第24話 前の花と後の花
「くっ…勇者が銃を使うなんて聞いたことないわよ!?」
「はぁはぁ…あれが人間界の銃…なんて威圧感なの。」
「リムさん。あれは人間界の食料ですよ…」
ブリトーを向けられているだけなのに、まるで拳銃を突きつけられているかのような、命の危機を感じる。
「明!落ち着け!この人達は敵じゃないんだ!」
「敵だよっ!鈴木に取り憑いた悪魔だもん!」
やはり、明は俺の説得に聞く耳をもたない。
だが、今もジンジンと痛む右のこめかみが、彼女達をブリトー砲から守れとけしかける。
ざっ!!
「!?鈴木!それは一体なんのまねっ!?」
「…」
俺は悪魔と魔王の前に出て、両手を大きく掲げ、自分を盾にする体勢に入った。
「す、鈴木!!///」
「何してるの鈴木くん!?って!え!?フェイズ!翼が赤くなってる!?」
「きゃっ///こ、これは!!違うの///!!」
後ろの悪魔と魔王はキャピキャピし始めたが、明はさっきよりも怒りを表にした。
「私の鈴木を魔術で操るなんてっ!!絶対許さないっ!!」
ブリトーを握る手に力がこもり始めた。
明の持っているブリトーは全部で10個。
一度発射したブリトーを、また構えた所を見ると、弾丸(ソーセージ)は1つのブリトーにつき二発以上出る。
最低20発だとしても、俺は痛みに耐えきれる自信がない。というか、一発もくらいたくない!!
「鈴木。ごめんね。今、魔術から目覚めさせてあげるからっ!」
スピューーーーーーーン!!
来た来た来た!!!
対策どころか、痛みに耐える覚悟すらできていないのに〜〜!!!
ズッパーーーーーーーーーーーーーン!!!
「かはっ!!げほっけほっ!うおぇ…」
い、息ができない!?
明の握力により放出された弾丸(ソーセージ)は俺の喉に命中し気管を閉ざした。
声も全くでない。
どうやら、喉仏さんが射殺されたようだ。。
「まだ目が覚めないのっ!?私は鈴木を傷つけたくないのっ!!お願い!目覚めてっ!!」
ズッパーーーーーーーーーーーーーン!!!
「ガバッ!!ゲバッ!オゲッ!!ガワワワア!!」
やめでぐれえぇーーーー!
これ以上されたら、一生目が覚めなくなっちゃうがらーー!!
「ちょっと!勇者!鈴木を殺す気!?そんなことさせないわよっ!?」
フェイズの大きな翼が俺を覆い隠す。
「鈴木から離れろ悪魔っ!!」
「あんたがどっか行きなさいよっ!!」
俺を背中から抱きしめるフェイズ。
跳ね返されるような柔らかな感触と、フワリとした花の甘い香りがする。
「ぐぬぬ~~~ぅぅう!!!!」
スピューーーーーーーン!!
スピューーーーーーーン!!
ガキーーーーーン!!ガキーーーーーン!!
怒り狂った明がブリトー砲を乱射し始めた。
ソーセージが翼に当たるたび、鋼鉄に弾丸が当たったような轟音がする。
悪魔の翼は、外側は鋼鉄のように硬く、内側は柔らかくて暖かい。まるで、外はサクサク、中はふわふわの美味しいメロンパンのような構造になっている。
「ぐぬぅ!!私の鈴木に触んないでっっ!!!」
「あんたの物じゃないでしょ!!!」
ブリトー砲では、拉致が開かないと踏んだ明は、素手でフェイズの翼をこじ開け、俺を抱きしめた。
後ろからはフェイズ、前からは明に抱きしめられる。
ギチギチギッチ!!
ギュウギュギュギュ!!
前後に花と言いたいところだが、背骨が軋む音により、人間界一の筋力と魔界屈指の筋力が、俺を締め付けていることに気がつく。
アナコンダに締め上げられるネズミの気持ちがわかった。
今ならネズミと分かり合えそうだ。
「ふふっ、貴方達。その辺のエンターテイナーより面白いわね。」
最盛期の町工場くらい騒がしかった教室が、急に静まりかえった。
血で圧迫されて飛び出そうな眼を、声がした方に向けると、教室の出入り口に金剛さんが立っているのが見えた。
さっきまで争っていた俺たちに、呆気を取られていた生徒達は、大統領の演説でも始まったかのように、金剛さんの方を一斉に向いた。
財閥の娘として、ただ産まれただけではない。
世界中の人々を統一するカリスマ性を金剛さんは持っていると確信した。
「野蛮な言動ばかり。気品の欠片もない者達が女王だなんて、地球委員会も随分と質が落ちたようね。」
「きひん…?ってなんだっけ鈴木!?」
「ふっ!私はともかく、リムの気品は本物よ?」
「鈴木くん、あの人誰なの?」
「げほっ!!人間界で一番権力のある財閥の娘!金界の女王、金剛 彩さんだよ!げほっ!」
だんだんと俺を締め上げる力が強くなっていき、今にも上半身が爆発しそうなのだが、リムさんは俺の現状に気が付いていない。
「あ、あの人が鈴木くんの彼女なの!?ど、どういう所が好きなの!?」
恋話してる場合じゃねーーーんだよ!!
「いや、違っ!!げほっけほっ!死ぬっっ!!ちょっとリムさん助けてもらえませんか!?」
「え!?あ!フェイズ!勇者!いい加減にして!鈴木くんが苦しそうよ!!仲良く鈴木くんを二等分すればいいじゃない!」
「俺はケーキじゃねーーんだよ!!」
だが、このまま2人とも締める力を上げていったら、俺はケーキのように真っ二つになるだろう。
「ヒャッラララ!!!てめーら!どうせウチのお嬢が一番女王らしいんだ!鈴木にお似合いなのはお嬢だ!諦めやがれ!!」
突然フェイズの机の中から、キャシーが出てきて、身内びいきなことを言い出した。
だが、超絶凡人の俺と、麗しく厳格な騎士のようなフェイズは、俺が王でなければ、絶対にお似合いではない。
「ん!?おかしい!私の方が鈴木に絶対ふさわしいよっ!?つまり!私が一番女王らしいってことだよっ!?」
明は俺にお似合いなのは自分しかいないと思っている。
つまり、一番俺とお似合ということは、自分が一番の女王なのだと思っているらしい。
お前は美人だし運動能力霊長類最強ではあるが、絶対に女王ではないぞ。
「ふっ!アンタに鈴木とふさわしいところがあるとしたら雌ってことだけよ?私の方が一番の女王に決まってる。」
「その通りだぜ!!ヒャッラララ!!」
明に張り合うように、真っ赤な翼のフェイズも自分が一番の女王だと言う。
「ふふふ、貴方達、それは先ほど私が否定したことじゃないかしら。気品どころか知性までないようね。」
「彩オ嬢様ガ一番ノ女王ダ。」
微笑を含み、自信に満ちた表情の金剛さん。
気品に関しては金剛さんの右に出る者はいないだろう。
三者三様の女王候補のせいで、そもそも女王がどういう人を指した言葉なのか分からなくなる。
「…あの!じゃあ、私も!!私も一番の女王よ!!だから、仲間外れにしないで欲しいの!!」
そして、最後にリムさんが一番の女王だと名乗りをあげた。
確実に彼女に関しては、せっかく来た人間界でも爪弾き物にされたくないから、とりあえず、イベント参加しちゃえ!みたい感じだろうな。。
スポットライトのように、日差しが強まるなか、四者四様の女王が睨み合う。
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