あとはカモメにでも




引いた波は けして戻ることはない

思いがけず砂浜になったその部分は

容赦なく照りつける陽の光にその黒さを徐々に失い

周りのそれと同じく 虚しく白へ濁っていく


吐いた言葉は けしてこだますることはない

耳を澄ますまでもなく最早手遅れとなった言の葉は

爽やかな風に揺れる木の葉にさえ掻き消されて

コップの氷に溶けて 涸れた喉へ飲み込まれていく



心に溜めておけなくなった想いと行いは

誰もが振りかざす善悪の太刀で裁くことにして

したり顔で被害者を装うことにして

あとは鴎にでも喰わせておくことにして




その感触は けして思い出されることはない

左手でも 口でも 背中でも 足でも

色のない風に動かされ陽の光を遮る雲のように

みるみるうちに私と心を黒く覆っていく



そして 今日も

心に溜めておけなくなった想いと行いは

願いでは手詰まりになった善悪の太刀で裁くことにして

何事もなかったかのような顔をして


そして 今日も

陽の光に照り付けさせておいて

木の葉に掻き消させておいて

涸れた喉に飲み込ませておいて

善悪の太刀で裁かせておいて

被害者を装うことにして

あとは

あとは 鴎にでも喰わせておいて





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