このガンビーノは違う。あんたらは間合が広い。もっと離れろ、俺達の邪魔ができん程にな」
慎重な男だ――
だが、慎重になる
余程、自信が、経験が、実績があるのだろう。
だが、
暗闇の違いを見極める事
わたしでさえ
「もういいだろ? その子を放せ」
「いいだろう。子供は返してやんぜ。だが、事が済む迄、そこから動くな。マークスマンはあんたを狙い続けてんだぜ」
「――」
裸絞から解かれたヨータが駆け寄る。
「マリア!」
「――無事か?」
「ごめんよ、ごめんよマリア! 俺、マリアを助けようと思って……」
「――どこか痛む処は?」
「……大丈夫」
「そうか――」
殴打の
小さな
「これを塗っておけ。傷や
「う、うん、ありがとう、マリア」
(全く、うろちょろしおってからに、このガキは! マリアに迷惑掛けさすな)
「えっ!? 今、なんか聞こえた気が……」
「――……気のせいだろう」
――こいつ……
人前で喋るな、とアレ程云っているのに。
何の
どうなってる、
「石化、か? 一体、どんな魔法を使ったんだ、ディーサイドは? こんな
斬り落とされた左腕も、鬼衆の左上半身の大半も、石膏の
石化の浸食は尚、じわじわと広がっている。
「ま、今、楽にしてやんよ。
「お゛お゛お゛っ! ブ、ブブッ、ブッ、ブヂごろじでぇーヤルぅ~!」
巨漢の男は鉄鋲の付いた巨大な棍棒を大きく振り被り、手負いの鬼衆を襲う。
唸りを上げて襲い掛かる強烈な棍棒の一撃を、鬼衆は
「あ゛れ?」
「人間風情がっ、調子に乗りおって!」
バリバリッ!
棍棒を受け止めた鬼衆の右手の甲を走る血管が皮膚を割き、
「ぬっ!? マズイ!
「喰らえっ、
突き出た甲の血管が裂け、人ならざる桜色した血の
――ぐぎゃあ゛あ゛あ゛っ!
無数の血の
筋と腱を
「グバンギ! ぬぅ、なんて
左手の
――
ガンビーノ自身は、長大な
「
螺旋を描き円錐状に
掌には大穴が穿ち、突き抜けた鋒は鬼衆の右目を貫通。回転力を得た鋒は尚も威力は衰えず、
更に、どこからともなく飛来した
「脳への
「に、にっ、にんげんめがぁぁぁあああ!
貫かれた掌を
――ぐあっ!
ドヒュン――
針の様に射出された二条の血液がガンビーノの喉仏と眉間を貫く。
致命の一撃。
「がっ……ばがなっ……こ、このガンビーノが、こ、こんな奴に…………」
どさり――
ガンビーノが崩れ落ちる。
飛来した二射目の弩箭が鬼衆の右胸に突き刺さる。
明らかに狙いがずれている。
追い詰められたモノは、例えそれが人間であろうと動物であろうと
絶体絶命の窮地に追い込んでおき
これだから、
「ヨータ、ここで待っていろ。今すぐ奴を
「大丈夫なの、マリア!」
「――見ていれば分かる」
沼岸の
刈人の射手はもう役に立たない。かなり離れたここ迄、その動揺が感じられる。鬼衆を狙う可きか、わたしを狙う可きか、その迷いが視線に、呼吸に現れている。
倒した刈人二人の血を浴び、傷を
わたしの血と
放っておいても、お前は死ぬだろう。
事実、
不要だが、踏み入れる。
こいつの
そしてそれは、あくまでも奇襲。
「――お前は終わりだ。分かっているだろう」
「……――くくくっ、
「――最期に一つだけ問う。待っていた、とはどういう事だ?」
「……細かい事を気にする奴だな……いいだろう、教えてやろう……」
「なんだ?」
「…………鬼衆の創造」
「!? ――なるほど。屍等を大量に作っていたのは、単に刈人達に追い詰められただけではないと云う訳か。
「……
「愚かな。お前が特異な
お前達が
「……くっ、くくくっ、違うなディーサイド! 種の存続や遺伝等、興味はない!
俺の興味は俺自身の進化! あの御方はおっしゃられた。我々鬼種は唯一、個体進化の出来る生命体である、と!」
「下らない。化物の
鬼衆の
流れ出る桜色の血は、陰鐵や鴆毒による
「くくくっ、興味を持とうが持つまいが関係ない。お前も俺同様、ここで果てるのだからなっ!」
「……――」
「
――ドンッ!
自爆。
肉も骨も血も、粉微塵となり放射状に飛散。
猛烈な勢いで飛び散る肉片は爆炎と爆風を伴い、周辺の草を、泥を、屍等を削り砕き、半径5ヤード程を焦土と化す。
一部を除いては――
鬼衆の血が沸騰する
爆音を伴い飛来する鬼衆の肉片は、盾代わりにしたガンビーノの遺体で防ぎ、その肉体を貫通した骨片は硬い陰鐵の刃が防ぐ。
追い込まれたモノのする事は、手に取る様に分かる。短絡的で自暴自棄。こんなものに巻き込まれよう
「マ、マリア!」
「――大丈夫。もう、大丈夫だ」
駆け寄るヨータを左手で抱える様にし、辺りを見回す。
鬼衆の支配を失った屍等は、恐水症に藻掻き苦しみ、凡そ放っておいてもその腐敗は進行し、間もなく崩落するだろう。
刈人の射手は
――それでいい。
勝算の宛のない戦いに身を置く必要等、お前達にはないのだから。
「――街に戻ろう」
「う、うん……え、えーと――マ、マリ……」
「ヨータ! 今度からは
「――あっ……」
「今夜は戻らない、と書いてあったろ?」
「……う、うん」
「どう云う意味か分かるか?」
「……」
「明朝には戻る、という意味だ」
「……うん」
「わたしは約束を
「うん! 分かったよ、マリア!」
「――ああ」
背に忍ぶ
屍等に
宿に戻り
わたしのそれは取れやしないが、少なくともお前からは消える。
それでこそ分かるんだ。
どこに居たって、お前からは死の臭いはしない。
死の臭いがしないからこそがお前の臭い。
だから分かる、お前だと。
願わくば、その儘で――
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