第23話 熱くて美味しい弾丸
「「オハヨ!オハヨ!オハヨ!」」
もう朝か…?
目覚ましの音でも雀の囀りでもない音が俺を起こした。
「う~~ん…」
背伸びをしながら眼を開けると、紫色でソフトボールだいの雪だるまのような生き物が俺の周りを囲っていた。
見覚えがある。フェイズさんの従えている悪魔たちだ。
「お、おい!俺の家で何してんの??」
「女王様ガ!鈴木ヲ!コッソリ観察シロッテサ!!」
「「「シロッテサ!!」」」
「悪魔たちよ。こっそりって指令に、もう少し真剣に取り組んだ方がいいぞ…」
「「「???」」」
一同に二頭身の体を少し曲げ、首をかしげる悪魔たち。
愛らしい悪魔を見ると、勝手に家に侵入したことを叱る気にはならなかった。
「さて、今日も学校だ。。」
「「ソウダ!ソウダ!」」
「「学校ダ学校ダ!!」」
悪魔たちが体から数匹離れないが、気にせずに学校に行く準備を着々と済まして家を出る。
マンションのエントランスに着くと、昨日に引き続き、街の住人が俺を捕まえようと集結していた...
「我々は!彼を捕まえなければならない!!建物の老朽化、高齢化に伴う介護費、私の娘の養育費!この町にはお金が必要だぁーー!!」
「「「そうだーーーー!!」」」
「お母さんも言ってやってください!」
「あんた!大人しく出てきなぁ~!昔っからアンタは物分かりの良い子だったよ~!」
町長さんを筆頭に集まった集団は、俺を捕まえることが、あたかも正義のように演説している。
「おいおい、俺は立てこもり犯かよっ!?あの人母さんじゃないし…え、誰?」
「「鈴木困ッテルノカ?」」
俺の体にくっついていた悪魔たちが、エントランスの陰から動かない俺を心配し始めた。
「困ってるよ。これじゃあ、学校に辿り着ける気がしない。」
「「オトリヤッテヤルヨ!」」
「おとり!?どうやってなるつもりだよ。」
「「ヨッコラ!」」
悪魔たちは俺の体から離れて重なりだし、水飴のように溶け合って一体となった。
ぬろぬろぬろ…
…形を繕い始めた紫の水飴は、あっという間に俺と瓜二つの人間となった。
背格好はもちろんのこと、肌や服装などの細部まで俺と全く一緒だ。
これなら影武者として申し分ないだろう。
ただ、全身紫色でなければだが…
「あの…完成かな?」
「完璧ナ完成ダ!!」
「ちょっと紫色過ぎないかな?」
「我ラノ禍々シサヲ象徴スル最高ノ色ダ!」
「い、いや、そうじゃなくて…」
「ジャア!後ハ任セロ!」
眼をキラキラさせ、胸を張ってマンションから出ていく悪魔。
その堂々たる背中は、これ以上の言葉は野暮だと語っている。
「おい!!!出てきたぞ!!いいか!賞金は捕まえた奴が一割!あとは山分けだぞ!」
「「「「おおぉーーーーー!!!!」」」」
「あれ?なんか肌の色変じゃないか??」
「きっと、この軍勢を前に青ざめてるんだろ。」
「いや、青ってより紫じゃ…」
パタパタパタ!!
「おい!!鈴木のやろう!飛んで逃げる気だぞ!!」
ドドッドドドドドドドッ!!!!
100憶円を前に人は、肌の色どころか、人間が飛んで逃げることすら、どうでも良くなるようだ。
「す、凄い、エネルギーと一体感だったな。政治家と戦った方がいいんじゃないかな。」
俺は悪魔のおかげで、無人の通学路を通り、無事に学校までたどり着くことができた。
人助けをする優しいフェイズさんの側で育った悪魔は、こんなにも優しく育つんだな。
ペットは主人に似るとは、よく言ったもんだ。
「おはよう!リムさん!」
「え!?///」
「ん?」
「おお、お、おはようございます///」
酷く動揺している…もしかして、挨拶されたのが初めてってわけじゃないよな…
「お、おはよう。鈴木…クン!///」
「あ!おはようフェイズさん。今朝はありがとう。悪魔たちがいたおかげで助かったよ!」
「え!?わ、私は!そ、そんな命令知らないけどね!?観察してとか言ってないからね!?」
フェイズさんも、まるで緊張しているかのように声が上ずっている。
「そ、それより、鈴木クン!あなたの彼女はどの人なの??そろそろ締め上げようと思うの!」
「フェイズさん。俺のことは呼び捨てでいいよ?あと、彼女はいないぞ。」
「じゃ、じゃあ!私のことも呼び捨てで呼んでほしい!不平等なのは好きじゃないから!」
突然俺の手をとり、顔を急接近させるフェイズさん。
今度は俺が動揺と緊張で声が上ずる。
「え!?う、うん!わかったよ!ふぇ、フェイズ…」
「ありがとう。。鈴木///」
「あ、あの!私も…」
ズッパーーーーーーーーーーーーーン!!!
「いっだぁぁああ~~~~~~~~~!!!」
「「鈴木!?くん!?」」
「あっちぢぢぢぢぃぃいいーーーーーー!!!」
「何!?鈴木のこめかみが突然爆発したわ!?」
「フェイズ!?鈴木くんどうしちゃったの!?死ぬの!?死んじゃうの!?」
「わっかんないわよ!?人間ってこめかみ爆発する体質なのかしら!?」
「そんなわけないだろっ!!!」
なんだ!?突然右のこめかみを弾丸が貫いたような激痛が!!
しかも、凄く熱い弾丸だ。こめかみに当たって砕け散った弾丸が、お灸のように顔に飛び散り、俺を悶え苦しませる。
「鈴木っ!その悪魔達から離れて…」
「…明!?」
「「勇者!?」」
俺の教室の出入口で、大量のブリトーを持った明が、こっちを睨んでいた。
右手で握りしめているブリトーは、包装が破れて、トマトソースが滴り落ちている。
昨日、俺が経験と思って食したソーセージ入りのブリトーと同じ物だ。
ん!?まさか…
「い、今の弾丸はソーセージか!?」
明の怪力で瞬発的に潰されたソーセージが、弾丸のように放出されたのだ。たぶん。
「鈴木にとりつく悪魔めっ!少しでも動いたら打ち抜くよっ!」
明はブリトーの発射口をリムさんとフェイズに向けた。
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