第31話 晴れ時々カブトムシ
あ、熱い…
魔界の火山地帯を思い出す。
水平線、、というより、雲平線が見えるほど障害物のない平原をひたすら歩く。雲の上にいるため、一秒たりとも太陽の光から逃れることができない。
「こんな日差しの強いところで生きようなんて、変態か鯵の干物しか考えねーだろ…」
金剛の後ろを歩き続けて1時間はたった。
微塵も変化のない景色のせいで、進んでいるのか疑わしくなる。
なぜ体力も精神力も劣る人間が、こんなにも迷いなく歩き、その背中は頼もしく感じるのだろうか。
ただ、それにしても…
カッ!カッ!カッ!
「…」
カッ!カッ!カッ!
「……」
カッ!カッ!カッ!
「カッカ!カッカ!!靴音がうるせーーなぁ!!なんで雲の上歩ってるのに、そんなリズミカルなキツツキみたいな音がなんだよ!!」
「あら、この靴は魔界にはないのね。これは己の存在感を際立たせる崇高なハイヒールよ。地面の固さに関係なく、子気味のいい音が鳴るように設計されているの。」
「…なんの為に鳴らすんだよ。」
「ふふっ、皆が私の存在を即座にわかるようによ。当たり前でしょ。少し考えてから話しなさい。」
それって、子供が人の目の届かない所に行かないように履かせられる、ピヨピヨサンダルと一緒の原理じゃねーか?
「あのよぅ。その靴は両親からもらったのか?」
「そうよ。年々いい音がなる靴になっていってるわ。」
それは年々手が掛かる子供になっていってる証拠じゃねーのか!?
俺の中で、金剛はまともな知能を持っているというイメージが揺らいだ。
「ん~~っとね~、牛丼っ!!」
「ンドゥール火山。」
「ンマネティ麺。」
「ん~??あっ!悪魔の負け!!んがついたら負けなんだよ!?」
「えっ!?なんでよー!?しりとりは、あがついたら負けでしょ!?」
「てか、さっき勇者もんって言ってたよーな…」
お嬢はともかく、コイツら呑気に会話の墓場みてーなゲームしやがって…説教したら!!
「お前らピクニックに来てんじゃねーーんだぞ!?!?気を引き締めやがれ!そういう油断してる時に危機っていうのは訪れ…!!!」
ズゴーーーーーーン!!
後ろを向いて説教していると、凄まじい衝撃が頭にはしった。
見える景色がグランッグランッ揺れている。
後頭部を抑えながら後ろを振り返ると、水平線が見えるほど何もなかった雲の平原にに、巨大な金色の門がそびえ立っていた。
高さ20mはあるだろう門柱には、ピンク色の龍が二匹描かれ、門の両脇には裸男性の石造がある。
…なんというか…すげぇ悪趣味な門だぜ。
「うわぁ。大っきぃー!」
ぴぴぴぴーーーーー!!
ぎりぎり見える門の頂上から笛の音が聞こえた。
「下劣な魔物と下等な人間が、この神聖なる門に触れるでない!!」
「誰よアンタ!!いきなり雲の下から出てきた門が悪いんじゃないの!!キャシーに言いがかりつけないで!」
お、お嬢が俺を庇ってくれてる…涙腺が危ういぜ…
「う、うるさいわい!!ま、麻雀してたから来訪者の確認が遅れたわけじゃないぞ!?」
しわがれた声に時折聞こえる羽音から、声の主は恐らく年老いた天使か何かだろう。
「麻雀してたんですね。きっと。」
「ぬっ!?貴様は!魔王の血をひくものではないか!?天界に何の用だ!?」
こちらは目を凝らしても門の頂上がよく見えないが、老天使にはリムのことがハッキリ見えているらしい。
「鈴木を返して欲しいのっ!!天界に来てるはずだからっ!!」
今、老天使はリムに質問したのだが…
勇者は自分が魔王の血をひいてると思ってんのか…?
勘違い甚だしいと言いたいところだが、リムの厄災レベルのドジっ子ちゃんを散々見てきた俺には、もう勇者の方が魔王に相応しいと感じてた。
「鈴木?この世で一番凡人とかいう人間か?ぬふふ。それは諦めることじゃ、あの人間はアマ様が、ずっと前から目をつけていたお気に入りじゃ。手放すつもりはないじゃろう。」
「うーん。おじいちゃんだから、よく意味がわかってないのかな〜…鈴木を返してって言ってるんだよ??」
「いや、じゃから、もうアマ様の物になってしまったから諦めなさいっと言っとるんじゃ。」
ズバァギャヤーーーーーーーン!!!!
ズゴゴゴゴゴゴ…ビリビリビリ
勇者が大門の扉を殴った。いや、ぶん殴った。
扉は開かなかったものの、大門自体が数センチ後ろに下がったように見えた。
「勇者!落ち着きなって!?」
「て、て、天界に喧嘩を売ったら危険です…危ないですよ勇者…」
天界の獄門を動かすなんざ、化物って次元じゃ収まらねーぞ…
一介の人間の力を凌駕しすぎてる。人間失格だぜ。
「ふふふ、ナイス…だったかもしれないわね。」
ポヨヨーン…
「ん!?なんだ!?なんか上から落ちてきやがったぞ!?」
「貴方達!それを拘束しなさい!!」
ようやく天界に詳しい金剛が口を開いたと思えば、俺達に偉そうに命令してきやがった。
腹立たしいが、なぜか全員で息を合わせて落下物に飛びかかってしまう。
「ちょちょっ!ちょっと待つんじゃ!腰をやってしもうた!ワシに触らんでくれ!オ〜イテテテ…」
「その声は!今上からじゃべってた野郎だな!?」
上から落ちてきたのは、門の上から話していた老天使だった。
「げっ!?カブトムシじゃない!?」
勇者…お前はカブトムシだと思って拘束したのか…
ゴキブリでも触ってしまったかのように勇者が後ずさる。
「誰が木から落ちてきた昆虫じゃい!お主は少し手加減を学ばんか!神聖なる門を動かすなんて天界ができて以来、歴代二人目じゃぞ!?」
「だって!おじいちゃんが鈴木を返してくれないのが悪いんだっ!!早く鈴木のところに連れてってよっ!」
「そうよ!私には…その…私とリムには彼が必要なの!天神に直談判するわ!門を開けて!」
お嬢は昔から手に入れると決めたら、必ず手に入れる知略的な性格。それに対して、勇者は目標に真っ直ぐ突っ走る猪のような性格だな。
「わ、わかった!わかった!!わかったから腰突つくのやめてくれぃ!!」
「いいから早く開けてよっ!えいえい!」
「イッテテテテ…!!じ、実はワシでは開けられんのじゃ!獄門の番人の質問に真実を持って、答えねば扉は開かんのじゃ!!」
ズゴゴゴゴゴゴ…
噂をすればと言わんばかりに、門の扉の両脇に設置されていた、巨大な石像が動き出し、俺たちをつまらなそうに見下ろした。
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