第32話 ヘルベ歴248年 4月13日 軍制と軍政
「ホサンス様」
「なんだ」
「本日は軍政について話したいと思います」
「そうか、俺は昨日の続きで学校について話そうと思ってたのだが」
「ああ。そうですね教育も重要ですが、今日はシュキア様も来ているので軍のことを少し」
「俺は別に軍でも教育でもどっちでもいいぞ」
「なら今日はノックスの言うように軍について話すか。まあ、こんなの俺たちに任せてくれればいいと思うんだが」
「そうかもしれませんが軍政は非常に重要と思われますので」
「うん? なんでだ? そんなの大将とか二等兵とか決めるだけだろ」
「あ、そっちの軍制のほうですか、それも大事ですね」
「おい、ちょっと俺にもわかるように説明しろ」
「簡単だ。将軍たちの間や兵達の間の序列をもっと付ける」
「今の将軍や百人長じゃだめなのか?」
「ワタクシはこれについては門外漢なので、なんとも言えません」
「将来的に困る」
「なんでだ兄者」
「今は未開墾地が延々とあるが、将来的にはどうなる?」
「まあ、なくなるかもな」
「その時兵役が終わった兵達にはどうする?」
「なるほど、土地をやるわけにはいかなくなるか」
「だから今の内に階級とかも決めて、それに応じて兵役が終わったら退職金か土地を選んでもらう」
「なるほど。でもそれだけならなぜ今のままじゃだめなんだ?」
「そりゃ、お前カスティクスとかがかわいそうだろ」
「ああ、弓兵とか軽装兵は一段下に見られてるな」
「正規兵に編入した以上、全兵種に渡って共通の階級が必要だよ。それに将来的にはゴルミョやオルゲトリみたいにヘルベ兵や長槍兵、攻城兵に補給兵、と色んな兵種の指揮を出来る将軍もいたほうがいいだろ」
「じゃあ、これはあとで俺たちで決めるか」
「ありがとうございます。ワタクシにはわかりませんので」
「お前の言いたいのは文民統制のほうか?」
「おい、冗談じゃないぞ。俺たちはあの連中から独立して行動できたからここまでこれたんだぞ」
「気持ちはわかります。でもこれがしっかりしてないと、孫の世代のときに絶対に大変なことになります」
「孫の世代?」
「ホサンス様、そうです。大体二十八年ぐらいで大抵の新生国家は危機を迎えます」
「ああ、コミーか」
「アメリカでも帝国ジャパンでもです。三代目の世代という風に考えればチャイナもです」
「なんだそれらは」
「ああ、お前は別に気にせんでもいい。うーむ、でも確かに見事に全部向こうの七十年くらいで危機を迎えているな」
「その危機の時に軍が政府の味方ならよいですが、そうでないと非常に不味いことになるます」
「まあそうだな。二つに割れたら最悪だ、内戦だ」
「軍の最大の特徴は他の政府機能がマヒしてる時でも独立して行動できるということですが、これは裏を返せばいつでも政府転覆をしようと思えばできるということでもあります。なのでどうしても政府にしばり付けておかないといけません」
「なにいってんだお前は。非常時に動けなかったら軍じゃなくなるだろ」
「うーむ、ノックスの言いたいこともわかるが、シュキアの言うとおりだしなあ」
「大原則として、陸軍大臣とかを絶対に民間人にしたほうがいいです」
「なんでだ? 大体お前らの話はよくわからん」
「えーとですね。例えばホサンス様が大王になったので軍の大将は引退する、としたら次の大将軍は誰になりますか?」
「そんなの考えたこともないぞ」
「なに言ってんだ、お前に決まってるだろ」
「えっ?」
「まあ、シュキア様がなるのが妥当ですね」
「そうなのか?」
「続けろ」
「で、その場合陸軍大臣は誰になるのですか?」
「兼任は無理か」
「そうなのか?」
「書類仕事で死ぬぞ」
「まあ、兼任したらワタクシにもそうなるような未来しか見えませんね」
「で」
「もし陸軍大臣が現職の武官ですと、軍が財政とかと揉めたとき、シュキア様が大将軍としてその陸軍大臣に正式に命令できます」
「なるほどな。政府内で文官と武官で割れるのか」
「おい、そんなことは俺はしないぞ。というか兄者が大王なんだから揉めないだろ」
「いや別にお前でなくとも、俺たちが死んだあとになった連中の場合だ。子供が王様になったらどうする」
「本当にそこまで考える必要があるのか?」
「準備は徹底的にするのが鉄則だろ? これもそれだよ」
「まあ、兄者がそう言うのはわからんでもないが」
「子供が王様になった場合は摂政というのがいるのですが、実際の運営はその時の人に任せるしかないですね。なので一応今の内に制度をしっかりしておくのも重要だと思います」
「わかった。大臣は全員民間人にしよう。とりあえずは退役した連中から選べばいいか」
「このためにも老後の事も考えておかないとだめです。早期に退役したけど、そのあとに大臣に選ばれず、貧乏になるのは人間耐えられません。大将軍に命令されなくても、上に媚びる連中がでてくるかもしれません」
「そうだな、将軍職までなったら退役金はそのあとは働かなくても大丈夫なくらいは欲しいか」
「ハッキリ言って上に媚びる連中なんてどこにでもいるがな」
「まあ、シュキア様は大将軍に内定してますから、そういうのは排除してください。ワタクシは当分は安心してますよ」
「けっ」
「話が逸れたな」
「まああとはそれ以外の上級職の将軍とかも民間人の王政府が決めることにすれば人事の問題は一旦は解決できると思いますが」
「素人にこれを任せるのはいやだな」
「まあ、お前が嫌がるのもわかるぞ」
「兄者、せめて戦場に出たあとのことは自由にさせてくれ」
「あ、それは当然です。軍事作戦に素人が口を出してもろくなことになりませんから」
「一応はノックスもわかってるのか」
「で、それ以外になにかあるのか?」
「軍人と政治の関係ですね」
「なんだ分けるのか?」
「いえ、逆です。高位軍人には国の政治的、経済的現状をちゃんと理解してもらわないと困ります。ただの戦術バカではだめです」
「おい、言葉が過ぎるぞ」
「いや、ノックスの言いたいことはわかる。軍大学だな」
「その逆もです。俺みたいな農民には必要ないですが、政府の中枢をになう民間人には最低でも国家としての大戦略は知ってもらわないと困ります。こっちもこっちで政治屋になって人気取りに熱中する馬鹿ではだめです」
「言葉がキツイな」
「シュキア様、お互いに己の職分だけにこだわり過ぎて周りが見えなくなってヘンな作戦を上奏して、それが採択されたら最悪です。シュリーフェン作戦の再現です」
「はあ、こっちも大学か。あと何かあるか?」
「警察ですね。軍隊が警察機能をも兼ねるとよくないと思います」
「ああ、警察か」
「なんだポリスって」
「都市で治安維持を専門にする連中だ」
「ああ、そういうことか」
「とにもかくも金が必要になるな」
「結局はお金ですか」
「やっぱり俺じゃなく、ダゴマロスに来てもらったほうがよかったんじゃないか?」
このあとも軍関係の話がこの三人でかなり長く続いた。
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