木の実のスープと迷いの森


「いつも来てもらっちゃって、悪いわぁ。言ってくれれば取りに行くのに」


 カウンターの中のテーブルに、持ってきた商品をひとつひとつ並べてミラさんは言った。「検品しちゃうから中でも見て待ってて」と、豊かなすみれ色の髪を揺らして店内を指さす。

 私はお言葉に甘えて、店内を見て回ることにした。

 そうして、ミラさんの鼻歌を音楽にしながらしばらく見ていると「終わったわぁ」と声がかかる。


「相変わらず素敵な刺繍ねぇ。魔力も安定しているし」


 空になったバスケットを返されて、これもと小さな包みを渡された。

 包みのリボンを解くと、白と茶の角砂糖が5つずつ入っている。その角砂糖はふんわりとハーブの香りがして紅茶によく合いそうだ。


「これって……」

「庭のハーブがねぇ、たくさん採れたから角砂糖にしてみたの。苦手じゃなければもらってちょうだぁい」

「紅茶、よく飲むので嬉しいです」

「ならよかったわぁ。ねぇこの後って時間はある?あるなら教会に行ってみなさいな」


 教会。

 そういえば、この先にあったような……行ったことはないが。何かあるのだろうか。

 ミラさんは何も答えず笑うだけだった。


 魔法雑貨ルーチェを後にした私は早速教会に行くことにした。

 元々、ミラさんに会う以外予定はなかったし、わざわざここまで来たのだからすぐに帰るのはもったいないと思っていたからである。


 さすがというべきか、至る所に織物や染物が飾られて、真っ白な町並みが綺麗に彩られていた。

 ビネーチでは織物や染物は女性の仕事らしく、軒先では老若問わず、皆楽しそうに手を動かしている。

 カタカタ、パタパタ、織り機の糸を紡ぐ音や、ちゃぷちゃぷ、ザバッと布をさらう音が耳に心地よい。


 住宅街を抜けると教会が見えてきた。

 炊き出しだろうか?

 香ばしい匂いが鼻をくすぐった。そういえば朝から何も食べていない。お腹の虫がその匂いを合図に一斉に鳴き出す。


「う……お腹空く……」


 良い香りに誘われた私は、フラフラと教会に向かって歩き出していた。






「美味しかった〜……」


 ほう、と満腹になったお腹をさする。

 木の実と野菜がトロトロになるまでじっくりと煮込まれたほっこりするスープとふかふかのロールパン。シンプルな味付けが素材の味を引き立てており、ペロリと完食してしまった。

 この教会では毎週末、炊き出しをしているらしい。よそってくれたシスターが教えてくれた。


 それから私は町の中を見て周り、いくつかの食料を買って帰路につく。

 その頃には日は傾いて辺りはオレンジ色に染まっていた。


(思ってたより遅くなっちゃった)


 人の通りもまばらになった町を抜ける。

 夜道は危ない。

 野犬が出るとか盗賊が出るとか、何かと物騒な世の中である。なるべくはやく家へ帰りたい。

 ――森に入れば、すぐに着くかも?

 じっと森の入口を見つめる。

 幸い、まだ夜ではない。森とは言ってもそこまで大きな森ではないし、目印を付けながら進めば迷子にはならないのではないか?

 それに、道を覚えてしまえば、次から移動がグンと楽になる。

 片道一時間、往復二時間。

 歩くのは好きだから、苦労にはならないが荷物が多いとなかなかにしんどい距離である。


 入ろう。

 そう決めた私は森へ歩みを進めた。

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