夜はながれず 星も消えない




ハッピーエンドが約束されているドラマをわざわざ見て

ドラマが終われば次のドラマが始まるまでにどうせ溜め息のひとつやふたつつくのはわかっていて

眠たくなるまでの時間を潰す


生きていく糧以上の意味がその職にありながら大きなストレスを抱え

たまにある週末の飲み会だけでは到底発散できず

いつもより遅く起きているのに休日の時間の長さを持て余す


そればかりか 

小さい部屋にこだまするトイレの水の音や

近所の家のガレージから聞えるエンジン音や

ベランダに早々に吊るした風鈴の音にすら孤独を感じてしまい


だから

平日もすぐ傍で癒してくれる相手が欲しかったのだけど

叶った念願と共に

一緒にくっついてきたのは苛立ちと煩わしさだった


それでも

独りで居る淋しさには勝り

倍の洗濯物を取り込むのも

倍のシャツをアイロン掛けするのも

倍の食器を洗うのも

眠たくなるまでの時間潰しにすら成るのだから

“甘いものじゃない生活”を“人並みの幸せ”という言葉に置き換えることにした


だけど 今夜は違う

きっと違う

明日の朝になっても虚しくならない


あんなに欲しかった“人並みの幸せ”は決して特別なものではなく

テレビ以外の声が部屋からしたときに

夜中にふいに目が覚めて横を向いたときに

玄関先においてあったゴミ袋がなかったときに

たまに思い出すものだから


だから 今夜は違う

きっと違う

“人並み”とかそういう冠が付かない幸せな時間が

そこにあるはずだから


夜はながれず 星も消えない

そんな幸せな時間が

そこにあるはずだから





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