第22話 カレーに入れても美味しい属性
「ゴボッ!き、貴様ぁ!一体この俺に何を…ゴボッ!」
「え!?あれっ??効いてる??」
血反吐を吐くスタークは、凄まじいダメージに面食らっている。
だが、攻撃した俺自身も困惑していた。
この世で一番凡庸なパンチが、鉄のように硬いドラキュラに、こんなにも緑色の血を流させている事実に。
え!?てか!血の色気持ち悪っ!!草の血でも吸ってんのか。こいつ。
「す、鈴木!あんた実は凄い強かったの!?」
「いや。強くも弱くもないはず…」
「じゃあ、なんでスタークが血反吐を吐くのよ!?」
「え、演技じゃないかな…」
「迫真過ぎない?そんな陽気なことする奴じゃないし。やっぱり鈴木が強いんじゃない??喧嘩したこととかないの?」
「喧嘩??一回だけしたことがある…な。」
思えば殴り合いの喧嘩なんて、小学校の時以来していない。
しかも、相手は明でボロクソに負けた記憶がある。
俺の排便をふざけて覗こうとした、アイツが絶対悪いのにな。
「くっ!!貴様!十字架でも握っていたのだろう!!卑怯者め!!」
「そうか!スタークの弱点をついたのね!」
「いや、生身なんだけど。」
「な、なんだと!?」
「え!?十字架なし!?」
なんだ、この視力テストにコンタクトなしで挑んだ人みたいな会話。
「では、ニンニクか!?わかったぞ!聖水を体に塗ったのだろう!?」
「そうなの!?ニンニク食べてたの!?」
こいつ、嫌いな食べ物を言うみたいに、軽く自分の弱点を言うな。
「よもや、シャキシャキの玉ねぎではあるまいな!!」
え。ドラキュラって玉ねぎ苦手なのか。知らなかったな。
あれ。待てよ。玉ねぎって俺のあだ名じゃないか?
どこまで皮を剥いても皮しかない玉ねぎと、どこまでいっても凡人でしかない俺は酷似している。
ま、まさかな…
「ゴボッ!はぁはぁ。吾輩にこんなにも醜態を晒させるとはな。」
やべっ!スタークが立ち上がりそうだ!
「うらぁーーーあああ!!!」
「ま!待て!!くっ!まだ足が動かぬ!!」
ボガッ!!
俺の拳がスタークの左頬を捉えた。
「ぐばぁーあ!!…きっ、貴様…覚えておけ。必ずしや殺してやるぞ。人間…」
意識が飛びそうなのか、白目をむいて後ろに仰け反ったスタークは、羽織っていた暗闇色のマントに吸い込まれるように消えていった。
最後にはマントも消えて、俺とフェイズさんだけが残る。
「…ほ、ホントにあのスタークに勝っちゃった…」
信じられないといった表情で俺を見つめるフェイズさん。
まぁ、勝ったのは嬉しいけど、、
たぶん、俺の勇気と執念のこもった拳が、スタークを打ち砕いたわけではない。
俺の拳に玉ねぎ属性の力がこもっていたから勝てたのだ。
しかし、人間界の王なのに属性攻撃が玉ねぎって酷くないか?
「フェイズさん大丈夫?」
「ひゃい///!!」
フェイズさんに怪我をしていないか聞くと、背中に氷でも入れられたような声で返事をされた。
「ん?どっか痛いの?」
「う、ううん///大丈夫!!鈴木…クンは!?」
フェイズさんは、少し頬が赤くなっている。叩かれてはいなかったはずだが…
あれ。てか、俺のこと呼び捨てじゃなかったっけ。
「何ともないよ。拳がちょっと痛いだけかな。」
「え!?!?大丈夫!?見せて!!」
目にも止まらぬ速さで俺の右手をとり、手の平と甲を、まるで占い師のように、じっくり見始めた。
「あ、あの!大丈夫だよ!そこまで痛くないからさ!」
「そ、そう///じゃあ、よかった~//」
「フェイズさんも髪の毛痛くなかった?」
艶かしい金髪に少し触れると、フェイズさんの漆黒の翼が、突然真っ赤になりだした。
「フェ!フェイズさん!!翼が!?」
「きゃっ///!!違うの!!これは…!いやっ!!」
「ちょっ!これ!どうなってんの!?」
「ヒャッラララ!!悪魔族は照れると翼の色が変わるんだぜ!?」
いつの間にかキャシーが、俺の横で笑っていた。
悪魔族は照れると翼の色が変わる…?
本当だとしたら、フェイズさんは今のやり取りの、どこで照れたんだ?
鋼の精神と肉体を持ち。その齢にして世界一不運な魔王と、家族を一身に背おう騎士のような美少女が、今の超絶普通の会話のどこで!?
「お嬢は何かを守ってばかりで、守られた経験なんてないっすもんね~~!!好きになっちまうのも無理はねーぜ!ヒャッラララ!!」
「キャシーーー!!!そんなんじゃないっつーーの!!」
「でも、お嬢は白馬の王子様に危機を救ってもらうような恋愛が理想だったろ!?」
「ち、ち、ち、違うわ!!」
「シンデレラのテープ擦り切れるまで見てたじゃねーすか。」
「キャシー!!!!殺す!!!」
トットットトットット!!!
キャシーは大慌てで昇降口から逃げ出していった。
「鈴木!!…クン。い、今の全部嘘だからーーー!!」
ッズッバーーーーーン!!
フェイズさんは顔を翼と同じように真っ赤にして、キャシーを追って飛び立った。
翼が放課後の夕陽と溶け合い、一人の人間の美少女が空を飛んでいるように見える。
「魔界にもシンデレラって流通してるんだな…」
今の一件について、原稿用紙10枚分くらいの感想が出てきそうだが、直ぐに言葉にできたのは、シンデレラの伝播状況への感想だった。
ふわふわっ
まだ状況の整理がついていない頭で昇降口を出ると、空から俺の頭の上に茜色の雪が…いや、羽根が一つ降ってきた。
「ははは…」
ガラスの靴より、誰の物かわかりやすい落とし物に、少しだけ笑みがこぼれた。
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