第39話 太陽に咲いた冷酷な花
「え…今なんて?」
「ですから、天界と人間界を吸収合併…」
「その後です。」
「わ、私と恋人に…です////」
「すみません///そのもう一つ後です…」
「えっと、Tポイントカードの…」
「魔界が滅するって話です!!!なんでそんなことをするんですか!?」
「なぜって~!魔界はこの世の癌ですから。悪い部分を、この世から摘出するのは至極全うなことかと思いますけど。」
太陽に咲いた花のように、暖かく明るい笑顔だが、発言内容はとても冷酷だ。
澄んだ目から察するに、魔界を滅することに罪悪感はなく、それが正義なのだと確信しているようだ。
魔界の住人は、見つけたら殺す虫。
まるでゴキブリのように思っているのだろう。
「あの…魔界を潰そうと言うのなら、俺はアマ様の提案に同意することはできません。」
「なっ!!!!…コホン!…まずは理由を伺いましょう。それ相応の理由でなければ私は強硬手段にでますよ。」
アマ様は真っ白で柔らかそうな頬を少し膨らませている。
「ええ。それで構いません。」
俺はアマ様と魔界の行く末を決める討論をすることにした、
きっと、この場をやり過ごしたとしても、
魔界を滅する目論見を潰さなければ、いずれ大きな争いになりそうだから。
「ところで、アマ様は魔界に行かれた経験はおありですか?」
「一度首脳会談の際に行ったことがあります。荒れ果てた大地と澱んだ空は、今でもトラウマのように、脳裏に焼き尽いています。」
「そうですよね。俺も初めて行った時は異様な光景に恐れを抱きました。しかも、魔界の住人は血の気が多く、俺を餌として見る者もいました。正直、もう二度と行きたくないです。」
あれ…?魔界の良いところを言わないとダメな場面なんだけどな…
口から出るのは魔界の悪口ばかりだった。
「えっと…でしたら、満場一致で魔界は滅した方が良いということでは
ないでしょうか…?」
「ところがです!現魔界の王をご存知ですか?リムという名で、先ほど俺を守ろうとしてくれた美少女です。」
「あ~。先ほどの…確か門番の報告書には、とんでもないナルシストと記されていた厄災の面影のある少女ですね。」
門番…?とんでもないナルシスト…?
何の話をしているかわからないが、厄災の面影は恐らくリムさんのことだろう。
さすが天神の審美眼。厄災の存在を見ただけで感じ取ったようだ。
「そうです。彼女は殺伐とした魔界の王ですが、とても心優しく、命を尊ぶ心があります。そんな人が王として、魔界を統治できたのなら、魔界は良い方向に変わると思うのです。」
「うーん、一理ありますね。」
首を傾げて少し考え込むアマ様は、少しだけ理解を示してくれた。
「ですが、厄災を操れない魔王が厄災を扱えるようになったとして、現段階でイジメを受けている人物が、国民性最悪の国で王になり、その最悪の国の治安を一から統制していく…武力も知能も今の彼女では、不可能に近いと思いますよ?」
す、凄い現実主義者だ。天界を纏めている女王だ。国の統制において、彼女より知識が深い者はいないだろう。
「で、でも、ゼロじゃないでしょ!?可能性!?」
必死だ。正直ぐうの音もでないほどの返答だったが、必死でぐうの音を出した。
「そうですね~。でも、やっぱり私は起こるかもわからない奇跡にかけるより、
確実な手段をとるべきと考えますね~。これ以上、魔界の存在意義を見出せないのであれば、魔界を滅するという立案を可決させてもらいます。」
さ、さすが、天界の弁護士と裁判官でもあるアマテラス様だ。
完全に討論の主導権を握られ、次の発言で下手をしたら魔界滅亡への進撃が始まるかもしれない。。
「で、ですが、、そ、その。。。あ。あ。」
あまりのプレッシャーで声がでない。
呼吸は荒く、滴る汗は冷たく感じる。
汗が流れ出るたび、目に映る色や聞こえる音が減っていき、
ほとんどの五感は機能しなくなり、
白黒の部屋でモノクロのアマ様だけがぼんやりと見える。
魔界と人間界の行く末を決める。この世で最も責任の重い討論。
その重責を背負うには、この世で最も凡人な俺の背中は、
絶望的に小いさく弱すぎた。
「ふふっ!普通の人ができる会話ではありもせんでしたね!すみません。
すぐ楽にしますので!!」
「あ。。ぁ。。あぁ」
結局この展開を打ち破る打開策など考える余裕もなく、肥える前のカオナシのような声が2、3回でただけだった。
「裁決の結果は!人間界と天界の合併により!Tポイントカードの入会費無料&魔界は滅亡させることに決って…」
「お待ちなさい。そんなこと
ぼーーっという耳鳴りから僅かに聞き取れた。
アマ様の独壇場となっていた裁判に、待ったをかける声が。
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