11:追憶を越えて3
その背後より右
その
「クッヒャッヒャッヒャッヒャッキィーッ! ヤッた! ブチ抜いてヤッたぜェ、ディーサィドッ! 肩と
――あっ!
抱えていたヨータを放り出したマリアは、右胸から突き出した鬼衆の右手を握り締める。
その
ギャッ――
後ろ回しの回転力にマリアの体重が合わさって
――みしっ!
変形の
「グァギャァァァアアーッ!」
いつの間にかマリアの瞳は
仰向けに倒れた状態の儘、マリアは更に鬼衆の砕けた右腕に力を込める。
苦悶の表情を浮かべる鬼衆は絶叫!
ぶちぶちと不快な音を立て、その醜く長い右腕が
ギャァァァアアアッ――
薄黄色の鮮血を撒き散らし、鬼衆は
強引に
両肩のラインを鬼衆の顔面の上空に固定し、左右の
――ガフッ、ゴフッ、ゴププッ!
左右の連打は短いストロークで打ち下ろされ、顔面を、
彼女の凍てつく怒りが
「こいつら鬼衆はッ」
――右拳を落とす!
「陽光を致命、
左拳を落とす――
「他種への依存と共存に
――
「そして、頭を、脳を破壊すれば
鬼衆に断末魔さえ上げさせず壊した。
まさか大太刀を使わず、素手で鬼衆を粉砕するなんて、一体誰が予想し得ただろうか。
鬼衆の薄黄色の血とマリア自身の赤い血が辺りを濡らす。
頭部が砕かれた人型の残骸に
彼女は――正しく、戦士、だった……
―――――
背後から貫かれ、突き刺さった儘の鬼衆の腕を無理矢理に引っこ抜く彼女。
ひゅーひゅーと苦しそうな息をするマリアの瞳が再び赤く染まる。
右胸に開いた大きな傷穴がみるみる
苦しそうに
「マリアッ! マリアーッ!」
駆け寄った俺に彼女は声を掛ける。
「……大丈夫か?」
「マ、マリアの
「……無論だ」
ひゅーひゅーと嫌な音の混じる荒い呼吸。明らかに苦しそう。
「お、俺のせいでごめんよ、マリア! こんな酷い目に
「……お前のせい? なんの事だ?」
「――えっ?」
いつの間にか白眼に戻っている。
呼吸を整えるよう
「……太刀を捨てたのは戦術だ、お前のせいでもお前の
「――……」
「奴はすばしこい。お前ごと斬り
「で、でも……」
「太刀は武器の一つに過ぎない。鬼衆を倒す方法は幾らでもある。木漏れ日による陽の
「……」
――違う。
そうじゃ、そうじゃないんだ――
俺がいなければ、マリアは傷を負う事なく、あいつを
それくらい、圧倒的な力量差があった。
奴の
俺がいたから――俺が邪魔をしたから、あんなリスクを背負った戦い
「――なぜだ?」
「え?」
「なぜ、あの
「……――」
――頭が真っ白になった。
なんて答えたらいいのか、分からない。
自分がどんな顔をしているのか分からず、見られたくもなかった。
「――捨てられたのか?」
「!?」
……。
ち、ちがう……お、俺は――。
――俺は……鬼衆なんかじゃ、――ないんだ!
―――――
――なんて顔。
そんな顔、そんな表情を浮かべてたら、そうです、と云っているようなもの。
感情なんてもの、持っていてもなんの意味もない。
心曇らせ、思考を鈍らせ、表情にした処で何も解決しない。
そうだろ?
そうなんだ!
だから――
だから、表情なんてもの、心なんてもの、捨て去った
何もかも、全て捨て去った方がいい。
――わたしのように……
(……お
(お兄ちゃん……)
(パパが……ママが……)
(お兄ちゃん……)
(――お兄ちゃん!)
(……お兄ちゃん――)
(なんで――こんなことするの……)
(――お……にぃ……ちゃ――)
――ザシューッ!
目の前を。
桜色の血が、闇に舞う……
――なに……これ…………
「マリア……」
「――可哀想に」
「親父さんもお袋さんも殺害された上、目の前で
「それが兄の仕業だったなんて……なんと声を掛けてやれば良いのやら」
「お兄さんが鬼衆だったとは……」
「――それにしても」
「うむ、誰が面倒を見るか、って話だが……」
「……――」
「――……」
「あ、あの子が、その……」
「――ああ、」
「……鬼衆じゃないとは、限らない――」
「――証拠がない」
「鬼衆の犯行現場におって、それでも生き残った者、それが一番危ない」
「――マリア、お前は……」
「お前は一体、――何者なんだ?」
わたしは
わたしはすれ違うだけ、誰の記憶にも残らない、思い出にもならない。
わたしは顔のない化物、心のない化物、名前のない化物。
わたしは永遠に追い続けるだけ、決して届かぬその先へ。
わたしは戦い続けるだけの旅人、戦い
わたしは――
それでも、わたしは――
――捨てられたんじゃない……
捨て去ったんだ、わたしが――
―――――
「ち、ちがう……俺は、俺は――鬼衆なんかじゃない……俺は――」
――……。
「――旅は……」
「!」
「――旅は好きか?」
「?」
「――お前は旅が好きか?」
「うん!」
「そうか――」
――いい顔、だ。
「なら、……少しの間、旅するか――」
「うん!」
「お前が飽きる迄……旅に疲れるその時迄、わたしと共に来るか?」
「どこ迄も行くよ、一緒にッ!」
……なんて、いい顔を浮かべるんだ。
わたしが忘れた、捨て去ったその表情。
まるで、お前の表情は、太陽のように暖かだ。
凍えるわたしの心を――
――溶かすかのような、
太陽のように明るく
――ああ、
よし、――
「――行くぞ、ヨータ」
「行こう、マリア!」
どこまでも行ける、……そんな気さえ――
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