14:腐乱屍臭3
―――――
石造りの街並みは――
――
ディナンダ――
ヌーノイン湿地に入り、二日半程北西に歩んだ先にある大小の沼ギワンヌとブーブーゲエの両
東西南北各処からの交易品や湿地帯で
街の歴史は浅く、ナイアーラ商会協力の
未開地の開拓を行った両貴族には王国より
街道の名は、両貴族の名からグロテストン街道と名付けられた。
それ程、この街道を通る交易品の多くは、奴隷達であった。
そんなディナンダの街で小さな事件が起こった。
とある奴隷商人が運んでいる商品が
当初、沼
その後、
ところが、街側に被害がない上、
勿論、この程度で被害がなくなる訳もなく、ギルドは強行手段を
猟奇殺人が夜間に起こっている事から推測し、
更に念の為、もう一つの依頼先にも――
―――――
「――なに、この街……」
比較的賑やかな宿場町って、マリアから聞いてた。
でも、目の前に広がる光景は、まるで違う。
家屋の窓や壁各処には板が打ち据えられ、補強されている。店は開いてはいるものの、店外に商品は出されてはおらず、槍や斧で武装した町民が複数人単位で
それに、街の至る
明らかに様子がおかしい。
横目でちらっとマリアを覗く。
いつもと表情は変わらない。
石壁で囲まれた市に歩を進め、奥にある宿舎のような建物に向かう。その石造りの
「――ここ、だ」
出入口にある石看板には、
聞いた事がある――
故郷のラゴンのような村や田舎では見た事がないけど、大きな町では奴隷がいるって聞いた事がある。
小さい時、両親や近所の大人達によく脅かされた。悪さをしてると奴隷商に売っちまうぞ、って。
使役非人って間違いない、奴隷の事だ。
「マリア、ここ、あんま良くない処だよ。入っちゃダメだよ」
「――何を云っている? 依頼人はここにいる」
「え!」
結社に鬼衆狩りを頼んだのって奴隷商だったんだ。
街の代表とか町長とか、集落のお
中に入って案内されると、そこに現れたのは装飾華美な装いの、見るからに成金と云った印象の
俺には目もくれず、マリアの全身を
「ようこそ、遠い処をわざわざ。組合ディナンダ支部長のギュウギです、以後よろしく。それにしても、
「――それより、犠牲者は、喰われた被害者の数はどれくらいだ?」
「……7名ですな。全て
「――で、行方不明者の数は?」
奴隷商の表情が引き
「……ゆ、行方不明――お、おお、そうでした、そうでした。私ら商人仲間が3名、非人が12名ですな……」
「――街の
「……詳しい人数迄は分かりませんが、凡そ20名前後か、と……」
「――そうか、分かった」
そんな
これだけの被害が出ているにも関わらず、依頼主は街の代表ではなく、一組合の長ってのが、
一体、どうなってるんだ、この街は?
「……それで報酬の件ですが、その~……――
「先に鬼衆を倒した方に払う、――と?」
「……いや~、その~私らもほとほと手を焼いておりましてな。一刻も早く
「別に構わない。わたしより先に刈人が倒せば、彼等に支払ってやるがいい。わたしは依頼があったので来た、そして、任務を遂行する、それだけ」
「おおっ、そうですか、そうですか! いや~、それで頼みます!」
刈人?
刈人って、なんだ?
マリア達の結社以外にも、どこかに鬼衆狩りを頼んだって事だよね?
そんな組織があるなんて聞いた事がないけど……
それにしても――
まるで、マリアと
なんて酷い連中なんだ。
確かに、被害が凄くて
本当、
「行くぞ、ヨータ」
「――うん」
組合の宿舎から出る時、
妙な雰囲気。
俺にさえ分かるんだから、当然、マリアだって気付いている。
でも、マリアは無関心。
うん、多分、それが一番いいのかも知れない。
よく分からないけど――
ディナンダの街を少しだけぶらつき、手近な宿に入る。
基本、商売は、店はやっている。
唯、緊張感が漂う、そんな印象。
宿の扉は内側に複数枚の
かなり、外からの侵入に対し、気を遣っている様子が
宿屋の主人はマリアを見て、一瞬驚きはしたものの、そこは商売人、すぐに接客モードに入る。
「長旅、お疲れでしょう。お二人様で宜しいですか?」
「うむ」
「あなた
「――どんな約束だ?」
「実に簡単な事に御座います。訳あって、日の入りから日の出迄、宿の出入口を全て封鎖しております。ですので、夜間の外出が出来ません。それでも宜しければ是非、お泊まり下さい」
「――いいだろう」
「それから、お部屋の窓は閉じさせて戴いております。外と内から木材で封じておりますので、こちらもご了承下さい」
「うむ」
意外――
マリアは
夜間に活発に活動する鬼衆を狩りに来たのに、夜間外に出られないってのは痛手になる筈なんだけど、いいのかな?
主人に案内され、二階の角部屋に入る。
もし、鬼衆が暴れ回っていなければ、きっと快適に過ごす事が出来たに違いない。
部屋の使い方や食事について一通りの説明が終わると、主人は戻っていった。
荷物を置き、ベッドに腰掛け、疑問をぶつける。
「マリア、なんで夜間の外出が禁止されてるのに、この宿を取ったの?」
「――この街では臭いが宛にならん。故に、
「それに?」
「騒ぎがどの程度かを知っておく必要もある」
――様子を
やっぱ、犠牲者の数の多さが引っ掛かるのかも、マリアも。
「もしかして、アレなのかな? 犠牲者が多いってのは、鬼衆が何人もいるって事なのかな?」
「いや、恐らく一匹だけ」
「! って事はもしかして、そいつが
「ほぼ間違いなく、な」
気になる――
事前に聞いていたとは云え、なぜ、他の鬼衆と違って屍等を作ったのか?
――もう一つ……
「そういえば、
「――そうか、
「リーパー? ……死神??」
「わたし達と、同業、そんなところだ」
「えっ!? 同業ってことは、鬼衆を退治するってこと?」
「そう。報酬を受け取る代わりに鬼衆を狩るもの――違いといえば、わたし達は
「……」
――凄い。
人の身で鬼衆を狩るなんて、正直、凄い。
でも、なぜ?
鬼衆退治を頼むのは、半死半生の狂戦士と怖れられるディーサイドって相場が決まってる。
どうして、人間だと分かっている刈人への依頼が検討されないんだろ? 実際、今迄聞いた事もなかった。
「でも、マリア? なんで、鬼衆退治を頼むのはディーサイドなんだろ? 俺、刈人に頼むってのは聞いた事がないし、知らなかったし」
「――わたし達は人々に怖れられている。だが、それ以上に奴等は
「悪名?」
「奴等の鬼衆討伐達成率は低い。狩りにかかる期間も、集落の規模や対象となる鬼衆の強さにも
「ああ……」
「仮に報酬額がわたし達と同じであったとしても、滞在期間中の奴等の衣食住は依頼元が補償しなければならない。奴等は
「冤罪?」
「そう、鬼衆ではない人間が疑われ、監禁や拷問、
「そ、そんな……」
「――わたし達と奴等の決定的な違いは、奴等は鬼衆を特定する
――そうか!
鬼衆を鬼衆として知覚できるディーサイドと違って、
だから、討伐に迄時間もかかるし、鬼衆を
ハッ!
もしかして――
「この街の鬼衆が屍等を作り出したのって、まさか……」
「――そう、奴等が鬼衆を追い詰めようとした結果」
――な、なんて皮肉な!
鬼衆を倒す為に雇われた刈人が、その被害を拡大させてしまう要因になるなんて。
分かっているのだろうか、刈人達は。
刈人――
なんて、怖ろしい……
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