王立図書館


 翌日、目を覚ました私たちは、エイナルと別れて王都の観光をすることにした。


 彼は午後から予定があるらしい。慌ただしく出ていく彼は「今夜もここの部屋とってあるから、嫌じゃなければ泊まっていって」とだけ告げて部屋を飛び出していった。

 何から何までお世話になってしまって、本当に申し訳がない……。


 肝心のエイナルへの仕入れはギルドへ預ければそれでいいとのことだ。商業ギルドに登録している者同士であれば、本人に直接会わずとも、ギルドを介してのやり取りができるらしい。

 なるほど、便利だ――と昨日、本部で見た張り紙を思い出しながら考える。


『ルチアーナ、今日はどこに行くの?』

「うーん。どうしようね……フィブラも行きたいんだけど、荷物になるし明日帰る前にしようと思って」

『あ! それならオレ――』




 高くそびえ立つ白い二本の柱。間にはめ込まれたステンドグラスが幻想的である。私の何倍もある大きな扉から伸びた石畳の階段。その脇には手入れの行き届いた見事な花壇がある。

 出入りをするのは、ローブを羽織ったいかにもな出で立ちの学者たちだ。


 ここは、様々な偉人を生み出したとされる学園附属の王立図書館。

 蔵書数も近隣の国の中ではいちばん多いらしく、取り扱っているジャンルも多種多様だとか。


 こんなところ一般市民が立ち入っていいのだろうか。

 恐る恐る階段を登ると、入口の看守に挨拶をされる。

 会釈を返してそっと扉を押した。

 扉を開いた瞬間、ムッとくすぶった土の匂いが鼻につく。それに混ざってインクと木が混じったような特徴的な匂い。

 長い間手入れのされていない倉庫のような――けれどもホコリっぽいとはまた別の空気感。

 私は少しだけむせてしまい、咳払いをした。

 それから、天井高くまで積み上げられた本棚に圧倒される。私の背では見上げるだけで首が痛くなるほどだ。


「わっ……」


 思わず感嘆の声が漏れる。横では、アイレとフエゴが情けなく口を大きく開けていた。

 図書館に行きたいと言い出したのはフエゴだった。

 どちらかといえばアイレが言いそうと思ったけれど、フエゴのほうが案外読書家らしい。


『村にいたときから本好きだったもんねぇ』

『そういうお前は全然だったよな』

「村?」


 妖精にも村ってあるんだ。


『あるよぉ。集落っていうのかな、ぼくたちはそこで育って、ある程度大きくなったら旅立つんだ』

「そうなんだ……」


 フエゴは待ってましたと言わんばかりに一番近くの本棚へ飛んでいく。私とアイレはそのあとを追って、フエゴが気になった本を片っ端から取っていった。

 10冊ほど手にしたところで、私はフエゴを止めて一度テーブルに置くことにした。この図書館には借りるだけでなく、読む場所も設けてあるようである。一角には、大きなテーブルと仕切りが立てられた空間があった。


 私以外にもちらほらと座っている人がいて、皆本を読んだり勉強をしたりと各々励んでいる。

 私はその人たちの邪魔にならないよう、周りに人がいない隅の方へ座った。テーブルに本を置くと、アイレとフエゴも並んで本の横に座る。


「さぁ、どれから読もうか?」


 周りに聞こえないように、私はそっと小声でアイレに尋ねた。

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