15:腐乱屍臭4
―――――
睡眠不足――
野宿をしようが、怖い目に
久々の
だが、深い眠りは一段落した後、身の毛も
頑丈に補強された窓の外、その階下、四方八方から
扉を叩く様な音、引っ
目に見えない、
――怖い。
見えないからこその恐怖。
マリアは?
マリアは平気なの?
隣りのベッドでこちらに背を向け、静かに眠っている。
静寂を
戦いに明け暮れる彼女にとって、この程度の
俺ももっと、心を強く持たないと!
窓側に顔を向け横たわるマリアが、その
――彼女はそう、誰よりも繊細だった。
―――――
霧に包まれた闇夜の街並みを見通すのは至難。
唯、あちこちで聞こえる不気味な声が
「チッ! また、増えてやがる」
「奴も相当焦ってるんだろう、あいつが来たせいで」
「焦ってる? 違うだろ! 焦ってんのは俺達の
寝静まった街、深い霧に包まれた夜更け過ぎの街中は地獄絵図。
神経系も死に絶えているこいつらは筋組織や骨組織への損傷を無視し、確かに人の限界を超える動きを見せはする。
唯、面倒なのは
下手すりゃ、掠り傷一つで奴等の仲間入り。傷一つどころか、その体液さえも危険。実に面倒。
鬼衆本体と違って、頭部を破壊しても活動を止めない。
リスクに対して割に合わない。
「どうするか……
「んな事ぁ~、始めから分かってんだよ。
「それこそ、ガンビーノは始めから云ってただろう。ディーサイドに
「チッ! 気に食わねぇ~な」
「賢くなれ、ギーク。強さだけで何とかなる相手じゃないのはお前も分かっているだろう」
「……チッ!」
―――――
あっ!
眠ってた。
あんなに外が気になって寝付けなかったのに、いつの間に?
「――目が覚めたか?」
「あっ、おはよう、マリア。あれ? もう身支度済ませてるの!?」
「お前はもう少し休んでおけ。あまり、眠れなかったろ?」
「……でも――」
「人間にとって睡眠は重要だ。今の内、充分、寝ておけ」
「う、うん……」
寝てはいたけど、寝た気がしない。そんな感覚をマリアは気付いてくれているんだ。
それに――
――今の内、って。
マリアは、早い段階で動くつもりなんだ……
鬼衆狩りに。
この時、俺は自分の装備品が置かれた机の上にある封書の存在には、まだ気付いていなかった。
独り、宿を出る。
日は
武装をした小集団が
――なるほど。
人出は少ないものの、家屋の一部を補修する町民の姿が見られる。
凡そ、もう慣れたものだろう。
夜間に襲撃され、損傷を受けた外壁の修復。
屍等の
人間というものは怖ろしい程、順応が早い。適応力、とでも云う
屍等の習性に詳しい者
奴等が夜間にしか活動できないのを。そして、防衛を、
正しい。
それでいい。ああ、それがいい。
臆病でいい。臆病になる事を責めはしない。臆病たろうと欲す我が儘は命を存続させる為の努力。種の存続たり得る
死を撒き散らす屍等とは違う。
街を見て回る。
手掛かりを捜している訳じゃない。
騒ぎの規模、その程度。
奴等は本能の
――指示。
創造主である鬼衆の
果たして、この街の屍等は、いずれで動いているのか?
やはり、臭いでは探れない。
とは云え、こいつは
いや、隠している訳ではない。
全く息吹鬼を感じない――
新設された宿場町だけあって、確かにこの街は広い。とは云え、そこ迄の規模ではない。この街より遙かに大きな町であっても息吹鬼は探れる。
にも関わらず、
どうなってる?
どんな策を弄したと云うんだ、奴は?
嫌な臭いに混じり、ひりひりと絡み付く視線に、
人々から怖れられ、
明らかな敵視。そして、
――
「なにものだ?」
誰かを特定した訳ではない。
背後に
閑散とした街中にあって、それで充分。
二十数歩程斜め後方、奇抜な軽戦士風の恰好をした若い男。見覚えがある。使役非人斡旋業組合、奴隷商ギルドの宿舎を出た処に居た者。
その十歩程度後ろ、道を挟んだ反対方向に
共に街の住民がするような恰好ではなく、
若い
「フン、スカした
「いや、失礼。我々はギルドに雇われた者でな。鬼衆狩りの助勢を願い出たい」
素っ気なく、
「――助勢など、いらぬ」
「チッ!
「口を
「――わたしに名など必要ない。どうせ、誰も名では呼ばない」
「ハッ、違ぇーね~な」
「……鬼衆相手に我々の助勢がいらない、というのは分かっている。
「――
「!! チッ、よく分かってやがんぜ、ディーサイド様はよ」
「黙っていろ、ギーク! 正に君の云う通りだ。
「――なるほど」
「具体的には、我々の知り得た情報を君に伝えよう。
「――いいのか? わたしが鬼衆を倒してしまったら、お前達はギルドからの報酬を受け取れまい」
「構わんさ。我々は
「――……分かった」
ガトーと名乗る中年の刈人は、ディナンダに来てから探った情報を静かに話し始めた。
まず、彼等は五人でチームを組む刈人である、と。
一週間前に他のメンバーに先行して、今の目の前にいる二人がこの街に入り、他の
わたしが云い当てた通り、初日から奴隷商ギルドの商品である奴隷を撒き
作戦は上手く運び、初日時点で鬼衆が現れた、と云う。
鬼衆が食餌中の処を見計らって、二人掛かりで奇襲を仕掛けた。傷を与えはしたものの、致命傷には届かず、逃げられた。
この初日の作戦で仕留められなかった結果、鬼衆は闇夜に
鬼衆が、屍等がどこに
かなりの数が屍等になっている為、それが潜伏出来そうな建物は全て調べたが、発見には至っていない。
唯、一つだけ分かっている事がある。この街の屍等は、消耗が激しい、と。要は、腐敗の進行が早いらしい。霧が多く発生するこのディナンダならではの特徴、
――よく出来た話、だ。
わたしが問い
まず、こいつらのメンバー五人は、
二百ヤード程離れた場所に隠れ、
他一人は見当たらないが、先行した二人のみ、と云うのは嘘だ。
二人掛かりの奇襲で傷を与えた結果、屍等を作った、と云うのも嘘。
いや、――正確には、語っていない内容がある。
恐らく、餌にした奴隷に
鴆毒とは、銀、の事。
鴆毒を盛られ、罠を張られ、二人、
これくらいの
少なくともこの刈人二人、それなりの技量を持つ者だと推測出来る。
この
凡そ、
それにしても――
こいつらの云う通り、あれだけの屍等、どこに
辺りに
腐敗が早いというのも気になる。
恐らく、このような特徴を語った点、これは事実。虚言でこんな雲を掴むような話など、すまい。
息吹鬼の未検知、そして、多くの屍等が潜む場所。
――なにか……
兎も角、もう少し街を見て回ろう。
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