それから
王都から帰った私を迎えたのは、顔を真っ青にしたアイレとフエゴだった。
一泊二日と、家を空けたのは二日間だけなのだが、せいぜい遠出をしても半日ほどで帰ってくる私がなかなか戻らないので、何かあったのでは……と心配していたらしい。
そういえば、タイミングが合わなくて二人には王都へ行くことを伝えていなかった。(悪いことをしたな)と引っ付いて泣きじゃくるアイレとフエゴに思う。
「ごめんね、次からはちゃんと言うから」
『絶対、ぜ〜ったいだからね!』
ズ、と鼻水をすする二人を見てまるで弟ができたみたいだと見当違いなことを考えていた。
『ラウレラに何しに行ってたの?』
ようやく泣き止んだアイレが言う。
「ええっとね……これ、リボンと刺繍糸と、ハギレを少し。他にも欲しいものはあったんだけど」
『あそこはいろいろあるもんな』
腕を組む私にフエゴが頷いた。
王都に行ったことがあるのだろうか?てっきり、あの森にずっといるのだと思っていたのだけれど……そう訪ねると『オレたちの仲間が言ってたんだよ。ある程度情報は回ってくるんだ。あまり遠くには行けないから』と教えてくれた。
確かに、その小さな体では飛び続けるのも一苦労だろうな。
「なら次は一緒に行こうね」
私の言葉に二人は顔を輝かせた。
それから、しばらく手仕事に集中する日々が続いていた。刺繍糸を新しく仕入れたので、ハンナさんやミラさんの所へはやく新作を届けに行きたかったのだ。
フィブラで立ち寄ったカフェのティーカップを思い浮かべながらせっせと針を進める。
あの濃いブルーの、大胆な花柄。
よく見る小花ではなく大輪の薔薇が斬新で素敵だった。赤ではなく青というのもくどくなり過ぎずちょうど良い。
私の前には青い薔薇が刺繍されたハンカチが並べられていた。やっぱり、白に青は爽やかで甘くなりすぎずよろしい。
ティーコージーも作りたかったのだが、久しぶりに引っ張り出したミシンは調子がおかしくなってしまっていた。
それもそうだ。母がいた頃は毎日のように使っていたから調整をしていたけれど、いなくなってしまってからずっと仕舞い込んでいたから、古くなってしまっている。
手縫いでも作れるけれど、如何せん時間がかかる。代わりに、忘れないよう手帳にアイデアを書きとめて、大人しく刺繍をしていた。
サク、スーッ。
サク、スーッ。
布に糸を通す音はいつ聞いても心地が良い。
ミシンを踏む音も好きだけれど、この音が私は一等大好きなのである。
しばらく夢中になっていると不意にお腹の虫が鳴って、なにも食べていなかったと気づく。
キリもいいからお昼にしよう。
この前買ったバケットがまだあったはずだ。
卵も牛乳もあるしフレンチトーストにでもしよう。フルーツ……はないから、代わりにジャムをたっぷりのせようか。
作業場を軽く片付けて私はキッチンへ向かう。
私は裁縫の次に、料理が好きなのだ。
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