第48話 束の間の休息

全身筋肉痛に加え、普通とはかけ離れた日々で精神的にも疲弊していた。

意識と共に体も溶けて、自分がベッドに染み込んでいくように熟睡した。


「…ぐわぁ〜あ〜〜…あっ、やばい。」


アラームをかけ忘れていた。

時間は見ていないが、この感じはきっと寝坊だろう。

時間が巻き戻ることはないため、

こんな時には急いで準備をする気がおきない。


いつものように眠気と闘いながら、学校の制服に着替えていると、左の方に見慣れない家具が見えた気がした。


「ん?…なんだ、これ。」


その見慣れない家具は布の塊のようだが、

よくよく見ると見知った柄の布の塊だ。

これは俺のパンツの柄…だ。


「す、鈴木くん…助けてくれませんか〜…グスン」

「うわぁ!!!俺のパンツがしゃべった!?」


いや、待て。今の声は…


「り、リムさん!?俺のパンツで何やってんの!?」

「うぅ…フェイズが投げたパンツが、全身に絡まって…動けないんです〜!」

「どうやったら、パンツが絡まるんですか…とりあえず、ほどくから動かないで。」

「うぅ…ありがと〜鈴木くん//」


ん?その前になんでリムさんが家にいるんだ?

そんな疑問が浮かんだ時、リビングから笑い声が聞こえた。


「きゃっはは!これが人間界のテレビ!凄い発明よね〜」

「悪魔。それは電子レンジだよっ!」

「これが三種の神器の一つ…エアコンね…なんて神々しいの。」

「悪魔。それトースターだよっ…」


足の拘束(パンツ)がとけたリムさんを放置してリビングに向かうと、明とフェイズが人間界観光ツアーを開いていた。


「お前らなんで俺の家にいるんだ?」

「なんでって、一緒に学校に行くからじゃんっ!」

「わ、私はどっちでもよかったんだけど、リムがどうしても、一緒に行きたいって…//あと、おはよ//」

「いや、それはいいんだけど。家の中にいるのは普通じゃないと思…ん??」


明とフェイズの着ている制服が、いつもの制服と違う。他校の制服だ。

文武ともに普通の人が通うような学校の制服ではない。もっと気品のある上流階級が通うような学校の高そうな制服…これって金剛財閥が設立した名門校。金剛高校の制服じゃないか?


「なんで金剛高校の制服着てるんだ?」

「なんでって。今日からウチら金剛高校なんでしょ?黒服の人が制服届けてくれたよ?」

「私もそうっ!鈴木も転校って聞いたよっ!てか、鈴木もちゃっかり制服きてるじゃんっ!」

「え…?あれーー!?」


明の指摘で自分の着替えた制服も金剛高校の制服だと気づく。

俺には黒服の人は来てないが、十中八九。金剛さんの使いだろう。


「うーん…とりあえず、通っていた学校に電話して本当に転校している状態なのか確かめるか。」


プルルルル…プルルルル…ガチャ


「はい。新里沢理無高校あたりさわりないこうこうです。チッ!」


最悪だ…この声と舌打ちは体育教師で生徒指導室長。ゴリラこと吾郎先生だ。


「あっ…おはようございます〜。2年B組の鈴木です〜。」

「す、鈴木様!?こ、この度は金剛高校に編入おめでとうございます!!我が校一同、一重に鈴木様のご多幸とご活躍を願っております!!」

「へ…?」

「何かご入用の際は、何なりとわたくし吾郎までお申し付けください!!それでは!失礼致します!!」


ガチャ…ツーツーツー


なんだ?今の最上級の対応。天皇陛下と間違われたんじゃないか…

要件を言う前に電話を切られたが、本当に編入の手続きがされているようだ。


「うーん…一周回って、もう一回寝たいくらいパニックだ…」

「ダメダメ!絶対一緒に学校に行くんだから!」

「す、鈴木く〜ん…そろそろ上もほどいてくれないかな〜グスン」

「ほ〜ら!!行くよっ!鈴木っ!」


もう一度眠りにつこうとした俺は、フェイズと明に両腕をガッシリ掴まれ、引きずられるようにして、金剛高校へと歩を進め始めた。


「うぅ…前があんまり見えないなぁ〜」

「学校に着いたらほどいてあげるからね!リム!」

「よかった〜ありがと〜フェイズ」


その後ろを俺のパンツの塊…いや、リムさんがついてくる。


この世で1番凡人の俺。

漆黒の翼に透き通るような金髪美女。

運動神経抜群の脳筋美女。

俺のパンツの塊。


これだけ一般人離れした一行だ。

きっと編入取り消しになるだろう。





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