第41話 波乱の予感

「勝負方法は至ってシンプル。相手より先に、この手紙を指定の住所に届けるだけ。」


そう言った金剛さんの手には、金色の手紙が握られていた。


郵便配達員のバイト審査みたいな勝負だな。

でも、これくらいシンプルな勝負なら、

誰にでも勝つチャンスのあるフェアな勝負になりそうだ。


「ルールも簡単。どんな手を使ってもいいわ。妨害、郵送者の変更、能力の使用。何をしても構わないわ。己の力を最大限発揮して勝利しなさい。」

「ちょっ、ちょっと待ってください!?暴力は無しの平和的な勝負と言ったはずです!!」

「そうね。相手に直接攻撃を加えることは禁止するわ。ただし手紙への攻撃は有効。」

「金剛さん、それって手紙を狙った攻撃が人に当たったら、どうなるんですか??」

「故意的なら退場。事故的なら許すわ。」

「わざとかどうかって…判断が曖昧になるんじゃないですか?」

「嘘発見器があるから大丈夫よ。」

「やっぱり、やたらと準備がいいですね。」

「準備なんてしてないわ、全てを持ってるだけよ。」

「暴力禁止ということはわかりました。ですが、もし敵の妨害で手紙が消失した場合はどうなるんですか??」

「再度手紙を渡すわ。ただし、最初から配達し直し。またこの場から手紙を配達スタートしてもらうわ。」

「これは、手紙消失のタイミング次第で、精神的に苦しくなりそうだなぁ」

「…そういえば、この手紙って何が書いて…?」

「さぁ、残りのルールは勝負をしながら決めればいいでしょう。それより貴方、速やかに魔界代表者と人間界の代表者を解放しなさい。」


アマ様の質問を遮るように、金剛さんがゲーム開始を促し、手紙を俺とアマ様に投げてよこす。


「ぐぬぬぬぬ…!!勝負方法は、お任せしてましたから…致し方ないですね…」


リム、フェイズ、明の解放を追求され、顔を曇らせたアマ様だったが、自分が承諾した条件を守る為、背後にあった棚から、瓶詰めにされた3人を渋々取り出した。


「りけねらねのむめれひのほねゆおね!!!!」


ドングリほどの身長で、一升瓶に入ったフェイズと明が、俺を見るなり何かを叫んでいる。リムさんも中にいるようだが、ピクリとも動かない。

どうやって、あんなに小さくなったんだ??


「私のコレクションが…無念です!!」


アマ様は悔しそうに下唇を噛みながら、一升瓶の蓋を開けてひっくり返す。


「「「けほっ!こほっ!!アルコール中毒になるわ!!!」」」


瓶から落ちてきた3人は一瞬で大きくなり、元の身長に戻った。

その魔法のような瓶にも驚いたが、それよりも驚いたのは3人の体臭だ。

凄く酒臭い。


「瓶に閉じ込めるにしたって、普通洗ってから閉じ込めるでしょうよ!!ヒック!!」

「そうだよっ!!普通リンゴジュースのボトルとかにするんだよっ!!!ヒック!」


どうやら、監禁されていた瓶は、洗っていない酒瓶だったらしい。

出てきた3人は酔っ払っているのか、声のボリュームが大きい。

リムさんに至っては泥酔して眠っているようだ。


「いや、まず監禁されたことに怒れよ!?」

「リンゴジュースなんかより、オレンジジュースの方が良いに決まってるでしょーよ!!」

「うるさい悪魔めっ!白い服着てたらシミになっちゃでしょっ!!」

「おい!どうでもいいことで討論するなよ!?」


ぱん!ぱん!


「はいはい。お遊戯会はそこまで。最後に、手紙の送り先だけど、手紙の裏に書いてあるとおり、日本国の東京よ。それでは勝負開始。各界健闘を祈るわ。」


呆れたような表情の金剛さんが、手を叩きながら最後のルール説明をし、勝負開始の宣言をした。


ばぃーーーーーん!!!


いつの間にか現れた天使が、勝負開始の銅鑼を鳴らす。


「こんな仕事で一千万!!はぁはぁ」

「銅鑼を鳴らせばドラ息子も養える!はぁはぁ」

「金剛様ーーー!!オラが銅鑼を鳴らしましたぞーー!!」

「おい!!嘘をつくな!!鳴らしたのはオラだろうが!!」


どうやら金剛さんは天使たちを一千万で買収したらしい。

きっと、このアマ様のプライベート空間も天使達に案内させたのだろう。


「あれ…でも、天使もこの部屋を知らないって言ってたような。。」

「…何をやっているんですか!!!!この反逆者ども!!」


ビガーーーーーーン!!!


アマ様は、肌が焼けるほどの光を放ち、天使達を追いかけまわし始めた。

一方、明とフェイズは泥酔しているリムさんの顔にマジックペンで落書きをして爆笑している。


「はぁ…まともな奴は誰一人いないのか…?」


魔界の命運を決める壮大な勝負は、誰一人スタートしないという、前代未聞の幕開けとなった。



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