第25話 日デリ

朝にしては、やけに日差しが眩しい。太陽に背を焼かれ、背中にジワジワと汗をかいているのがわかる。


「女王に必要な物って何かしらね?鈴木?」


ようやく、フェイズと明の締め上げから解放されたと思ったら、金剛さんから考えたこともない質問が飛んできた。


「え!?えっと~、」

「遅いわ。気品、カリスマ性、秀でる才能。この条件を満たす者よ。」


金剛さんが返答を待つ時間は、ほんの数秒しかないようだ。。


「それなら!魔界一美しく、知らない魔物がいないほど有名で、厄災の力を持つリムが、一番高い水準で条件を満たしているわよ!!」


物はいいようだな。

リムさんの美しさは認める。が、魔物全員に虐めらっれ子として知れ渡り、厄災の力が己に降りかかる、不幸な魔王が現実である。


「そ、それを言うなら、フェイズの方が女王よ。実家は魔界屈指の名家で、配下がたくさんいて、高い戦闘力と鋼の精神力があるもの…」


フェイズは女王というよりは、勇猛果敢な騎士のように感じるが、女王の条件はリムさんよりも満たしているのかもしれない。


「ふふふ、魔界出身の者には知らないでしょうけど、私はこの世界で一番権力のある財閥の娘で、外を散歩しただけでニュースに流されるほどの有名人。才能に関しては全部もってるわ。私にできないことはないの。」


正直、人間界の女王は金剛さんで決まりだ。。

非の打ちどころがない。強いて弱点を言うなら、100憶円を使った人海戦術など、一般人のお金の感覚がわかっていないところだろう。

あれ…そういえば、なんで魔界のことを知ってるんだ?


「う~~ん。みんな何を言っているかわかんないけどっ!王が好きになった人が女王なんでしょ??じゃあ、鈴木の好きな人は明だから、私が女王だよ??」

「えっ!?」

「あっ!」

「…」


明が根本的な真理を言った。

女王なんて、ただの役職の名前でしかないのだ。

どんなに才能のない女でも、王と結婚したなら、その人は女王なのである。

って、待てよ?


「いつ!誰が!お前を好きだと言ったんだ!!」

「鈴木の好きな人が…勇者…?」

「え。鈴木くんの彼女が勇者ってこと…?」

「鈴木は私のことを好きって言ってたわ...これが俗人で言う、浮気…?」

「人の話を聞いてくださいよ!!」


この人たちの会話は走り出したら止めることができない…

まるで列車のようだ。ただの列車ではなく、機長にすら止めることができない暴走列車だ。


「鈴木…?貴方は本当は誰が好きなのかしら…?」

「ふぅ~~~~ん!!ふぅ~~~ん!!」


常に悠然な口調の金剛さんが、ほんの少し苛立っているように感じる。

いや、金剛さんの隣にいるタックルの苛立ち方が激しいせいで、金剛さんの苛立ちが小さく見えているだけかもしれない。


「いや、その~~!誰が好きかと聞かれましても…その~~…」

「何を迷っているの…?次の返答次第では、この紛い物の女王達を消し去らなくてはならないわ。」


確かに、以前、金剛さんに好きか嫌いかと聞かれて、好きだとは答えたが、実際この四人の誰が一番好きかと問われると困惑する。

四人とも自分には勿体ないほど、美人で性格が良くて権力者だ。

正直、四人とも結婚したい。だって、ハーレムを作りたい願望は男の本能だろ。

だが、日本の法律上、一夫多妻制は許されていない。

待てよ…?俺は王なんだろ?じゃあ、法律を変えることもできるんじゃ...


「どうするフェイズ!?私達じゃ勇者を倒せないわ!!」

「倒せないじゃないの。倒さないといけないの。私と…じゃなくて///!!リムと結婚させるためにね!?」

「私と鈴木の強い絆は裂けるはずがないよっ!!」

「明!!お前は頼むからしゃべるな!!」


くっ!このままだと、法律を変える前に争いが起きてしまう!!

魔界での戦いを見ていたため、フェイズの人外の力とリムのポエムの呪力は人間界の形を変えるほどの力があることがわかっている。

金剛さんの人海戦術も交えたなら、人間の血も大量に流れることになるだろう。

サウナにでも入っているかのように汗が止まらない。


「はぁはぁ…」


今初めて自分は人間界の命運を握っている存在なのだと実感した。

俺の次の行動で、もしくは一言で、人間界が大きく変わる。今まで高校入試以上の緊張を味わった事のない俺には荷が重すぎる。必死に頭を働かせて言葉を絞り出す。


「はぁはぁ…ちょっと…ここ。熱すぎませんか…?」

「鈴木。今の状況をよく理解していないようね。」

「そういえば、鈴木くん凄い汗ですね…」

「というか、鈴木のいる所だけ、なんか眩しくない?」


フェイズに言われて気が付いたが、俺の周りだけ妙に日差しが強い。

教室の机からは蒸気が上がり、まだ春だというのに、数メートル先にいる金剛さんが、陽炎で揺れて見える。これは日照りのレベルではない。

恐る恐る窓のある後ろを振り返ると、目を焼くような光を放つ球体が外に浮かんでいた。


「え!?た、太陽が近づいてきてる!?」

「鈴木眩しいっっ!!」

「リムさん!?今度は何したんですか!?」

「リム!やり過ぎよ!いつポエム考えてたのよ!」

「え!え!?わ、私じゃないですよ!?たぶん!?」


太陽をデリバリーするなんていう、地球滅亡クラスの厄災は、勇者を倒そうとしている魔王以外に原因はないと思った。


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