テオドール
「いえ、こちらには届いていないですね」
翌日、私たちはまた王立図書館に来ていた。
昨日落としたお守りを探すためである。だが、私の期待は外れ、図書館にはないようだった。
「わかりました……」
項垂れた私は司書さんに頭を下げてその場を離れた。
盗まれるようなものではないけれど、誰かが持っていったりしてなければいいなぁ。トランクを持ち直してアイレたちのもとへ向かった。
二人には一冊だけ好きな本を選んできて、と伝えている。今日はフィブラにも寄りたいからだ。
(いない……。どこに行ったんだろ)
この図書館は広い。それがアダとなったか、二人を見つけられないでいた。
動き回って、すれ違ってしまっては意味がないから、私は昨日と同じ場所で座って待つことにした。確かここだよね――昨日ぶりとはいえ、慣れない場所では不安になる。
思い立って机の下を見るけれど、やはり探し物は落ちていない。
トランクを膝にかかえて、机に突っ伏した。
「君は……」
後ろから声がかかる。
なんか、こんなことちょっと前にもあったなぁ。顔だけ声のほうに向けると見覚えのあるローブが目に入る。
私は姿勢を正して向き直った。
――昨日の魔法使いだ。
無意識に私は身構えていた。男性はそんな私の様子に、少し微妙な顔をして、それから思い出したようにローブの内ポケットをまさぐる。
「コレ、君のではないかな」
そうして差し出されたのは、大事なものを扱うようにハンカチの上に乗せられた、ベージュの、布と同色で花の刺繍が施された――お守りだった。私は思わずアッと大きな声を出す。それから、口を抑えておずおずとそれを受け取った。
「私のです……ずっと探してて。見つからないかと思った……」
「君が去ったあとに落ちていたから、たぶんそうだろうと思って。返せてよかった。その様子だと大事なものなんだろう」
「はい。お守りなんです」
見つかって本当によかった。
私は何度も男性にお礼を伝える。
「気にしなくていい。それより聞きたいことがあるんだが――昨日連れていた妖精と、君について」
時が止まったように感じた。
そうだった。この人にも妖精が見えていたんだ。私はチラ、と男性の顔を見て、逃げられないと悟った。
「……わかりました」
「勘違いしないでほしい、それを知ったからといって君たちをどうにかしようという気はないから」
警戒を解けないでいる私に男性は苦笑いをして、私の隣に座った。
「その前に自己紹介をしよう。私はテオドール。見てのとおり、この王都で魔法使いをしている」
「……ルチアーナです。裁縫を生業にしています」
差し出された手を握り返す。
上等な皮が使われているのだろう、手袋の質感が気持ち良い。
「君は妖精が見えるのか?」
早速とばかりにテオドールさんはまっすぐに聞いてくる。私はその質問に頷いて「見えるようになったのは最近ですが」と付け加えた。
あの日、家へ帰る途中にアイレとフエゴに出会った。それ以前は妖精なんて見えていなかったはずだと思い返す。
「少しいいかな」
「あ、はい」
少し考え込む様子を見せてから、私の手を取って、それから黙ってしまった。私はどうしていいかわからず、握られた手とテオドールさんの顔を交互に見る。
どうすれば……。
テオドールさんの男性にしてはツヤのある髪が、伏し目がちの瞳にかかる。どれくらいそうしていただろうか、彼は不意に私の手を離した。
一体なんだったのだろうか。
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