第35話 第二の試練

ズギューーーーーーーン!!


風を引き裂くような翼の音が、リムさんの細くて切ない美声をかき消す。

普段なら聞けば癒される声も、この場においては不便でしかない。


「リムさーーーん!!もっとハッキリしゃべってください!!」

「わ…わかりました…」


リムさんは、もう少し大きな声だっだはずだが、何か喉に攻撃でもされたのだろうか…


「ぜんっぜん聞こえないよーー!?腹から声出して!それともリムさんには腹がないの!?」


事情は知らないが、全く音量が上がらないリムさんに、つい意地悪な音楽教師のような要望の仕方をしてしまう。


「私はーー!!第一の試練を乗り越えた後にーー!!」


今度は小学生の選手宣誓のように、ハッキリとした声でリムさんは話し始めた。


-------------------↓キャシーチーム↓--------------------



「危なかったっ~!」

「もうダメかと思ったぜ。」

「はぁはぁ…勇者あんた…はぁ…ちょっと私の飛行邪魔してたでしょ!?」

「言いがかりだよ~!仲間を疑うなんて最低だよっ?」

「仲間を落とし入れようとする方が最低よ!!」


お嬢に抱えられていた為、全く前を見ることができなかったが、時折聞こえた打撃音から、勇者がお嬢を攻撃しながら走る光景が、容易に想像できた。


「貴方達、天神にたどり着くには、あと5つは試練を超えなくてはならない。遊んでる暇はないわよ。」


どう考えても被害者はお嬢のはずだ。

加害者が裁かれなくては、被害者は増えるに決まっているのに、金剛は馬鹿の遠吠えに付き合っている暇はないと言わんばかりにお嬢と勇者を注意してきた。


「…人間には協調性や社会性っていうのがないのかしら…」

「お嬢。悪魔の女王が人間性を説くのはメンツが潰れちまう。控えてくだせぃ。」


下唇を噛み締めて頬を膨らませるお嬢。

チームワークの欠片もない人間に物申したい気分になるが、金剛の言う通り、今は次の試練に向かうのが真っ当な判断だろう。


「あれ!?そういえばリムは!?リムはどこに行ったの!?」

「そういやぁ、どこにもいねーな。。」

「彼女なら先に試練の間に入っていったわ。貴方達も少しは見習ってカッカと歩きなさい。」


金剛は勇猛果敢に次の試練に走って行った、リムの威勢を見習えと言っているが、どう考えても自分がナルシストだと露見し、悶えるような羞恥心を紛らわせるために、ひたすら走っていただけだ。

あと、カッカと歩けるのはハイヒール履いてるお前だけだ。


「きゃあーーーーぁあ!!!」


金剛の勘違いを正そうとすると、前方に見える玉ねぎ型の建物から悲鳴が聞こえた。


「なにっ!?玉ねぎが鳴いてるよっ!?」

「い、今の声はまさか!?」

「リム!?!?」


お嬢は悲鳴を上げたのがリムだと確信しているようだ。

アタフタと翼をはためかせるお嬢は、翼で飛んでいるのか、脚力で進んでいるのかわからなくなっている。


ズッゴーーーーン!!!


玉ねぎ型の建物の扉を勢いよく開けると、金ピカで日差しを反射する外装とは打って変わり、床や壁すらも見えないほど真っ暗だった。


「リムーーー!?」

「嬢ちゃーーーーん!?」


暗闇に向かってリムの名前を呼ぶが、叫んだ声は暗闇が吸い込むだけでリムの返答はなかった。


「うっふふふーん!ダメよダメダメ!女の子がそんなに声張っちゃ!そんなんじゃ、男の子はあなたに振り向かないわよ?」


目の前に広がる暗闇から、鼓膜を舌で舐められているような。酷くねっとりした男の声がした。


「な!?す、鈴木が振り向いてくれないだなんて!そんなはずないわ!?…な、ないわよねキャシー?」

「もちろんだぜ。鈴木とは誰も言ってませんでしたが、お嬢なら狙った雄は誰でもイチコロでさぁ!ヒャララ!」

「無責任なこと言っちゃダメだよピエロっ!この世で1番凡人の鈴木にフラれた時点で、平均以下の女ってことは確定だよっ!」

「わ、私…鈴木にフラれてたの…?」


頭を抱えて、膝から崩れ落ちるお嬢。


「テメェーこそ!無責任なこと言うんじゃねー!!いつお嬢がフラれたんだ!!」


崩れ落ちたお嬢の側に駆け寄ると、お嬢は少し慌てた表情で俺を見た。


「キャシー…これって…」

「こ、こいつは!?」


近づいてわかったが、お嬢は膝から崩れ落ちたのではなく、膝から下まで床に埋まってしまったのだ。


「お嬢!いつの間にこんなに重くなったんでさぁ!?」

「馬鹿っ!!そんな急に重くならないっつーの!!」

「んっんんぁーん!あたしを差し置いて何話してるのかしら。そんな無駄話してると、さっき来たあたしの次くらいに可愛らしいお嬢ちゃんみたいになるわよ。」

「あんたリムに何したのよ!!リムを返しなさい!!」

「そうだ!!オカマ野郎!さっさとリムの嬢ちゃんを返しやがれ!!」

「んっふふ。あなたにはさっき言ったはずよ?大きな声を出す女性は男性に好まれないわ。」

「そ、それは今関係ないでしょ!?大人しくリムを…」


ズプププププ…


「お嬢!?さっきよりも沈んじまってますぜ!?」

「な、なんでよ!?私はじっとしているのに!?」

「んっふふ。やはり、間違いないようね。

この建物の床はね〜。恋に落ちている者を監獄に落とす魔法がかかっているのよ!」

「「な、なにーーーーーー!?」」

「なんで恋に落ちていると監獄行きなんだよ!!別に罪なことじゃねーだろうが!!」

「そ、そうよ!!わ、私は恋になんて落ちてないし!!」

「ノンノンノン。それはあたしと天神様が、リア充のことが大嫌いだからよ。それと、お嬢ちゃん。あなたは恋に落ちているわ。あたしの言葉に動揺しまくりなんだからん!」

「くっ!!ただのリア充に対する僻みじゃねーか!なんて自己中な奴らだ!!」

「わ、私は…す、鈴木のことなんて…別ニ…」


第一の試練は誠実さを問われる試練だった。第二の試練は恋に落ちているかどうかの試練だと!?

ふざけやがって、合コンの時使えそうな試練ばっか用意するんじゃねーよ!!









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