第36話 ヘルベ歴248年 5月8日 ブルディガの王城
「ワハハハハ、兄上! 遅かったな!」
「なんでお前がここにいるんだ」
信じられない。ブルディガの王座にクリーニャが座って、酒を飲んでいる。他にもこの謁見の間で酒を飲んでる見知ったヘルベ兵がいる。
「何を言ってる! 俺だけ留守番だなんてつれないことを言うな。ゴルミョも兄上について行ったと聞いたら居ても立っても居られなくてな」
「で」
「船でアペルからここまで来た」
「まさか軍を動かしてないよな」
「まさか! 『俺と一緒にアキタに行きたいやつはいないか!』って言ったら千人ばかり来るっていうからそいつらから三百人選んで船で直接ここに来た」
「えっ。お前はなにしてんだ。俺は兵と休んでろって言ったろ」
「お、シュキア兄貴。そんなん言っても暇じゃん。そんでここに来たらあの糞野郎は軍隊と一緒に出てるっていうからちょっとあいつの家を拝借した」
「おい、お前らこんなとこで酒飲んでんじゃねえ!」
シュキアに怒鳴られた兵達は一気に姿勢を正す。あれ、インデゥチオマまでここに居る。
「うん、まあ、よくやった」
「なんだ兄上、もっと褒めてくれ! 照れなくていいぞ!」
「あれ、クリーニャ兄ぃ、ここでなにしてんのさ」
「しれたこと、あの反逆者野郎の娘さんと懇ろにしてたさ」
ホサンスに遅れてシュキアが来て、そのあとにゴルミョも他の幕僚と一緒に謁見の間に入っって来た。
「おい、まさか」
「ああ、合意の上だぞ。半分何言ってんのかわからんが、とにかく俺の女になりたいって言ってるのはわかるぞ。が、まだまだ俺は結婚できないがな! 世の女たちが俺を待ってる!」
「おい、このアホが、相手は王族だぞ、俺たちも王族になるんだよ!」
「なんで怒るんだ兄貴、うん、もしかして羨ましいのか? 彼女のお姉さんを紹介してやろうか?」
「はあ、まあ、もうなんか疲れた」
「なんだなんだ、なんで兄上も疲れるんだ? お母さんを紹介しようか? 後妻らしいし、まだ若いし、あのおっぱいなら癒してくれそうだぞ」
こうしてアキタの反乱は終わった。大陸軍は王を逃したことでブルディガでの籠城戦を一旦は覚悟したが、王城には大きな狼の旗がすでにはためいていると聞いて、訝しげになりながらも近づき、ついに無血入城した。どうやら神出鬼没と自分で言う通り、クリーニャがブルディガの王城をいつの間にか落としていたようである。
このあとの戦後交渉は思いのほか簡単に終わった。やはりなんといってもホサンスの寛大な処置にアキタ側が感謝したからであろう。何しろ捕虜の奴隷化は今回は無し。反乱の首謀者である王の処刑を求めず、王の名誉ある自決を許し、彼の息子が次王になることをすんなりと認める。さらに大陸会議にも他の国と同等の権利を持って出席できる。これは確かに反乱のあとにしては寛大な処置であろう。
ちなみにアペルに帰る時になり、船で帰るかと言う話が上がった時、地元民からは多島海では大抵の船が遭難するから止めたほうが良いと言われた。本当にクリーニャの運の良さには信じられないものがある。たださすがに王族の娘とただならぬ仲になったクリーニャはホサンスに言われ結婚することになった。この時クリーニャはなんとアキタの王族にならないかと持ち掛けられたが本人は兄と一緒に帰ると言い、そののち新妻の意向もあり、新居をアペルに構えることになった。
戦のあとに戦没者を弔う儀式があり、そのあとすぐに盛大な結婚式もあったのでブルディガは色々と忙しい都市になった。そしてここで約二か月過ごしたのち、大陸軍は来た道を戻り、またナムネテで船に乗り込みアペルに着いた。兵達も一旦はここで解散し、アペルや王子港、コリーにルテチアなどと分散して駐屯した。
そしてホサンス本人はルテチアに行き、書類仕事を片付けながら、大陸会議の開催の準備をも始めた。
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