2:白眼の処刑人2
アルビノ、と云うのだろうか?
肌も髪も眉毛も
雪の色、とでも云うのだろうか。でも、雪ってのを見たことがない。恐らく、彼女がやって来た“極北の地”が、正にそんな色なんだろう。
瞳は、
でも、
イメージしていた白目のような、凶暴さや恐ろしさとは無縁。
妖精のような、天使のような、まるで女神のような
「は、初めて見た……」
「こ、怖ぇー」
「なんて、不気味な」
居並ぶ村人達は、そう口にする。
そうなのかも知れない。不自然な程、不健康な程の
それでも、俺は
何かこう、神聖なものでも見たかのような、心
「だ、大丈夫かよ、アレ? 俺達を襲うことはねぇーよな?」
「こ、怖ぇー」
「半分混じってるんだろ
見知らぬが故の恐怖心が招く
触発されてか、彼女が動く。
大きな
凜々しく
―――――
村長の家を出た彼女は、街並みを
物陰から遠巻きに見守る村人達の視線は冷たい。
彼女は
路地に入り、広場に出て、
何度目かの裏路地に入った時、急に彼女は立ち止まり、その背に佩いた大太刀を抜き、
「うわぁっ!?」
目の前で寸止めされた刃に思わず、
驚きより先に声に出てた。
でも、
「な、なにか悪さをしようとして
「……」
「あっ! ちょ、ちょっと待ってよ、お姉ちゃん!」
相変わらずの大きな歩幅。彼女は歩くのが速い。
でも、決して俺を
「お姉ちゃん、ディーサイドなんでしょ?」
なんとか注意を
「――違う」
「えっ? 違うの!?」
「お前達がわたし達をそう呼んでいるのは知っている。だが、わたし達の結社に名などない」
「そ、そうなんだ……」
多分、避けられてきたんだ。
それでも問い掛けには答えてくれる。コミュニケーションそのものを、彼女は否定していない。
そう、彼女も
「それにしても驚いたよ! もっとゴツゴツしておっかない大女みたいなのを想像してたからびっくりしたよ!」
立ち止まり、ちらり、と横目で俺を見ながら、
「――怖くないのか、お前は?」
「え? 怖いって?」
「わたしが怖くないのか?」
「全然怖くないよ! それどころか、スラッとしてかっこいいな~って。それにすっげ~綺麗だし!えへへ」
一切表情を浮かべないその美しい顔と白眼からは感情を
再び彼女は歩き始める。
「待ってよ!」
「――……」
「どこに向かってるの? このまま進むと街道に出ちゃうよ」
振り返り、
「街はここ迄か?」
「うん、そーだよ。畑や牧場は近辺に沢山あるけど、村の街はここ迄だよ」
「――そうか」
街道への出口。石畳が切れ、
ゲートと呼ぶには
程近い隣りに俺も座り、空を見上げる。
高い空を雲が覆い、低い位置の雲は北に流れる。今日は風が強かったんだ。そんな事にさえ気付かなかった。雲間なら差す日差しは既に夕陽。
腰掛け
「何故?」
「……え?」
「何でわたしに関心を抱く?」
――初めて。
初めて、彼女の方から話し掛けてくれた。
「だってさ、ディーサイドでしょ、お姉ちゃん」
「――それはお前達がそう呼んでいるだけだ、と」
「あっ、あ~、うん! でも、鬼衆を倒してくれるんでしょ!」
「――うむ」
「うん、それだったら俺にとっては天使様、神様みたいなもんだよ」
「!?」
俺はそん時、どんな表情を浮かべてたんだろう。
変わらない彼女の表情に、何を思ったんだろう。
「この村で二番目に出た鬼衆の犠牲者って……俺の親父なんだ」
「……」
「最初の犠牲者になった旅人が泊まっていた宿を営んでいたのが親父なんだ。だから、親父が犠牲になった時、
「……――」
「三人目の犠牲者が出て初めて鬼衆の仕業だって事になって、やっとみんな話を聞いてくれるようになったんだ」
「――そうか」
「戦う力さえあれば
だから、お姉ちゃんは希望なんだ、俺達の!」
「わたし達は、――依頼があるから鬼衆を狩る……それだけ。
「知ってるよ。でも、いいんだ、それでも」
「……」
――ゴーン、ゴーーン……
街中から夜の
「あっ! まずい!」
「どうした?」
「そろそろ宿に戻って
「――ああ、考えておく」
来てはくれない、直感的にそう分かった。
だから、俺は――続けた。
「俺、ヨータっていうんだ。なぁ、お姉ちゃんの名前、教えてくれよ。みんなに紹介するからさっ」
「――わたしに名など不要。どうせ、誰もその名でなんか呼ばないのだから」
「!?……」
その断定の
―――――
――走った。
街外れから俺ん家迄、結構ある。
もう、宿の一階に併設する酒場に
兄ちゃん、怒ってるかな?
親父が犠牲になって以来、宿の事も酒場の事も、全部一人で回している。俺が手伝える事なんて、
出来る事が限られてるんだ、せめてそれくらいはやらないと!
「帰ったよ、兄ちゃん! 遅くなってごめ……」
酒場の勝手口から入る。
いつもならこの時刻、そこには兄ちゃんがいる
キッチンから店内を覗く。お客さんはまだ、誰もいない。いつもであれば少なくとも一人、二人のお客さんがカウンターに着いている頃合い。
5人目の犠牲者に加え、ディーサイドの来訪。村人達も夜間の外出を控えているかも知れない。
そっか――
お客さんがいないから裏の家に何か取りにでも戻っているのかも知れない。
小さな中庭を挟んで立てられた小さな家屋。家族五人で暮らすには十分な建物。
今では四人になってしまったけれど、そこにはまだ、
兎に角、兄ちゃんに伝えよう。
ディーサイドは――
――怖くないって。
――あれ?
自宅の
母さんと妹がこの時間、外出する事なんてない。
灯を落とすには早過ぎるし、灯をつけないにしては遅過ぎる。
唐突な胸騒ぎ。
何かイヤな感じがする!
「母さん! 兄ちゃん! サーヤ!」
思わず叫びながら自宅の木扉を開けた
勝手知ったる我が家は、
血の雨に濡れていた。
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