第一章
1:白眼の処刑人1
【 第一章 】
――――――― 1 ―――――――
「――こ、これで5人目だ……」
早朝、村の広場に転がる、元人間の肉塊。いや、人の姿をした
全身の血液の多くを失っているにも関わらず、遺骸の周辺に目立った
「間違いない、
――
古来、人の生き血を
人間の姿に擬態し、人間社会に溶け込み、
生きる、というのは比喩。
奴等が闇の住人と呼ばれる
故に、奴等が本性を現すのは夜に限られ、人々が寝静まった深夜こそが、魔の時間となる。
「どうするんだ村長!」
「もう5人もの犠牲者が出た。一ヶ月! たった一ヶ月で5人だぞ!」
「俺はイヤだ! 化物に生きたまま喰われるなんて!」
村長の家に大勢の村民達が押しかけ、詰め寄る。
村とは云え、辺境の山村とはわけが違う。街道沿いに面したこのラゴンの村は、点在する農家の家々とは別に、集落として村民達が群れ集い暮らす街並も形成している。
最初の犠牲者は旅人だった。
この村に限ったわけではないが、余所者に、他人に冷たい。それだけ、社会は閉鎖的。
「だからもっと早くに手を打つべきだったんだ」
「どうするつもりだ村長! 化物を、鬼衆を
「このままじゃ、安心して暮らせやしない!」
――ドン!
机を叩き、詰め寄る村民と村長の間に割って入る。
「だったら、おまえ達はどうなんだ! 何ができるんだ!」
村の青年部で一番若い男コータ。
病に伏せった母と幼い妹、まだ独り立ち出来る程ではない弟を、その身一人で支える正義感の強い青年。
「夜間の外出禁令なんか出したら酒場も盛り場も潰れてしまう! 仮に村の住人にそれを徹底したからといって、外からの来訪者はどうする?」
「――いや、しかし……」
「鬼衆を探し出すにしてもどうする? 人に化けた奴等を見極めることなんて俺達にはできやしない。怪しい者や疑わしい者を問い詰めるにしたって、その基準はどうするんだ! 皆を疑って誰が得をするんだ!」
「……」
「待つんだ、コータ」
「!?」
コータを呼び止める村長。
一瞬の沈黙。
そして、その重い口を開く。
「これを見てくれ」
机の上に置かれた漆黒の封書。
「そ、……それは?」
「3人目の犠牲者が出た後、送った書簡への返事が届いた」
「……?」
「来てくれるそうだ」
「えっ?」
「――ディーサイド」
一同、一様に
ある者は目を見開き、ある者は口を
「ディ……ディーサイドっ!?」
「しょ、正気ですか、村長!」
「あ、あんな化物を呼ぶなんて……」
「皆に相談なく奴等を呼んだのは、すまないと思う。
「……」
黙り込む、村民。
村長の言は一々
毒を以て毒を制すではないが、凡そそれしか方策はあるまい、と皆感じている。
そんな中、コータが口を
「で、ですが村長! 奴等の力が噂通りとも限りません。もし、鬼衆の判別を誤れば冤罪で危機に
「――他にあるまい」
「!?」
「馬鹿げた額の報酬の支払いも承知。だが、放っておけば村そのものの存亡も危うい」
「で、ですが……」
「奴等の到着が間に合っておれば、もしかしたら5人目の被害者も出さずに済んだやも知れぬ。鬼衆への恐れから生活に支障を来す者も出ておるし、実際、このように村民同士の不和も出て来ておる。
「……」
一同、渋々ながらも了承し、村長宅から出て行く。
ディーサイドなんて
一言、理不尽。
「
村長の家を出た
「……ヨータ。先に帰っていろって云ったろ」
「だって、村長さん
「ああ……」
「で、なんなの、ディーサイドって?」
「聞いていたのか……」
自宅への帰路。
兄コータと街中をゆっくりと歩む
「神を殺すもの――<ディーサイド>、それが奴等の総称さ。確か、極北の地にある団体だか組織だか結社だかが対鬼衆用人造兵士として生み出したとか。
「人造兵士?」
「この世で唯一、鬼衆と渡り合える作られた兵士の事さ。大昔、戦争の為だけに作り上げられた戦士を“
奴等は頼まれれば鬼衆を狩る。膨大な金品を報酬として要求するらしいが、鬼衆狩りを唯一の
「すげーんだな、ディーサイドって! 正義の味方じゃんか!」
コータは立ち止まり、遠くを見詰める。
「……そんなんじゃないさ、奴等は」
「え?」
「
「えっ、ええ……」
「
「お、女!?」
「そう、ディーサイドは全員、女戦士だ」
「……」
「言い
なので奴等を皆、こう呼ぶ。
――信じられない。
鬼衆を退治できる強い戦士がいるってのは聞いた事がある。でも、そんなのは
「
「ん?」
「その人達……彼女達は、いい人、なんだよね?」
「……いい人? さぁな。少なくとも俺は、処刑を生業にしている奴なんかと、仲良くなりたくはないな」
「……」
村人が口々に声を出す。
「来た!」
「現れたぞ、ディーサイド!」
「白眼の魔女だ!」
居ても立っても居られなかった。
コータに呼び止められたが、俺はもう走り出していた。
見たかった。
街道沿い、街の入り口に
ディーサイド、神を殺すもの――だって?
違う。
そんなんじゃない!
そう、
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