12 おっ〇〇回?


 視界がぼやける……息が苦しい。あぁ、もしかしてまた、この夢か。最近割と同じ夢を、繰り返し見てる気がする。


 溺れていく。

 苦しい。


 ……


 あれ、だけどなんだかいつもと少し違う気が……なんか、ふわふわモチモチな柔らかい物体に両頬が挟まれてる気がする。視界もなぜか白いような……俺は目の前にある白いふわモチな物体を、両手でワキワキと揉んでみた。


 や、やわらけぇ……


 そんな事を思っていると、視界で淡いピンク色のまるーい点が、2つチラついた。


「っん……も…………ゅ……っ…ん」


 この声……誰だ?なんか甲高い気もするけど、女の人みたいな……ハッ!!もももももしかしてああえ……いやいやでもでもでももしかして、この声はり、リリィだったり!?じ、じゃあ、苦しいけどこのふわふわモチモチの白い膨らみは……ももももしかして……


 リリィのおっ……


「……ぱい?」


 ……じゃない。


 目をギンギンに見開くと、俺は白いモフモフの綿のような物体を抱いて寝ていた。なんだこれ、綿のクッション?


 そして白いモフモフの奥に見えたのは……


「よう、やっと起きたか」


 マスターだった。


「ひえっっ!!あ、マスター……お、おはようございます」


 突然のひげ面にびびって、俺は変な声を出してしまった。


「やーぁと起きたか~。もう昼近くだぞ~。何度も名前呼んで起こしてたんだ」


 マスターは近づけていた顔を離して、小さくため息を漏らした。


 な、なんだあ……


 俺はマスターと同じく、小さなため息を漏らして、両肩を落とした。


 なんか起きちゃって残念だったな。せっかくのおっぱ……いや、なんて夢見てんだ、俺。いくら変なドリンク飲んで欲が溜まってたからって。


 あ、そうか。夢の中のあの甲高い声はリリィじゃなくてマスター……いや、全然ちげぇか。もしかして、あのおっぱ……いや、あの白い綿の塊からした声なのか?


「ん?」


 なんか白いクッションみたいな綿の塊がモゾモゾ動いたような……


 モゾモゾモゾゾゾゾゾゾ


「!?」


 白い綿の物体が、突然モゾモゾと動き出した。そして、中央に2つ淡いピンク色の小さな瞳がパチクリと出てきた。


「モフュン?」


 白い綿の物体から、今「モフュン」って鳴き声がした気がする。え、幻聴かな?


「言っとくけど、幻聴じゃないからな」


 マスターが俺にツッコミを入れる。


「ハッ……心の声が!……じゃなくて、なんなんすか?この綿の物体」


「それはな、街で迷子になってたムットンだ」


「むっとん?」


「そう。しかも、雄だ」


「は、はぁ。いや、ムットンて確か、モンスターじゃなかったですっけ?なんで街なんかに?」


「さぁな。それは俺にも分からん。けど、ムットンの雄はモンスターの中でも、特に温厚な性格でな。滅多に人は襲わないさ。毛を駆れば毛糸も作れるしな」


「へ、へぇ……」


 ムットンは俺をじっと見つめて、モフュ~ンと鳴き始めた。


「そいつは特に人懐っこくてな。森にいた人間について来ちまったんじゃねえか?まあ、ペットにしちまってもいいがな~♪どうだ?シンタ」


 ぺ、ペット……


 まぁ、確かにマスコット人形みたいで、可愛い気もするけどさ。


 俺がまだ少し躊躇していると、ムットンは俺の膝の間にお座りして、うるうるとピンクの瞳を潤ませた。


「モフュ、モフュ~ン。モフュモフュフュ~ン。モフュモフュモモフュモフュ、フュン!(おい、ニイチャン、俺って可愛いだろ?まさかこんな可愛い俺を捨てるなんて鬼みたいなこと言わねーよな?な?!) 」


「……」


 なんか、変な日本語訳みたいなのが聞こえた気がする。まあ、連れてきたのに、また追い出すのも可哀想だよな。


「まぁ、いいんじゃないですか。ペット」


 懇願するムットンの勢いに負けた俺は、マスターに対してそう答えた。




 *******



 俺は朝食兼昼食を食べに、マスターとムットンと共に下へ降りていった。下へ降りると最近、お気に入りメニューの「コーヒーフレンチトースト」をマスターに作ってもらった。ついでに、ムットンのご飯も。


「お!シンター!」


 カランと扉のベルが鳴ると同時に、ライアンの声が後ろから聞こえてきた。


「あぁ、おはよ?の時間じゃないな、もう」


「ははっ、シンタは今起きたのか?」


「うん。まぁ、ちょっと昨日から色々あって」


「まぁ、たまにはいいんじゃないか?というか、その頭の上に乗ってる白い物体は……ムットン、か?」


 ライアンはそう言って、俺の頭の上に乗っかっているムットンを指差した。


「あ~そうなんだよね。なんかさっきから離れなくてさ」


 部屋を出て下へ降りていくときに、ムットンが俺の頭の上に乗っかってきて、その時からなぜか離れてくれない。


「ほぉ〜ん、なんかペットみたいだな!」


 俺とライアンがそんな他愛ない会話をしていると、いつの間にかフレンチトーストが出来上がっていた。ご飯ができるとムットンは俺の頭から降りて、ご飯にモフュモフュと鳴きながらガッついた。


「あーあ。なんだか、シンタに懐いちまったな~」


 マスターはそう言いながら、少し羨ましそうにムットンを見つめた。


「え、そうなんすかね?」


 俺は苦笑いを浮かべながら訊ねた。


「はははっ、どう見ても懐いてるじゃないか。あ、モンスターといえば……シンタ、話は変わるんだが、金は少しは貯まってきたか?」


「え?あぁ。まぁ、ぼちぼちかな」


 俺はそう言って、ふわふわのコーヒーフレンチトーストを頬張った。


「もし少しでも貯まってるなら、このあと一緒に武器屋に行ってみないか?今後、ダンジョンに行ってモンスターを相手にする依頼を受けたときに、武器がないと困るだろ?」


 あー確かにそろそろ、そういう依頼も受けてみたいな。うん。そうなると武器が欲しい。


「もぐ……うん、そうだな。行ってみたいかも」


 俺はトーストを頬張りながら、返事を返した。


「よし!じゃあ、食べ終わったら出発しよう!」


 ライアンは、ニカァ!と笑いながら右手の拳を突き上げた。それになぜかムットンも便乗するように、「モフュ~!」と鳴きながら飛び跳ねた。


「いや、ムットンは留守番な?」


「モ?」


「まーた、街で迷子になったら困るしな~?ムットンは俺と一緒に留守番な♪」


 マスターはそう言いながら、ムットンにバチコリとウィンクをかました。


「モ!?モ、モフュ~ン……」


 マスター、嬉しそうだな。まぁ、ムットンは分かりやすく落ち込んでるけど。


「んじゃあ、行きますか!」


 俺はフレンチトーストをたいらげて、ライアンと一緒に酒屋を出て武器屋へと向かった。


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