落し物
妖精が見えているから何か都合の悪いことがあるわけではない……と思うけれど、魔力が膨大なわけでもなければ魔力増幅薬なんて飲んでもいないし道具も持っていない。そんな私に妖精が見えて、お話ができているとわかったら、何か変な実験とかに巻き込まれてしまうのではないだろうか?
だって、妖精は魔力を糧にしてる。そんな妖精に手を貸して貰えたら、良いことだけじゃなくて悪いことにも使われてしまったりとか……全く有り得ない話ではない。
パニックにも似た焦燥感が胸を支配する。
「……なんのことでしょうか」
焦る気持ちを抑えて、それだけ振り絞った。
私は平凡に暮らしたいのだ。
相手の顔を見ないでかき集めるように本を抱えてその場から離れる。
アイレとフエゴは不満を漏らしていたけれど、それを無視して私は逃げ出した。
「あっ、ちょっと君――」
その男性はなにか言いたそうに立ち上がりはしたが、それ以上追ってくることはなかった。 ――だから、私は気がつかなかったのだ。ポシェットからお守りが消えてしまっていることに。
私がそのことに気づいたのは、宿に戻り、着替えようとしたときだった。
『あ〜あ、もっと本見たかったぁ』
『ゲンキンなヤツ』
『だってフエゴが読んでた本って文字ばっかなんだもん! あ〜んな面白いのがあるなんて知らなかった』
『アイレはお子ちゃまだもんな……ルチアーナ?』
きっとひどい顔をしていたのだろう――様子のおかしい私に気づいた二人が心配そうに顔を覗き込む。
あのお守りは入れ物こそ自分で作ったものだが、両親がくれたものだ。幼い頃、些細なことで怖がって泣いてばかりの私に「これが守ってくれるから、怖くないよ」と持たせてくれた――。
トランクをひっくり返し、着ていた服をバサバサ叩く。
(やっぱりない! どこかで落としてきた?)
今日の行動を必死に思い出す。
朝起きてからエイナルを見送って、服を着替えてトランクに荷物を詰め直して、それからポシェットにお金とハンカチ、お守りを入れて――それじゃあ、いつからなくなっていた?
グルグル頭を回転させる。
朝食を食べたときはあったはず。移動中はポシェットの中身はいじっていない。
「図書館だ……」
『図書館?』
たぶん、いや絶対そうだ。
ポシェットや本をひったくるように持っていたことを思い出す。
本を読むのにポシェットはテーブルに置いていた。それに帰り際、慌てていたせいでしっかり荷物の確認をしていなかった。
『顔色悪いぞ、大丈夫か?』
「あ……うん。図書館に落し物したかもしれなくて。明日帰る前に寄ってもいいかな」
『もちろんいいけど……』
私の様子を心配してか、二人はそれ以上追求してこなかった。
ため息がこぼれる。
まさかなくしちゃうなんて……。ギルド証みたいにネックレスとか、身につけるものに加工すればよかったかなあ。
その日は、夜更かしする気にもなれず早く寝ることにした。
アイレとフエゴもだいぶ疲れていたようで、私が寝る準備を終えるころには二人仲良く寝息を立てていた。とりあえず、図書館で聞いて、なかったらそれはそのとき考えよう――大きく息を吐いて私は夢の世界へ旅立った。
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