10:追憶を越えて2
はぁ、はぁ……
……はぁ、ふっ、ふぅ。
やっぱ、きつい。
街道と違って道なき道を進むのは骨が折れる。
背丈と同じか、もう少し高いくらいの
ああ、やっと。
やっと森に入れた。
こっちの
それにしても薄暗い。
夜の闇程じゃないにしても、
早速、
多分、
旅には、体力が必要不可欠だけど、装備品も重要なんだと気付かせてくれた。
――あっ!
森の奥に灯りが見えた。
火を
見えた。
あの
異国の、この辺りでは見た事もない不思議な衣装。ごく一部しか
間違いない、あの恰好はディーサイド――……
……――あれ?
マリアの髪は、もっと白かった。透ける様な銀髪、輝く様な白髪、幻想的な
「――待っていたぞ」
「!?」
その声は、低めの
振り向いたその顔は、確かに美しい。美しいのだけれど、なにか違和感を感じる。
あ、そうか――
薄い、凄く色素の薄い
それに、睫毛や眉毛にも色がある。根本的に、神秘さが足りない。
そうだ、アルビノじゃないんだ!
今、目にしている彼女には、色素、がある。
マリアとの違い!
でも、だからと云って、それがディーサイドじゃないとは云い切れない。
何故なら俺は、マリア以外のディーサイドを見た事がないのだから。
「――えーと……お姉ちゃんって、ディーサイド?」
「……そうだ」
「……」
「頼まれて君を迎えに行ったんだが一足違いだったようだ」
「――ああ、うん……誰に頼まれたの?」
「仲間に、だ」
「――その人の名前は?」
「……少年。我々ディーサイドは仲間を名では呼ばないんだ。身を危険に
「――そっか……」
こ、これは……
「そんな事よりこっちに来い。腹も空いてるだろ? 食事でも振る舞おう」
「――ああ、え~と……俺、腹減ってないんだ。来る途中で喰ったから……」
「そうか、ならこっちで休め。疲れてるだろ?」
「――い、いや、大丈夫だよ……宿に、宿に戻るって約束してあるから……」
「ン? なんだ、
……ち、違う。
「――あっ、そうだ! あれ見せてよ、あれ!」
「ン? なんだ?」
「木登り! ほらっ、ディーサイドって木登り得意って云ってたから! だから……」
「……
「……」
――逃げなきゃ……
「……違う」
「なに?」
「お前はディーサイドなんかじゃない!」
「――なんだと?」
「ディーサイドは自分からディーサイドなんて名乗らない! 自分は怖くない、なんて云わない!」
「――……そうなの、か?」
「そうだ!」
「なァ~んだ! だったら、てめぇ~、最初っからバレちまってた、ッてワケじゃねーか! めんどくせ~演技なんか、シなけりゃ良かったぜ!」
「!?」
メキィ、メキキッ――
顔が、
間違いない、見た事があるっ!
これは、こいつはっ……
――
その変貌が完全に終える前に、逃げなきゃ!
握っていた
後はもう、全力で逃げる!
日中だというにも関わらず薄暗い森の中を、
掴まったら終わり……
……ッ!?
「逃がすかよォッ、このヴォゲェがァァァッ!」
そ、そんなっ!
速過ぎる……
――こ、殺されるッ!
「そこまでにしとけ、化物」
「グッ、グギギッ、
こッ――
――この声ッ!
知ってる、この声を! その姿を! その白眼の眼差しを!
「マ、……マリアッ!」
――痛ッ!
鬼衆に髪を掴まれ、引き
「遅かったじゃァ~ねェーか、ディーーサーーィド!」
「逃げ足だけは早かったからな、お前」
「へッ、
「分からなかったさ――その少年がここに向かう迄は」
「な、なにィィィ~!?」
ギャリリッ――
マリアの右手に
その礫を手首のスナップだけを
漏れ射す陽光が水分過多な森の空気に触れ、帯状の
「なんのつもりだッ、ディーーサィドッ!」
「気付かなかったよ、こんな森の中に
「なにィ~?」
「あの村から逃げ
「――ならッ、なんでソん時、襲ってこなかッたんだァ~、てめぇ~はッ?」
「すばしこいお前を夜の町で狩るのは
「それにィ~?」
――グリリィッ!
マリアはその左手にも礫を握り締めている。
「お前の臭いは薄い。それだけに居場所を特定し
「――ほ~ぅ……」
「6フィートしかない貧弱な鬼衆でしかないお前は、それだけに
「……だッたら、なぜ?」
「慎重過ぎるお前は、慎重過ぎるが故、ミスを犯した」
「……」
「――念の為の人質」
「!?」
「恐らく、わたしが沙漠から救い出した少年を町に連れて来たのを見ていたのだろう。浅はかなお前はそれを見て、少年を捕らえようと試みた――、結果」
「――……」
「潜伏先であるこの森をわたしに明示する事になった。お前は自らの策に
右手同様、左手に握った礫も頭上に投げる。
木々の作り出した天然の天蓋が
「サっきからナニをしてるッ、ディーサィド!」
「分からないのか? この森の居心地が良過ぎて忘れているのか?」
「なンだとッ?」
「
「――ハッ!?」
「陽の
右手を肩越しに回し、背の大太刀の柄を握る。
「終わりだ、化物。念仏でも唱えろ」
「……ククッ、クヒッ、クヒヒ、クヒャッヒャッ!」
「――なにがおかしい」
「いやァ~、あンた、かしこぃはァ~! アタシの
「――なんのことだ?」
鬼衆は俺の頸動脈にその鋭利な爪を
まずい――
――くそぅ!
「クヒヒッ、あンたの云う通り、念の為の人質グァ~、役に立ったかなァ~?」
「つまらん真似はよせ。わたしに人質は
「いいや、効く、効くンだよ、ソれグァ~!」
「……なぜ、そう思う?」
「クヒッ、
「!」
「あンたグァ~云ッた通り、アタシは鬼衆の中でも非力。だクァらァ~、
「……」
「てめェーらディーサィドとアタシら鬼衆の差はァ、生まレながらの化物クァ、途中から化物ニなッたかの違ィ! 元人間のあンたらと生粋の化物のアタシらじャ~、生存本能の強さグァ~違うッ」
「――……」
「まずッ、そのでッけェ~剣を捨てなッ! その剣はアタシらの躰、イやッ、血にとッて毒になル! だから、まずはソイツを捨てなッ」
「――捨てると思っているのか?」
「捨テるさッ! このグァキの命を救うのに他の選択肢はねェ~からなァ!」
「……」
くそっ!
こんな奴の思い通りになんかさせない!
「マリアッ! 剣を捨てちゃダメだぁぁぁーーーッッッ!」
「!? チッ、くぉのグァキィ~!」
ヒュン――
あっ!
――ザグン!
剣を……太刀を……投げ捨てた。
マリア……
「クヒッ! クヒャッ、クッキッキッキッキャーッ! このブァ~クァ! 本当に捨てやグァッたぜェ~~~! そォ~ら、グァキを返シてやンよ!」
体が浮く。
俺は鬼衆に軽々と
投げ付けたと同時に、鬼衆自身も
地面とほぼ並行に投げ飛ばされた俺を、その儘追うかの
ほぼ一直線上にマリアと俺、鬼衆が重なり、各々の距離が縮まる。
そして、投げ付けた俺に追い
ああ――あの怖ろしい爪に
そう思った瞬間、俺にかかっていた推力が
マリアが俺を受け止める――
――受け止めつつ、右肩を前に擦り込ませる様に左回転、
な、なにをっ!?
――グワシュッ!
俺を抱える様にして受け止めた彼女は、旋回する様に背を鬼衆に向け、その貫手を背中に受ける。
ブワッ!
鮮血が飛び散る。
鬼衆の
グハッ――
吐血したマリアが力なく
――マリア!
「マ、――マリ……マリアァァーーー!!!」
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