第28話 兼兼パッ!

「うっ…ぐわぁあーーーー!?!?」


俺は汗だくで目を覚ました。


「はぁはぁ…」


悪夢を見ていたようだ。

小さいおっさんに群がられ、致死量の加齢臭を嗅がされる悪夢だ。


「う、うぉえぇ~~…思い出しただけで吐き気がする。」


夢にしてはハッキリ記憶があるが、あまり深く考えようとすると、頭が痛くなり思考が停止した。


「一体ここはどこだ?」


空が見渡す限り真っ白だ。部屋の天井かとも思ったが、どこにも壁が見あたらない。

全てが真っ白のため、遠近感もいまいち掴めない。

近似感があるとすれば病室だろうか。


「ったく。お相撲さんの病院か何かか?病室広すぎだろ。」


放った声はどこにも反響せず、自分の声がとても小さく感じた。

呆けていても仕方がないので、立ち上がり徘徊しようとする。


ずぷ…ぬぷぷぷ…


「なっ!!えっ!?足がっ!」


床がすっごく柔らかい!?

というか、反液体状に近い!

これはまるで。。


「寒天だっ!!」


ずぷ…ぬぷぷぷ…


足を抜こうとする少しの動作だけでも、半透明の寒天のような地面に、足が飲み込まれていく。


「正解です!ここは天界で一番寒い監獄!獄盛檻天ごくもりかんてんの空間です!!」

「え!?誰だアンタ!?」


何もなかった天井から、大きな白い翼の生えた女性が舞い降りてきた。


「誰だ…ですって!?さっきまで話をしていたではありませんか!!天神のアマテラスです!」


アマテラスと名乗る女性が俺の前に降り立つ。

まるで前人未到の雪原のように穢れを知らない純白の翼とワンピースを身に纏っている。

背景が白なのにも関わらず際立ち、神秘的に光って見える。

切れ長で優しく開いた目から慈愛の眼差しが零れ、視線の先にいる俺を日差しが当たっているかのように、ポカポカと温かい気持ちにさせた。

だが、祝福を送るべきは彼女の美しい顔立ちだけではない。手、胸、腰、足、どこを見ても、この世の奇跡を体現したかのように美しく、尊く、神々しく感じる。もしも、あの麗しい黒髪の一本にでも触れられようものなら、俺は自分の命を喜んで対価として差し出せるだろう。


「あ、あの…私は少しだけ人の心が読めてしまいます。ので…その。恥ずかしいので私の批評をやめてください/////」

「え!?いや、その//すいません//」

「コホン!…さ、先ほどの私への名誉棄損行為は特別に不問とします//」


「デヘッ!アマ様ノ頬ガ赤イ!喜ンドルゾ!」

「グフフ!ヤハリ、アマ様モ女子おなごジャ!!」

「ヒュ~!ニーチャン!コノ裁判長オ世辞ニ弱イゾィ!!モット、言ッタレ〜!」

「天使さん達、私語を慎んでください//」


先ほどの名誉棄損行為?もしかして、俺が見間違いをして悪魔呼ばわりしてしまった人かな?


「そうです!ちなみに頭突きをされたのも私です!」

「天界の裁判官様とは知らずに!す、すいませんでした!!」


俺はこんな神々しい女性を悪魔呼ばわりして頭突きかましていたのか!?

マジで大罪じゃねーーーか!!

自分を罰したい!!

しかも、天界の裁判長ってことは!俺死罪確定じゃないのか!?

このまま寒天砂漠で捨てられて人生終わりなんじゃないか…?


「ふふ〜ん。ちょっとは自分の行いを悔いているようですね。でも、大罪を犯したのです。償っていただきます。」

「若イノ!確カニ、アマ様ハ裁判長ダガ、ソノ答エジャア100点満点中1点ダゾ?」

「え?裁判長以外にも役職があるということですか??」

「そうです!私は天界の創造神兼、保安委員会会長兼、裁判長兼、総理大臣兼、村長兼、先生兼、村人A兼……」

「役職こなし過ぎですよ…ブラック企業ですか?」

「…ぶらっく??そんなことはどうでもいいです!今は鈴木さんが、セクハラと暴力を行ったことが議題です!!」

「そ、それは誤解です!セクハラは驚いて後ろに下がったら、リムさんが偶然いただけですし!暴力だって私の意思ではありません!事故だったんです!」


リムさんの厄災についても話すべきだろうか。。

この事故もリムさんの厄災の力が少なからず働いているような気がしてならない。


「犯人は皆そう言います!自分の都合のいいように物事を考えて、自分を騙しているのです!もし、それが真実なのだとしたなら証明して見せなさい!正義があなたにあるのなら潔白を証明できるはずです!!」


しょ、証明!?証明なんてしようがないじゃないか。。

明確な証拠を出しようがない事件だった。

つまり、今俺に求められるのは、頭の固いアマテラス様を説得することしかできない。


「誰の頭がアルマジロのように固いですか!!」


いや、アルマジロじゃなくて、アマテラスって思ったんだけど。。

ハッキリとは思考を読めていないらしい。


「あの!よく思い出してほしいです!アマ様が俺たちの教室に入った時、セクハラ被害者のリムさんは一体何をしていましたか??」

「え、えっと~、全身白タイツでファイヤーパフォーマンスをしながら井上陽水のモノマネをして…?…はっ!!」

「そうです。リムさんは大変態なんです。あの程度のセクハラは彼女にとって、爽風が胸を撫でた程度にしか思っていないはずです。」


なんで井上陽水は全世界共通で伝わるのだろうか。。


「た、たしかに、、ただでさえ野蛮で下劣な常闇の生き物です。。強烈な変態がいたとしても可笑しくないです。。」

「進化論ですよ。魔境の地にいるからこそ、あそこまでの変態に進化したのです。彼女に罪はなく、彼女をあのように進化させた環境が悪いのです。。」

「なるほど。。その通りかもしれません。。わかりました!では、一度ワールドレコーダーで彼女の言動を再生し、鈴木さんに罪があるかどうか判断します!」

「へっ!?ワールドレコーダーってなんですか??」


嫌な予感がする。。


「ふふ~ん!神は一羽の雀でさえも見ているのですよ!…ヨイショッっと!このレコーダーがあれば、世界のあらゆる時間の様々な出来事を見ることができるのです!」


あ、あの教室での惨劇を見られる!?

これは、更なる危機では!?

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