ついてきちゃった


「……エイナルはもっとお金を大事に使ってください」


 私の言葉はどこ吹く風だ。

 なんだって、彼はこんなに親切にしてくれるのだろうか……疑うわけではないが裏を探ってしまう。


「それに私は店を持つつもりはないと今朝も言ったはずですが」

「まあまあ、そんな深く考えなくていいって」


 はぁ。彼の意図がつかめなくて首をかしげる。

 「とりあえず僕のところにも仕入れさせて」と言って、彼は人の良い顔でニコニコ笑った。

 それは構わないけれど……。

 こんなにも手放しに自分の作品を褒められたことはない。なんだか、気恥しい。私は落ち着かなくて自分の髪をいじる。


「東の国の特産品を売っているんだけど、他にも手を出してみようと思って」

「東の国の?」

「そう。染物とか反物。あとは日持ちする食べ物もたまに」


 言って、木箱を引き寄せて中からいくつかの布を取り出した。

 細かい全柄の模様は鮮やかで、この辺りではあまり見かけない組み合わせの配色ばかりだ。麻特有の若干ザラつきのある肌触りが涼しくて良い。

 東の国はこちら以上に染め物が盛んだと聞いたことがある。

 実物はなかなか見る機会がなかったけれど、なるほど、これはとても素晴らしい。

 この布でスカートとかバッグを作ったら涼しげで良さそうだ。


「気に入ったならあげようか? 一メートルもないし、そうだな……500エルツでどうだろう」

「買います」


 思わず私は即答する。

 ハッとするような赤地に白の格子模様、その間に描かれた伝統的なマークの青や黄緑、オレンジがポイントになって全体を彩っていた。

 ちょっと派手だけど、ポーチとかにしたいなぁ。

 ずっと見ていたかったけれど、汚したくないし忘れないうちに閉まっちゃおう。

 足元のトランクを膝に乗せて開けると――アイレとフエゴがそこに、いた。思わず私はトランクを閉める。


「どうした?」

「へ、いや、なんでもない、です」


 深呼吸して、そっと開ける。


『急に閉めないでよォ』

『なんだその布、ピカピカだな!』


 ……やっぱり、いる。

 見間違いではなかった。私は二人をトランクから出して、エイナルから買った布をサッとしまう。それから「ちょっとお手洗いに行ってくる」とだけ言って、部屋を飛び出した。

 エイナルは何か言いたそうにしていたけれど、私にはそんなことどうでもよかった。

 今はそれどころではないのである。

 そのまま小走りでロビーのソファにドカッと座る。

 勢いよく出てきた私の姿に受付のおじさんは驚いているようだった。受付には背を向けてなるべく小声で手の中の二人に話しかける。


「ねぇ、なんでここにいるの?」

『だってまたラウレラに行くって言うから』

『オレたちも行きたかったんだもん』


 頬を膨らませる二人は、そっぽを向いて答えた。か、かわいい……。小さい子が拗ねるのってどうしてこうもかわいいのか。


「ついてきちゃったのはもう仕方ないし……私から離れちゃだめだからね」


 目を合わせて言い聞かせる。

 アイレとフエゴはニッコリ笑って大きく頷いた。妖精は普通の人には見えないし、私の周りで飛んでても大丈夫かな。

 二人は数回私の周りを回ると、肩に定位置を決めたらしい。ふわりと軽い感触がする。


「部屋にもトイレあったのに」

「え、ああ、あはは、気づきませんでした」


 部屋に戻るとエイナルは不思議そうに言った。

 私の肩には、妖精が二人座っているわけだけど、やっぱりエイナルには見えていないみたい。

 一切触れられなかった。


『真っ黒な髪、珍しいねぇ』

『異国のヒトなんだってさ』


 ヒソヒソ耳元で囁かれる。

 気をつけないと反応しちゃいそう……。はたから見たらひとりごとになるんだよね、気をつけないと。

 それにしてもまさかついてきちゃうなんて。

 存外、妖精は行動力があるものだ。

 それともこの二人が特別なのか?



 

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