Stage.25 対決の行方

 そして、練習している間に、あっと言う間にその時が来た。


 10月15日(日)。

 都内の一等地、日比谷公園にある、日比谷野外音楽堂。

 日比谷公園は、1903年に開園しており、野外音楽堂も1905年に完成しており、歴史のある場所だ。


 過去、様々なプロのアーティストがここで演奏し、ライヴを開いてきた。


 が、今回、俺たちはアマチュアバンドでありながら、ここに出るという栄誉を勝ち取った。


 「秋のアマチュアバンド ロックフェスティバル」


 そう名付けられた、コンサートイベントだった。


 麻弥が言う通り、『The Xero』の桜野さんに誘われたものだが、経緯を聞くと、元々は、『Star Dust』のチャノケンさんのところに話があり、そこからそのライヴハウスで1、2番人気だった俺たちのバンドが選ばれたという。


 早速、俺は待ち合わせの日比谷公園入口に向かったわけだが。


「遅い!」


 いつものように集合時間ギリギリに行くと、麻弥が腕組みをして、睨んでいた。


 この日、10月にも関わらず、かなりの高温で晴天だったため、みんな薄手の格好をしていたが、そのみんなの衣装が面白かった。


 麻弥は、「Rock'N'Roll」と胸に大きく描かれた黒いTシャツにジーンズ。


 白戸先輩は、同じく『GREEN DAY』と書かれた緑色のTシャツに、白のショートスカート。


 金山さんは、『Janis Joplin』のアメコミ風のイラストが描かれた、ちょっとおもしろい柄のTシャツに、チノパン。


 ウィスは、これが一番目立つだろうと思われる「ユニオンジャック」、つまりイギリスの国旗が描かれたTシャツに、ジーンズだった。


 そして、俺は、前に買って、気に入った『Nirvana』の『Kurt Cobain』が好んでいたという「grunge is dead」と書かれたTシャツに、ジーンズ姿だった。

 ちなみに、今日の俺は、先日買った『Gibson Res Paul』のギターを選んで、持参していた。


 みんな、それぞれが個性的なTシャツを着ていた。


 時刻は午後5時。公演は6時開始だった。


 俺たちはステージ脇に急きょ作られた、簡易的な控え室兼楽屋になっているところに向かった。



「お、来たな」

 入って、早速出迎えたのは、桜野さんだった。


 派手な赤いTシャツに、レザーパンツ姿だった。


「今日は、お手柔らかに。よろしくな」

 右手を差し出し、握手を求める桜野さん。


「ついに、対決の時が来たようね、はるるん」

 麻弥は、不敵な笑みを浮かべながら、その手を握った。


「今日は、俺らの本気を出して、女子のハートを掴んでやるから、よく見ておくんだな。俺に惚れるなよ」

 例の軽薄そうな笑みを浮かべ、自信たっぷりに発言する、浅葱が憎らしかった。


「今日はよろしく。勝負なんて、気にしないで、お互いに盛り上げていこう」

 良心的なリーダー、橙野が、笑顔を見せる。


「……」

 山吹と名乗る、大柄なドラマーは、相変わらず何を考えてるのか、全然わからず、終始無言だった。


 俺たちは、主催者と名乗る男性から、今日のライヴについての注意点や、説明を受ける。


 参加は本当に俺たちと、『The Xero』の二組だけだったが。

 これには、どうも理由があったらしく、元々、高い音楽性で、プロから注目もされている『The Xero』はもちろん、俺たちのバンドも世間的にはそこそこ有名になってきたためらしい。


 インディースCDがそれなりに売れ、また北海道ツアーの時の演奏の映像が、動画投稿サイトにアップされ、それが人気を得たことで、各所から注目されていたからだ。


 だからこそ、この二組を競い合わせてみたい、というのが主催者の狙いだったらしい。


 なお、二組しか出ないので、演奏する曲は、各チーム3曲+アンコールが認められているそうだ。


 アンコールも2曲くらいまでOKらしい。


 この辺は、プロだと3時間とか長い間、ずっと歌ったり、演奏したりできるのだが、アマチュアゆえに時間制限もあるという話だった。


 その辺の説明を一通り、主催者から受けた。


 そして、ついに始まる「秋のアマチュアバンド ロックフェスティバル」。



 午後6時。

 1番手は『The Xero』だったため、俺たちは、舞台袖からこっそり様子を伺った。


 会場は、予想以上に多くの人で、埋め尽くされていた。


 そんな中、臆することなく、彼ら4人が前に出た。


「みなさん、こんにちは。私たちは『The Xero』というインディースバンドです。今日は、精一杯演奏しますので、楽しんでいってください」


 桜野さんが、よく通る声をマイクに向かって発すると、会場からは大きな拍手が響いた。


 そして。



 1曲目は、『Linkin Park』の『Numbナム』だった。


 恐らく、『Linkin Park』の中で、一番有名な曲だ。聴いたことがある人も多いだろう。


 橙野が、『Chester Benningtonチェスター・ベニントン』の声を真似るように、高らかに歌い、浅葱がバックコーラスを務めている。


 サビの部分に入ると、さすがに観客がざわつき始めた。

 それくらい上手いのだ。

 そして、実際にいい曲だったのもある。


「悔しいけど、上手いわね」


 舞台袖で、麻弥が呟く。


「上手い、下手は関係ないさ。やるだけやればいい」


 俺が素知らぬ顔で発言すると。


「そんなことわかってるわよ」

 何故か麻弥に睨まれた。


 1曲目が終わると、早くも客席から大きな拍手と歓声が注がれ、中には。


「上手い!」

「カッコイイ!」


 という声まで響いている有様だった。



 2曲目。

『Limp Bizkit』の『Break Stuffブレイク・スタッフ』だった。


 元々、彼らのバンドは、ロックはロックでも、俺たちと違い、ラップ・ロックやラップ・メタルを好むから、まさに彼らの真骨頂という曲だった。


 この曲自体、元々ラップ調というか、いわゆるヒップホップ系に近い。


 最も、俺をはじめ、ウチのメンバーはこういうラップ調の曲は嫌いだったが。


 まあ、好き嫌いは置いておいても、ラップ調の歌やバックコーラスを、きちんと英語で歌っている彼らは凄かったし、カッコいいのも確かだったのだが。


 2曲目が終わると、観客は揺れ動くような、歓声の波とざわめきに似たような雰囲気に包まれていた。


 彼らの予想を上回る演奏をしたからだろうか。

 その後、すぐに拍手に包まれたが。


 そして、彼らのメンバー紹介が始まる。


 まあ、ここは省略でいいだろう。


 何より、あの浅葱の野郎が、キャーキャーと、妙に黄色い歓声を浴びているのが、個人的にすげえ気に入らなかったから。


 とりあえずメンバー紹介を終えると彼らは3曲目に入ったが。



 3曲目は、彼らのオリジナルソングだった。


Braveブレイヴ』と名付けられた、その曲は、名前の通り、勇気が出るような、元気のいい、しかしやはりラップ調の曲だった。


 最近、流行ってるからなあ、こういうラップとか、ヒップホップとか。


 それが流行に敏感な観衆には受けたのか、先程より凄まじい歓声と、黄色い声が、あちこちで飛んでいた。


 ふと、近くにいたウィスを見ると。

 彼女は緊張のせいか、体をこわばらせ、心なしか震えているように見えた。

 恐らくこんな大勢の前で演奏するのが初めてだからだろう。

 ざっと見ても、会場には100人以上は確実にいる。


「大丈夫、ウィス?」

 ちょっと心配になって声をかけると。


「だ、大丈夫です」

 全然大丈夫そうに思えない声が返ってきた。


 仕方がない。

 俺はウィスに近づき。


「ウィス。もっと自分に自信を持って。せっかく『ユニオンジャック』のTシャツなんて着ているんだから、君にも活躍したい、目立ちたいって気持ちはあるんだろう? いつも通りやれば大丈夫だよ」

「は、はい」


 口ではそう言ってるが、どうにも表情が固い彼女に。


「Take it easyだよ、ウィス」


 慣れない英語で、俺が言うと、彼女はクスっと笑い、

「わかりました。ありがとうございます、赤坂さん」

 やっと、笑顔を見せてくれるのだった。


 その様子を、他のメンバーは微笑みながら、見ていたが、麻弥だけは、そんな俺たちを無視するように、舞台上の彼らを睨んでいた。


 3曲目が終わると、当然のように、群衆から大きな怒号のような歓声、拍手が送られ、舞台袖に戻ろうとする彼らにはすぐに、


「アンコール!」


 という声が送られる。


 それに応えて、戻る彼ら。



「ありがとう! では、ラスト行きます。『Red Hot Chili Peppersレッド・ホット・チリ・ペッパーズ』で、『By The Wayバイ・ザ・ウェイ』!」


 また、有名な曲を持ってきたものだ。


 緩やかなギターアルペジオから続くヴォーカルの声、そして徐々に入るドラムの音。

 そして、一気に盛り上がる曲調。


 日本では、通称「レッチリ」と呼ばれる、『Red Hot Chili Peppers』の中でも、最も有名な曲の一つだった。


 しかし、やはりこのラップ調の曲は、俺の中にある「ロック」とか「ハードロック」とか「ロックンロール」には引っかからないのだった。


 まあ、この辺は、好みの問題だから仕方がない。


 曲が終わると、


「うぉおお!」

「かっけー!」


 群衆が地響きを上げるように、揺れ動き、巨大な歓声と拍手の嵐が巻き起こっていた。



 舞台袖に戻ってきた、桜野さんは、麻弥を見て、

「いや、疲れたけど、ええ舞台やったわ。ほな、次はあんたらの番やで」


 と言ったが、麻弥は、

「まあ、見てなさい」


 自信たっぷりにそう胸を張っていた。


「じゃあ、麻弥。何か一言」

 いつものように俺が促すと、円になった俺たちに向かった麻弥は。


「みんな。ついにこの時が来たわ。あいつらに勝てる日がね。今日のあたしはいつも以上に燃えている。いい、気合い入れていくのよ!」

 彼女はいつも以上に、張り切っていた。


 とりあえず、舞台に出ていくが、俺たちの今日の演奏は、少しいつもとは趣向を変えていた。


 最初にMCを入れず、しかも1曲目からオリジナルの『The sky is the limit』を入れた。


 初めて聴く客も多いだろう、この曲に客席はざわめいたが、やがて、派手なロックというより、パンクに近い、ノリのいい曲に、客席は大いに盛り上がっていた。


 掴みとしては成功だった。


 演奏を終えると、想像していた以上の歓声が上がる。


 そして。



「みなさん、はじめまして。私たちは『NRA』というバンドです。今回、色々あって、このライヴに参加することができました。『The Xero』とは、違う意味で盛り上げていくので、よろしくです!」


 MC慣れしている、ヴォーカル兼リズムギターの金山さんが、元気よく叫ぶと、客席は大いに揺れた。



 2曲目は、俺のリクエストによる『The Eagles』の『Hotel California』だ。

 1曲目の激しいテンポとは打って変わって、緩やかな前奏だ。


 前奏の超有名なメロディーを、俺がギターソロのアルペジオで奏でると、客席からは意外な反応があった。


「ホテル・カリフォルニアか。渋い曲を持ってくるな」

 初老のおじさんが。


「有名だから知ってるけど、アマチュアバンドが演奏するのなんて、聴いたことないな」

 と、中年の男性が。


「なんだか知らんけど、かっけー」

 そもそもイーグルスの存在なんて、知らない若者が、それぞれ感想を述べているのが、聞こえてきた。


 この曲自体、入り始めは、緩やかなテンポだし、静かな曲だからこそ聞けた感想だった。


 そして、ギターのアルペジオに続いて、ドラムの音が入り、ヴォーカルの金山さんが、歌い始める。


 俺たちの、いつもの派手派手なロック、パンクには程遠いゆったりとしたリズムだが、これはこれで味がある曲だ。


 また、サビの有名な部分、『Welcome to the Hotel California』という部分は、カッコいいから客席は盛り上がりを見せていた。


 しかも、後半のギターソロの部分は、俺が一番目立つから緊張しながらも、なんとかやりきった。


 曲が終わると、意外にも反応は上々だった。

 大きな歓声と拍手に包まれていた。

 その勢いは、先程の『The Xero』の時と、あまり大差がないようにも見えた。


 そして。



「それでは、メンバーを紹介します」

 再び、MCの金山さんがマイクを握る。


「ギター、優也!」

 俺は、先程の『Hotel California』の前奏のリフを奏でて、観衆に応える。どうでもいいが、ギターっていつも一番最初に自己紹介されるからイヤなんだよな。

 

 などと思っていても、俺には、浅葱の時のような黄色い歓声は飛んでこなかった。

 むしろ、嫉妬に満ちた、一部の男どもの目つきが怖い。

 まあ、こんな女の子ばかりのグループに男が一人いると、仕方がないが。


 ただ、俺は幸いにも客席の中に、この暑いのに、ライダースーツを着ている数人の男たちの姿を見ていた。


 そう、彼らは来てくれたのだ。


「続いて、ベース。ベースは前・ベースの沙織に代わり、4月から新たに

入った、イギリス人、ウィス!」


 ウィスは恥ずかしそうに頭を下げるだけだったが。


「可愛い!」

「ユニオンジャック、似合ってるよ!」


 早くもその可憐な容姿に惹かれた男たちが、あちこちで声を上げ始めていた。まあ、彼女が人気出るのはわかる気がする。


「キーボード、凛!」

 白戸先輩は、軽く鍵盤を叩き、音楽を奏でて挨拶をする。


「凛ちゃん! がんばって!」

「凛、応援に来たよ」


 こちらも固定ファンがついているのだろう。応援コメントと、学校の友達らしき人たちからの歓声だった。


「そして、リーダーでドラムの麻弥!」

 相変わらず、ドラムをうるさいくらい、ぶっ叩きながら、彼女は挨拶をする。


「待ってました、リーダー!」

「麻弥、がんばって!」

 なんだかんだで、人気のある麻弥は、歓声を受けていた。


 一方、

「麻弥! 応援に来たぞ!」

 その声は彼女の父親だった。隣には母親もいる。

 良かった。一時は、離婚騒動で別れる寸前まで行った、この両親だったが、元に戻ったようだった。


 麻弥は、泣きそうな笑顔を見せたが、その場は空気を読んで、すぐに堪えて、平静を装っていた。


「最後は、私。ヴォーカルの加奈です。よろしくおねがいします」


「加奈! がんばって!」

「加奈ちゃん、しっかり!」


 こちらも同じく固定ファンや友達だろうと思われるコメントだった。



 3曲目が始まる。


 曲は『Europe』の『Carrie』だ。

 結果的には、この曲の選曲が良かったのかもしれない。


 麻弥が、いつもと違うことをしたいと言って、取り入れたバラード。その中でも名曲だ。


 シンセサイザー、つまりキーボードの緩やかな音に始まり、ヴォーカルの金山さんがゆっくりと高音で歌い始める。


 『Joey Tempest』のハイトーンヴォイスを、真似て、彼女はよく歌いこなしていた。


 サビの『Carrie』と繰り返す部分は、さらにバックコーラスとして、白戸先輩とウィスが入る。


 バラードの中でも、とびきり叙情的で、そして印象に残る、この名曲を金山さんは最後までミスすることなく、見事に歌い上げ、そして、ギターの俺は後半のギターソロのリフをなんとかこなした。

 ぶっちゃけ、リフは、もう少しで失敗しそうだったけど。


 曲が終わると、客席からは、予想以上の反応が溢れていた。


「上手い!」

「加奈ちゃん、素敵!」

「よくやった!」


 大きな歓声と拍手だった。


 俺たちはそれを見届け、一旦舞台袖に戻るが。


「アンコール!」


 やはりというか、アンコールの声は聞こえてきた。

 これで聞こえなければ、『The Xero』に負けてしまうところだ。


 俺たちは、舞台袖からステージに戻る前、麻弥に指示された。


「もう一回、アンコールがあったら、『Iron Maiden』の『The Wicker Man』、行くわよ」


 そして、アンコールに応えた俺たちは。



『Led Zeppelin』の『Rock'N 'Roll』を奏で始めた。


 今までが、いつもとは違い、穏やかな曲が多かったのだが、今回はバリバリのロックだ。


 しかもタイトルまでロック。


 いきなり始まる、麻弥のど派手なドラミング。そして、シャウトしながら同じようなフレーズを繰り返す金山さん。


「It's been a long time」

 とか

「lonely lonely lonely lonely lonely time」

 とか。


 ただ、タイトル通り、まさに「ロックンロール」を体現したようなこの派手な曲調が、観客の興奮に火をつけた。


 手拍子をする者、手や足でリズムを取るもの、歓声を上げる者、それぞれだったが、みんな一様に楽しんでいる様子が伺える。


 後半には長いギターリフも入るし、俺としては気を抜けなかったが。


 最後に「lonely」と何回も叫びまくり、おまけにドラムを叩きまくって、ギターリフを鳴らしまくって、終わるこの曲。


 終わると、予想していなかったことが、起こっていた。


 客席では想像以上の大歓声、怒号のような拍手の嵐だった。

 しかも、いつの間にか人が増えていた。

 近隣を歩いていた者が、音に釣られ、集まってきていたのだ。


 さらに、


「アンコールッ!」


 またもアンコールだった。

 麻弥は、もしかしたら、今日のこの展開を読んで、あんなことを言ったのかもしれない。だとしたら、末恐ろしい。


 俺たちは舞台袖には戻らず、麻弥がマイクに飛びつくように駆け寄っていた。



「アンコール、ありがとう! じゃあ、最後はイギリス人のウィスも大好きなこの曲行くよ。『Iron Maiden』の『The Wicker Man』!」


「おおっ!」

 という歓声に送られ、俺たちは曲に入る。


 いきなり始まるリズムギターの金山さんのギターリフ、そしてメインの俺のギターリフ。

 麻弥の、極端に走っていないドラミング。


 そして、金山さんのシャウトする声。


 バックコーラスは麻弥とウィスがやっていた。

 二人とも、気合い十分というか、楽しそうに歌っていた。


 今日は、特に麻弥のドラムが正確だった。

 『The Xero』に対抗心を燃やしていた彼女。


 今日がその決着の時と思い、いつも以上に張り切っているのだろう。


 だが、やはり一番目立つのは、後半にも長いギターリフを奏でる俺と、ヴォーカルの金山さんだろう。


 注目されているのが、わかっていながら、俺は間奏のギターリフを必死で奏で続ける。


 金山さんのヴォーカルがしばらく入らない時が続く。


 そして、

「You time will come」


 の繰り返し。


「ウォーオオ」


 と繰り返し叫ぶ最後の部分。


 全てが終わると、目の前には信じられない光景が広がっていた。


 地鳴りのような巨大な歓声、叫び声、賞賛する声、拍手などが入り混じっていた。


 俺たちは、最後に頭を下げて、舞台袖に戻ろうとするが。


「赤坂さん、カッコいいです!」


 誰のかわからないが、若い男の声でそう聞こえた。

 珍しい。俺にもファンがいたのか。


 しかも男か。どうせなら女が良かった、とか思いながら、舞台袖に戻る折れたい。


 舞台袖で向き合った『The Xero』のメンバーは。


 浅葱が見るからに悔しそうな表情をしていた。

 山吹は、相変わらず無表情。


 そして、リーダーの橙野と、桜野さんは。

「素晴らしい演奏だったよ」

「負けたわ。やるやん、あんたたち」


 初めて、自分たちの負けを認めた。


 まあ、これだけの反応の差を見せつけられると、彼らも認めざるを得ないということだろう。


 麻弥は、


「どうよ? もう前座だけのバンドなんて、言わせないわよ」


 と得意げに胸を張っていた。


「いや、誰も前座だけのバンドなんて、言うてへんけど」

 桜野さんから突っ込みが入る。


「そうだよ。君たちなら、もうワンマンライヴもできるだろうさ」

 橙野も、爽やかに認めている。


 こうして、俺たちの日比谷野外音楽堂でのライヴは、俺たちの勝ちという結果で終わった。


 だが、「波乱」はすぐそばまで来ていたのだ。

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