第30話 珍道中1

お嬢は勇者を天界に連れて行くと言った。

鈴木を助けるチャンスを勇者に与え、自分と対等の舞台で戦うために連れて行くと…

つまりは、どちらが鈴木を救出できるのか競う考えなのだ。


「お嬢、今の発言は…」

「あぁ〜もー!うるさいわね〜!!」


真っ赤になった翼が、お嬢の気持ちをあらわにしていた。

間違いなくお嬢は、鈴木を気になっている。そして、勇者を恋敵だと思っているのだろう。


「ヒャッラララ!!勇者は手強い相手ですぜ!ズルしなくてよろしいのですか?お嬢?ヒャララ!」

「私は勝つわ。もちろん正々堂々戦ってね。まぁ、見てなさいよキャシー。」


厳格な性格をしているお嬢は、必ず勇者と同じ土台に立って戦いたいらしい。


鈴木がいい男だとは思わないが、お嬢が好きになった人ならば、認めざるおえない。というより、お嬢の乙女のような表情を見ていると自然と笑みが溢れちまう。

どうやら、俺は早くお嬢のご子息が見てぇらしい。


「二人とも何の話ししているの??」

「リムには早い話よ。」

「い、い、いやらしい話かしら!?」

「なんでそうなんのよ!!そ、それは私にも早い話よ!?」


あれ?そういやぁ、お嬢ってたしか鈴木とリム嬢をくっつける為に、人間界に来たんじゃなかったか?


「ね~悪魔~!そんなことよりっ!天界にはどうやって行くのっ?」

「えっ…?」

「そ、それは…」

「「…と、飛んで行…けるのかな?」」


リム嬢もお嬢も天界なんて行ったことがない。

当然行き方もわからないのだろう。

もちろん。俺も知らない。


ズドッガーーーーーーン!!!


天界に行く方法を皆で考えていると、突然教室の扉が爆発した。


「おいおい!魔界でも学校の扉が爆発するなんてことねーぞ!?リムの嬢ちゃんが何かしたのか!?」

「ちょっと何!?リムがやったの!?」

「なんで第一候補がいつも私なのよ!私じゃない!!扉が爆発するなんて、人間界ってこんなに物騒なの!?」

「いや!私も初めて見たよっ!」


リムの嬢ちゃんは犯人ではないらしい。

爆心地からは黒煙が上がり、硝煙の匂いが教室を包む。


ドスッ!ドスッ!


黒煙の中から、タックルと金剛彩が現れた。


「あら?貴方たち、まだ避難していなかったのね。」

「あ、アンタはさっき馴れ馴れしく鈴木と話していた女。逃げたんじゃなかったの?」

「ふふふ、私が無責任に逃げるはずないでしょう?太陽を破壊する準備をしていたのよ。」


金剛とかいう女は、右肩に竹筒のようなランチャーを担いでいた。

華奢な体型の割には力があるらしい。

でも、それで太陽を破壊できるとは思わないが…


「どっちにしろ!もう鈴木は死んだんだよっ!ゴリラ女王の役立たず!!」

「…死んだ?ふふふ。天界に行っただけでしょう?また鈴木を人間界に戻せばいいだけじゃない。」


この女は、どうやら鈴木や勇者よりも、他界の関係に詳しいらしい。

一体何もんなんだ?


「女。それは一般常識じゃねーぞ?どこでそれを知っ…」

「「「じゃあ!天界の行き方知ってるのっ!?」」」

「ふふふ、知っているも何も、今から行くところよ。ご一緒にいかがかしら?」

「「「行くっ!!連れてって!!」」」


全く性格の似ていない三人が珍しく意気投合する。


「三人寄れば文殊の知恵ね。あなた達の今の答えは正解。ふふっ、楽しみね…タックル!」

「OK!ボス!」


主人に無礼な発言をされ、鼻息を荒げていたタックルが、太陽を粉砕できそうなほど巨大なロケットランチャーを取り出した。


「グッドナイト!」

「お、おい!!ちょっと待っ…!!!」


ドッヒューーーーン!!!


有無を言わせず発射されたタックルのロケット弾は、セリフを言い終わる前に、俺達の側にある黒板に着弾し、真っ白な閃光が全身を包んだ。


俺の最後の言葉は何だっただろう。

走馬灯とかいう人生のフラッシュを見る暇もなかった。少しだけ楽しみにしていたんだがな。


「って!?んっ!?」


爆撃の光に包まれたかと思えば、目を開けると光が満ちる雲の上に立ち尽くしていた。


「ど、どうなってやがる!?」

「ん?あらキャシーじゃない?」

「お嬢!?ご無事で!?」

「はたして、これは無事なのかしら…ちょっとリム。」


肉体に異常は無さそうだが、目覚めた場所は異常だ。

あの世なのか、夢の中なのかもわからない。


スパーーーーーン!!


「いったーーーーい!!!なにすんのよフェイズ!!」


お嬢がリムの頭を引っ叩いた。


「どうやら夢じゃないようね。勇者もゴリラ女もいるし。ここが天界なのかしら。」


スパーーーーーン!!


「うぎゃーーーーー!!!何すんのよ勇者!?」


勇者がリムの頭を引っ叩いた。


「いや、私も夢じゃないか確かめたくって!きゃはは!」

「二人とも!!それは普通、自分の痛覚で試すのよ!?今、夢じゃない確信があるのは私だけよ!?ぐすっ…」


はぁ。死んでも馬鹿と不運は治らないな。。

残念だが、おつむがまともなのは、このゴリラの女王だけのようだ…


「何をしているの?遊んでないで、早く天獄門てんごくもんを見つけなさい。」


カッ!カッ!カッ!!


依然として冷静な金剛は、フワフワの雲の上を、ヒールの音を高鳴らせながら、歩みを進め始めた。


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