第32話 珍問答

門の左側に設置されていた、タオルを腰に巻いたダビデ像のような石像は、右手に構えた槍を我々に向けて持ち上げる。


ズゴゴゴゴゴ…


「貴様ら。この門を通りたくば、我が問に誠実を持って答えよ。」

「な、なんて威圧感だ。お嬢、俺の後ろに隠れてくれ。」

「私は大丈夫。いざとなったら転移魔法で私の下駄箱からリムと魔界に逃げなさい。」

「フェイズ!私はあなたを置いて逃げたりなんてしないからね!死ぬときは一緒に!!」


自分より仲間のことを第一に考える三人。俺はこの人達に会えて魔界一…いや、この世で一番幸せな奴かもしれねーぜ…


「…右の人は何で動かないのっ??」

「馬鹿力なお姉ちゃん。質問する専門のシステムに質問をしても意味がな…」

「非番だからだ。」

「うげーーーーーー!?こやつ話ができたのか!?なぜじゃ!?なぜ千年間無言だったんじゃ!?」

「おじいちゃんと話す趣味はない。」


誠実な答えを求める門番は答える時も誠実なのかもしれない。

まったく歯に衣着せぬ発言だ。


「こ、こやつ!!ワシが千年間一人で麻雀してるのどう思ってたんだ!!」

「可哀そうなおじいちゃんだと思ってた。」

「くぬ~~~~~!!まさか!?右の奴も話ができるのか!?」

「ウラヌラティウスも話せる。だが、今日は非番なので話さない。」

「非番非番って!!何も変わってないじゃろーが!!ずっとそこにおるじゃろーーが!!」


雲を蹴散らしながらプンスカと怒る老天使。

千年間一人麻雀をしていたということは、少なくとも千歳を超しているということだ。こういう歳の取り方はしたくないぜ…


「否、非番の日は腰のタオルを外す。」

「そこだけ!?お前らの自由それだけでいいの!?」

「我々はそれこそが至高の喜びなのだ。」

「な、なんと…」

「歯に衣着せぬやつとは思ったが、股間に衣着せぬ性癖の持ち主だったのか…」


ズゴゴゴゴゴ…


突然、天獄門の扉が開き始めた。


「誠実な小さき者よ。この門を通り天界に入ることを許可する。」

「お、俺のことか!?」

「ふふふ、今の発言が誠実だと判断されたようね。」


太陽が照り付ける雲の平原にいるのに扉の奥が明るく見える。

聖なる光は刃を溶かし、傷を癒すと聞いたことがあるが本当かもしれない。

心がホカホカと暖かくなり、ビートルズの平和な曲を口ずさみながら、あの光の中に身を投じたくなる…

だが…


「お嬢は俺よりも強い。だけど、俺はお嬢のボディガードだ。アッチに行くのはお嬢と一緒だぜ。」

「キャシー…わかった。私は絶対あの門番から許可を得てみせるわ!」

「では、そこの気高き悪魔に問う。私のカッコいいところを言ってみよ。」

「「「へっ!?」」」


少し顔を赤らめた石像が筋肉を強調させるポーズをとりながら、お嬢の答えを待っている。


「…えっと、筋肉隆々なとこ。」

「うんうん!それでそれで〜?」


石像は一つでは飽き足らず、まだ自分のカッコいいところを言わせるようだ。

というか、これは本当に誠実さをはかる問いなのだろうか。


「えっと〜、クルクルの髪?」

「ふふふ〜ん!なるほどね〜!ポンポン言っていこうか、ポンポンッ!」


調子に乗った石像が、さらにお嬢からカッコいいところを言わせようとする。

お嬢はもはや疑問系で答えたぞ?カッコいいのかよくわかってないんだぞ?お前それで満足なのか?


「え、えっと〜〜…」

「貴方にカッコ良い所などないわ。真のカッコ良さとはひけらかすものではないから。」

「…入門を許可する…はぁ…」

「「えーーーーー!?」」


そうだった。忘れていた。これは誠実さをはかる問いなのだ。石像を喜ばせることも、気を使う必要もない。

真髄を見抜く目は、さすが人間界を背負っている女と言ったところか。金剛 彩 侮れないぜ。


カッ!カッ!カッ!


入門を許可された金剛は俺たちを待つことなく、門の奥から溢れ出す聖なる光の中に消えていった。


「「はっ!!やばい!!金剛に先を越されちゃうっ!!」」

「石像!さっきから言動が気持ち悪いのよ!服着ろ!髪切れ!性癖治せ!」

「石像の馬鹿っ!クズッ!親知らずっ!」

「貴様等。それはただの悪口であって誠実さではない。あと、人間の女よ。親知らずは歯の名称であって悪口ではないぞ…ぐすっ…」


石像ちょっと涙目じゃん…


「ケチ!さっさと通してよっ。」

「器の小さい人。ああいう男は股間も小さいってリムが言ってたわ。」

「ちょっと!私はそんなこと言ってないわよ////!!」

「貴様等、お手付きで一回休み!」

「「えぇ~~~~~!!」」


早押しクイズみたいなこと言い出しやがる。

必然的に回答兼があるのは、そこで事の成り行きをポケッと見ていたリムだけだ。


「では、貴様に問う。この世で一番美しい者は誰だ?」


石像は魔法の鏡にするべきような問いを出題した。


「え!?う、美しい者!?そうだ!悪魔の女王のフェイズです!」

「ふふ~ん。違うな〜?心の奥に仕舞っているのが、あるんじゃないの~?」


石像は石のくせに、ニヤニヤと卑猥な表情でリムを見ている。まるで、貴様の心中は丸見えだと言ってるかのようだ。


「え!?ないですよ!ない!ない!」

「リム!お願い!早く本当のことを言って、金剛を追いかけて!」

「う、う~~ん。えっと~…」

「ふふ~ん。5・4・3・にぃ~~」

「わ、私よ///!私が一番美しいわ////!!」

「ぷっ!!貴様は誠実だ。入門を…ぷっ…許可する…ぐわっははは!!」

「「「「うっわぁ…きっつ…」」」」

「な、何よ…皆して…う、う、うわぁーーーーーん////!!!」


タタタタ!!


リムはその場から逃げるように門を通り、光の中へ消えていった。

世界を股にかける虐められっ子は、虐められる自分は健気で可愛いと思っている、シンデレラ系メンタルの持ち主なのだと今日知った。

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