17:腐乱屍臭6
―――――
ボフッ!
ゴプゥッ、コポッ、ボコッ、ボコボコゥッ――
その気泡は、生命の呼吸が、肺や
そう、それはもう、呼吸
それが、――
刀身の中央を走る
この美しくも異様な大太刀はディーサイドだけが持つ。
その太刀を、
「――やはり」
汚泥から這いずり出た屍等を
独特な感触。麦
肉を斬った時とは丸きり違う弾性に乏しい
それが正に、
燃える、
屍等の全身に
間もなく、体内温度の急上昇に伴い、内圧は限界を迎え、爆発。周囲の霧が一瞬にして蒸発しながら掻き消え、腐った燃え
ザブッ、ザザッ――
ザブン!
次々と水面から現れる屍等共――
――そして、
「ディィィィィィサァァァァイド!」
不意に逆巻く水面が5ヤード程の水柱を上げ、限界を迎えた風船
「待っていたぞ、ディィィィサイド」
「殺されるのを、か?」
「くくくっ、
沼から跳ね上がるようにして一斉に
余計な動きはしない。唯、流れる様に身を引き、
怖れを知らない屍等にとって、
故に――
「ストップだ、
「
「ほ~う……なら、
生い茂る湿原植物群から
腐敗し、損壊の激しいコヨーテの、苦しそうに吐き出す
「――犬共に
「ほざけッ! 喰い殺されろ」
死したコヨーテが襲い掛かってくる。
なんの
生きている状態であれば、人間と狼の運動能力と所作には大きな違いが現れる。速筋と遅筋の差異、反射、骨格、機能、知能の違い。何より、神経伝達における抑制性。
だが、屍等化した今、飢餓感と定常動作に支配された肉人形の如き遺骸にしか過ぎない状態において、その反応速度に大した差はない。
こんな単純な
いや、闘いを知らぬのであれば、そうもあろう。
併し、それでは合点がいかない。
何故、コヨーテ迄、屍等にしたのか。
毒の血を与えた屍等を制御するには、それなりに意識が阻害される。同種である人間であれば行動原則も分かるのでコントロールし易かろうが、生態が不明な別種を制御するのは面倒。
それ以前に
稀に、人の心を維持しようと人間以外を捕食する者、同族である鬼衆共から
それに、待っていた、とは……
こいつ、まさか――
――
何より、
死卿に近しい
軸足を中心に
地面と並行線上、浅い角度で
人もコヨーテも変わらない。屍等と化した
尋常ではない速さとは云え、単調な突進を繰り広げるコヨーテ達を立て続けに斬り伏せ、鋒を鬼衆に向ける。
「どうした、化物? 屍等ではわたしの相手にはならない。分かっただろう」
「……確かにな。流石は
「――なに?」
「間抜けがッ!
「――……こ、これは」
周辺、至る処から奴の気配がする。
――どうなってる!?
霧!
実に、実に淡い、色を色と認識するギリギリのライン。それくらい淡い、薄紅色の
奴の、
「――なんのつもりだ、化物」
「
沼から吸い上げた水に血を混ぜ蒸散、
「……」
「お前達ディーサイドは
「――……」
「蒸散させた俺の血で、お前の感覚は麻痺している。既にお前は、俺の姿を
そして、――ここからがお前の地獄だ」
沼から更に数体の屍等が出現。
藻と泥に汚れたローブ、深々と被ったフード。
――同じ。
鬼衆と同じ恰好をした屍等がぞろぞろと現れ、間合いを詰める。
霧雨と
「くくくっ、見分けがつくまい。お前は俺を見付けられぬ儘、ここで死ぬのだ」
「――
「ふん、ハッタリを
やおら左手首を突き出す。
太刀の刃を手首に当て、さっと引く。
ぱっと散った鮮血が辺りに散り、血
「な、なにをっ!?」
飛散した鮮血がローブの人物に触れた瞬間、黒煙を上げ、竹が割れるような甲高い破裂音が辺りを包む。
その瞬間、そいつは狂ったように
屍等達は
「なっ!? なにをした!」
「
「なっ……なんだ、それはっ!!?」
「安心しろ。お前が撒き散らした
「!!」
「こうすれば話は別だ」
太刀のスプラッタ機構に手首の血を
同じく、マリアの瞳も
「ぐっ! な、なにかマズいッ!」
鬼衆の
――
「遅い!」
「ぐああぁぁぁぁっっ」
薄紅色の鬼衆の血は、陰鐵に因ってドス黒く変色、焼け焦げた臭いが辺りを覆う。
続け
「ぎっ、ぎざまぁぁぁぁ~! な、なにをした!?」
「さっきも云ったろう、
「おっと、そこ迄だ、ディーサイド!」
――!?
周囲の霧に混じる鬼衆の気配と屍等の放つ悪臭に気を取られ、背後の人影に気付けなかった。
一体?
振り向き
「――なん……だと!?」
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