12:腐乱屍臭1
――――――― 6 ―――――――
家や宿の竈の火起こしはしょっちゅうやってたけど、
これからの旅路は
俺にできる事は限られている。だから、できる事は率先してやり、覚えて行かなきゃならない。
それが、拾ってくれたマリアへの
――焼けたかな?
マリアが獲ってきてくれた野ウサギを直火で焼き上げる。
調味料の類は一切ないので、手近な
しっかりと中
切断面の骨周りを覗く。これがほんのりとピンク色になれば
丸々と太ったウサギは、多分二人で食べるには大き過ぎる。余った分は干し肉にする為、火から遠ざける。
「美味そうに焼けたよ、マリア」
マリアから渡された
この
そんな大事なものでウサギ肉を切り分けるっていうのも、何かおかしいけど鬼衆以外には無毒なんでこれを使う。勿論、ディーサイドにも無害、大丈夫。
「はい、マリア。味付けできないから味は分からないけど、火加減は丁度いい
「――うむ」
「よし、いただきます!」
美味い!
勿論、家や宿で調味料を使って丁寧に作った食事には遠く及ばない。それでも、自然な旨味がよく出てるし、何より空腹が最高のスパイス。それに最近、保存の利くものばかり食べていたから、火の入った食事はもうそれだけで贅沢。
弾力のある赤身肉は触感がある分、食べ
これで明日も頑張れる!
あれ?
マリア、食が進んでない。
ほんの少しだけ
「美味しくなかった? 少し臭みはあるけど、食べておいた
「いや、わたし達は食が細くてな。ほんの少し、3日に一度、口にすれば十分」
「そ、そーなの?」
「一週間なら飲まず食わず、水さえあれば一ヶ月程度、十分
「えっ、ええ!?」
「それにもし、――……いや、なんでもない」
「?」
知らなかった。
そんなに食事を必要としないなんて。
いや、それだけじゃない。
俺はマリアを、ディーサイドの事を、なにも知らない!
「わたしの代わりにお前が喰え。人間には食事が必要だ」
「――うん」
聞いてもいいんだろうか。
ディーサイドの事。結社の事。鬼衆の事。そして、マリアの事。
これから一緒に旅をする上で多分、必要になる事。知っておくべき事、知らなきゃいけない事――
――いや、違う……
俺が、聞きたいんだ。
好奇心――
恐らくは、俺の興味本位。自分勝手な我が
それでも知りたい。聞きたいんだ!
「ねぇ、マリア、
「――なんだ?」
「その~……俺、マリア達の事、全然知らないんだ。この前みたいに、マリア達と似た恰好をした奴と
「――そんな事か。いいだろう」
「あ、ありがとう!」
「――まず、
「うん」
「とは云え、結社も金品調達の為、この
「!? ああっ!」
首元に
云われてみれば、ラタトの森で出会した鬼衆の装束には、この印章はなかった。
「あれ? でも、隣りにある数字は?」
「わたし達を個別に識別する為。例えばわたしの場合、<
「へぇ~!」
全然、気付かなかった。
マリアの装束が、
「仮に、考え
「え? あ~、うん、そーだよね」
「一番分かり易いのは、これ、だ」
月明かりの下、マリアは首を
短めなその銀髪を
「えっ!? 色が一瞬、変わった!」
「わたし達はよく銀髪
「……」
「陽光の下、髪を激しく振れば、恐らく、虹色、
「……な、なんか、凄い!」
これも気付かなかった。
ほんのちょっと聞いただけで、俺の知らない事がどんどん出てくる。
俺はディーサイドについて、何もかも分からない。
「どちらにせよ、わたし達には近付かない方がいい」
「ええっ! どうして?」
「わたし達のフリをした者には悪意がある。わたし達自身に悪意はないが、存在自体が害になる。近付かない方が
「……」
マリアは、自分達の事、ディーサイドの事を避けるよう
確かに、鬼衆を倒す為だけに存在する組織ってのは、何とも云えず怖ろしい。けど、だからと云って、そんなに距離を置くべき存在なのだろうか?
「前、マリアは結社に名前はない、って云ってたけど、それはどーして?」
「不要だから。極北の地にある結社、と云えば、それだけでわたし達だと通じる」
「ああ、……うん」
「――……一応、対外的にわたし達戦士を指して語る自称も、あるにはある」
「え! 本当? なんて云ってるの?」
「――
「へぇ~、そう云う呼び名があったんだ!」
「あくまでも必要が生じた時にのみ、第三者にそう伝えるだけの事。わたし達が自らそう呼び合っている訳ではない」
「そうなんだ! やっぱアレなのかな? 本当の姉妹みたいに強い
「――違う」
「え?」
「わたし達は皆、銀髪白眼故、よく知らない者からすれば印象が似たり寄ったり。故に、姉妹、と称しているだけ」
「……」
なんだろう。
仲間達とは、あまり仲良くないのかな?
「ところで、マリアはいつ結社に入ったの? 切っ掛けは?」
「――……」
――あっ!
こ、これは聞いてはいけなかったのかも知れない。
表情こそ変わりはしないけど、瞳を閉じ、明らかに空気が張り詰める。
静まり返った夜の森、ぱちぱちと燃える焚き火の音だけが響く。
話題を、話題を変えないと。
「え、えーと――マリアは、結社の中で仲の良い友達とか……」
「……――」
その
――!?
不意に目を開け、立ち上がるマリア。
振り返り、暗闇を見詰める。
そして、間もなく森の奥に歩を進める。
一体、どこへ?
「ど、どこに……」
「そこで待っていろ」
「!」
こんな夜更け、一人で一体どこに……
ま、まさか――
――お花摘み、かな?
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