第26話 人と悪魔の共同作品
「みんな!外に逃げろ!!」
「やっばー!!あっりえないんですけどー!!」
「鈴木は頭おかしいぞ!太陽を近づけるなんて、この美女達にできるはずないだろ!」
とりあえず、何が起きているかわからず、パニックになっている生徒達を避難させることにした。
ズバンッッ!!
「うぎゃ!」
教室の後ろの掃除用具入れのロッカーが、突然勢いよく開き、扉がリムさんの顔面を強打した。
「あ、あれは田中さん!?」
掃除用具入れの中から、田中さんが飛び出してきた。
まさか、フェイズに席を追い出されてから、ずっとそこで授業を受けていたのか…
トイレに花子さん。掃除用具入れに田中さんだな。かわいそうに。。
徐々に近づく太陽は、恐らくあと三十分ほどで学校に衝突するだろう。
「粗方の生徒は避難完了したな。」
「鈴木くん!私達も早く逃げないと!」
「いや、ダメだ。リムさんは俺と残ってもらう。あとのみんなは逃げてくれ。」
「何言ってるの鈴木!?」
「悪魔はともかく鈴木を置いてけるわけないじゃんっ!」
「突然ごめん!だけど、このままリムさんが自分の厄災と向き合わなかったら、きっといつまでたっても厄災を操れず、不幸な目にばかり合ってしまうと思うんだ!」
あと、厄災を操ってくれないと、いつ人間界を呪われた地にされるかわからないからだ。
「鈴木…リムのために、そこまで考えて…じゃあ…」
「鈴木は誰にでも優しすぎるよっ!私がいないとダメっ子のくせに!だからっ…」
「「私も残る!!」」
「「!?」」
フェイズと明が同時に同じ答えを導き出した。
「「ま、真似しないでっ!!」」
ガッツーーーン!!
明とフェイズがデコをぶつけ合って睨み合う。また喧嘩を始めそうだ。
正直皆には逃げてほしかったのだが、彼女たちの目の迷いのなさに、これ以上の説得は無駄だと感じた。
「ふっ、お馬鹿に付き合う気はないわ。行くわよ。タックル。」
「OK!ボス!」
嘲笑交じりのセリフだったが、いつものような悠然さがない。
常に気の張った美しい後ろ姿は、少しだけ寂しそうにも見える。
もしかしたら金剛さんは、残りたい気持ちもあるが、日本を背負う財閥の娘であるため、こんなことで命を落として、日本人を路頭に迷わせるわけにはいかないと考えているのかもしれない。
「あ、あの。私はあまりやりたくな…」
「頑張ってリム!!厄災の力を操ることができたら、きっとあなたを虐める者もいなくなるわ!!」
「悪魔っ!鈴木と私が死んだら、絶対ご飯たくさん奢ってもらうからっ!」
「明。お前の命ってご飯奢りと等価なのか…」
「だって、たっくさんのご飯奢りだよっ!?」
ご飯の量の問題じゃない。。
自分の命の尊さを教えようかと思ったが、食材にも命が関わっていたことを思い出して口を閉ざした。
たまに明の発言を深読みしすぎて考えさせられる。。
「いや、私はまだやるとは言ってな…」
「さぁリム!!あの太陽を元に戻して!!」
「いや、そんなことできるわけな…」
「早く太陽を元に戻さないと、私があなたを土に戻すよっ?」
「明。魔王を脅すのはやめてくれ。。」
先ほどから、皆聞こえないフリをしているが、確実にリムさんは厄災から逃げたいと発言しようとしている。
だが、フェイズと明の勝手な盛り上がりでリムさんの、か細い声はかき消されてしまう。
「わ、わかったわよ…ぐすっ。できなくっても怒んないでね…ぐすっ。」
「気張っていきなさいリム!!」
半ベソをかきながら覚悟を決めたリムさんは、少し恥ずかしそうに両手を前に突き出した。
「う、うん…えっと~、何をすれば厄災を操れるのかしら。。」
「気合よ!気合!!声出してきなさい!声!!」
「悪魔は歩き方教わったことあるのっ??本能で感じて!本能でっ!」
「え!?気合!?本能!?」
フェイズと明が人ごとだと思って、好き勝手なことを言っている。
自分たちの命がかかってるんだぞ!?
「えーえっと〜〜!はぁ〜〜!!」
「ちょっとまだ恥じらいが見えるかな〜。もっと一心不乱にやりなさい!」
「その腰の入れ方で太陽動かせると思ってるのっ?もっとガツンと入れなきゃ!!ガツンとっ!!」
さらに二人の要求はエスカレートしていく。もはや、リムさんを好きなように動かして遊んでいるようにしか見えない。。
「ふぁ〜〜〜〜!!ファイヤ〜〜〜!!!」
「プククッ!そうよリム!少しづつ真髄を掴みつつあるわ!プッ!」
「きゃはは!そのまま校庭50周しなきゃ強くならないよっ!きゃはは!」
気づけばリムさんは、全身白タイツで、ファイヤーパフォーマンスをしながら、井上陽水のモノマネをする変態にその身を窶していた。
「少し派手さに欠けるかしら。ちょっと待ってて!ツタンカーメンの仮面を掻っ攫ってくるわ!」
「そうだ!孔雀の翼を奪ってタイツに貼り付けようっ!!私が狩ってくるっ!」
もはや、彼女たちは命の危機が迫っていることを忘れている。
だが、俺は彼女たちを止めようとはしなかった。
変わり果てていくリムさんを見ていると、自然と笑いがこみあげ、もっと変化していく彼女が見たいと心から思ってしまったからだ。
「い、いい加減にしてよ!!これで厄災を操れるようになるわけないじゃない!!」
「リムさん。かなり遅いよ…そのツッコミ…くっ…くく」
「きゃはは!あ〜〜面白かったっ!もう無理そうだから鈴木早く逃げよ!」
「…!?…明。それはリムさんより気づくのが遅かったみたいだぞ…」
「へっ?」
教室がやたら暗い。
教室が影になっているからだ。
これは校舎の真上から光で照らされている証拠。
「この数日で、何回死の瀬戸際に立っているんだろうな…」
ゆっくりと校舎真上から降りてきた太陽が窓から見え始め、全てを灰にするような灼熱が教室を満たした。
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