第37話 急がば回れ

可愛い子に食べられたい気持ちは嘘じゃない。

でも、肉体を失うのも寒天になるのも嫌だ。


「だ、誰か!!助けてくれ~~~~~~~!!!」


今にも寒天に着床しそうな状況で、リムさん以外に助けを求める自分の正気を疑ったが、ピンチの時に助けてくれる正義のヒーローを心のどこかで信じていたのかもしれない。


ズバシッ!!!!


「ヒック!!!!!」


学ランの首袖を思いっきり引っ張られた。

当然。全速力で落下していた俺は、ド派手に処刑される海賊王のように首を吊られる。


「あlkdんfヴぃおfすん!!!!!????」


声が、いや、呻き声が出ただけ褒めて欲しい。


「フェイズ!?!?!?」

「リム!?!?」


どうやら俺を助けてくれたのはフェイズらしい。何人で俺を助けに来てくれたんだ。

首の痛みのせいか、少し安心したせいか、少し涙がでる。


「リム!!!なんでここにいんのよ!!」

「ふぇ、フェイズこそ、なんでここに…?も、もしかして…」

「ぐぉえーがぁ!?がぁっせ!!」


フェイズの健康的で豊満な胸に抱かれていると、天国は噂通りの名所だと感じた。

だが、喉仏は地獄の中にあり、声が出せない。


「リム!あんた試練の間の床に飲み込まれたんでしょ!?ってことは、恋…してるの…?」


俺が空中を舞っていた経緯よりも、知己の恋路が気になって仕方がないフェイズ。人間性の欠如と言うべきか、恋に生きる女性と言うべきか、悩ましいところだ。


「わ、私は!その~…えっと〜…」

「まさか本当に恋しているの…?リム…?」

「…ううん。そんなはずないの。私が…そ、そんなはずないの!」


フェイズのストレートな質問に、歯切れの悪い返答をするリムさん。

そうとう言いづらい理由があるのだろう。


「リム。いいの。無理しないで。自分のことを世界一美しいと思ってるんだもん。恋くらいするわよね。自分に…」

「ちょっと!!行き過ぎたナルシスト扱いするのやめて!!!///」

「でも、他に好きになる人なんて、リムにいないじゃん!?…え。まさか、鈴木!?」

「いや///…そ、それも違う!!」

「んも〜〜!!ハッキリ言えばいいじゃん〜〜!!それでも魔王なの??」


いや、そもそも魔王は恋話をするのだろうか…

バシバシ好意を伝える魔王なら、誰も恐れはしないだろう。


「くぅ〜〜ぅう…///」


ぷるぷるぷるぷる


言葉に詰まってから動けなくなっていたリムさんは、魔王らしくないという言葉に反応してか、羞恥心で真っ赤になった指先で自分の方を震えながら指さした。


「な、ナルシストですた//////////ごめんなさい/////」

「リム…あんたって、すっごいポジティブ…ね。」

「リムさん。それって…まじ?」


羞恥心で真っ赤になった頭を、コクリと縦に振るリムさん。


なんとも言えない、気まずい空気が流れる。


ビガーーーーーン!!!


気まずい雰囲気を切り裂くように、

何もなかった空間から強い光が飛び出し、一瞬にして視界を奪われる。


「いぃーー加減にしてくださーーーい!!!」

「うわっ!!なんだ!?」

「え!何っ!?」


光源から聞き覚えのある声がした。


「あなた達!!罰を受けている立場で何をイチャイチャしているのですか!!獄中結婚なんて天界では認めませんよ!?」

「その声!天神か!?」

「この声は!鈴木をさらった変態女の声!」

「私と鈴木くんが、け、結婚っっ!?!?」

「なっ!天神を変態扱いしないでください!!変態と言えば、あなたの方が変態じゃありませんか!!」

「私のどこが変態なのよ!」

「ふしだらな胸で鈴木氏を挟んでいるではありませんか!!」

「ち!違うわ!鈴木は翼がないんだものっ!挟んでないと落ちちゃうじゃない!!」

「じゃ、じゃあ、私が…挟むの変わろっか…?す、鈴木くんがよければ…」

「そ、それはダメ!!リムはダメ!!!」

「挟まずに手で掴めばいいのではないでしょうか?…はっ!!そんな話はどうだっていいのです!服役中にイチャイチャしてはいけないという話です!鈴木氏を独房に移送します!」


天界の獄中で、悪魔の女王、魔王、天神が俺をめぐって争う異質なハーレム展開。

獄中だとか天界だとかのしがらみがなかったら、どれほど嬉しかっただろうか。。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る